ちょっと前のお話 ①
私がバドミントンを始めたのは小学4年生の時。
もちろん彩羽がきっかけ。
もともと同じ小学校だった私達は彩羽が途中から転校してきたこともあって、特に仲がいいわけではなかった。
話すこともなかったし彩羽もそれを望んでいるようには見えなかった。
そんな夏のある日、私達は先生の気まぐれでバドミントンをすることになった。
私は今でもそのときの感動を鮮明に覚えている。
小さな体を生き生きと動かしてシャトルを追いかける彩羽は普段の生活から想像できないほど、キラキラと輝いていた。
「すごい……。」
しなやかに伸ばされる足、綺麗に曲がる背、初めて知った本当のシャトルの音。
その時モノクロだった私の世界が一瞬にしてカラフルに変わり始めた。
「彩羽ちゃん!!」
私は授業が終わるとすぐに彼女を呼び止めた。
「彩羽ちゃん、すごいね!ホントにすごいっ!」
クラスでは物静かで感情を表に出すことのない彼女はどこか冷たい雰囲気を醸し出していて、誰も話しかけることはなかった。
「……ありがと。」
でもちがった。
恥ずかしそうにうつむいた彼女は耳まで真っ赤にして、ほんの少し笑ってみせた。
クラスの誰も知らない、彼女の顔。
私だけが知ってるほんものの彩羽。
この子と友達になりたい。
幼い私は幼なじみの青空と一緒に、友達大作戦と言って彩羽の友達になろうと必死に努力し始めた。
移動教室の時も休み時間も、静かな彩羽の雰囲気に負けないように話かけ続けた。
そんな私の気持ちが伝わったのか、彩羽もわたし達のことを受け入れ一緒にいてくれるようになった。
「彩羽、私ね。」
あれは確か夕方、もう外も暗くなり始めた学校の図書室。
もう誰もいなくなっていて、薄暗い部屋には私の声だけが響いた。
「私っ、彩羽と一緒に……」
「ヤバっ、塾の時間忘れてた!」
それはずっと伝えたかった私の思い。
だけどそれを遮るように彩羽は席をたった。
「急がないと間に合わないよ!」
大急ぎで学校を飛び出す彩羽を追いかけて、セミが鳴く並木道を全速力で駆け抜けた。
このままでいいのかな?
私は彩羽ともっと一緒にいたい。
私はもっと彩羽を知りたい。
「彩羽っ!!」
家までの遠い道のりも、いつもは怖くて近寄れない散歩中の犬も、すべてがちっぽけに思えた。
「お願い、聞いて!私、もっと彩羽と一緒にいたい!彩羽とバドミントンがしたい!」
「……。」
突然立ち止まった彩羽に走った勢いで後ろから抱きついた。
「お願い……私にバドミントンを教えて。」
小さな肩を震わせて涙をこぼし始めた彩羽はポツリと言葉をこぼした。
「私も睦月ちゃんと一緒にバドミントンがしたい……。」
そしてわたし達の日々が動き始めた。