プロローグ
蒸し風呂のような暑さの体育館、滝のように流れる汗と、速く、規則の正しい息遣いが耳のすぐそばで聞こえる。
小刻みに揺れる体も、どこまでも必死に追いかけるこの足も、たった一つのこの小さなシャトルを、相手コートに落とすためだけに動いている。
それが、バドミントンなんだ。
単純、単調。でもいつだって変わっていて、いつだってド肝を抜かれる。それが君の教えてくれた世界にたった一つのスポーツだった。
どんなことも気にせずにただ君の言う通りに全てを全力でやってきた。永遠に続くノック練習も長い長い基礎打ちも苦しい試合も全て……。
だって、君がいなくちゃ今の私はきっとこんなところにはいないから。
大きな体育館。初めて立ったその場所はとてつもない威圧感を放っていたし、空気はどこよりも濁っていた。
そんな場所でも、君が隣にいる、そう思うだけで緊張なんか飛んでっちゃったよ。だから私はあの試合で優勝することができたんだ。
ねえなのに……。
なんで?なんでなの?
彩羽……。
集中治療室で人口呼吸器をつけられている私の大好きな君はもう私のとなりに居た人ではなかった。
青白い顔、痩せ細った体。
ねえ、一緒に全国大会に行ったよね?
高校に行ったらまたペア組もうって言ったよね?
なんでこんなところにいるの?
勉強は?受験は?
ねえ、彩羽、答えてよ!
突然に大きな音で鳴り始めたアラームが彩羽をこの世から連れ去っていく。
何も出来なかった。
私を見つけてくれた。本当の私を見つけてくれた。
そんな彩羽に私は何もしてあげることができなかった。
静かに香る49日の線香の香り。
まだ暑さの残る秋の頭。
私にバドミントンを教えてくれた、私の大切な人が15歳で死んだ……。