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夢幻  作者: 甲斐柄ほたて
5/5

5.0

†††


「おはよう、白田」

「おはよう、月橋」

学校へ向かう道の途中で月橋と会った。まあ、いつものことだ。

「どうしたよ、ちょっと元気ないんじゃないか?」

もう感づかれた。やはりこいつは侮れないな、と思う。

「まあ、色々とな」

「また喧嘩でもしに行くのか?」

「喧嘩・・・・・・にならなきゃいいんだけどな」

「そんな危なっかしいことやめちまえよ。毎度言ってるけどさ」

「毎度言ってるけど、無理」

「やっぱりな、全く。・・・・・・ほどほどにしとけよ?」

「ああ」


†††


「国語わかりにくいよなー、なんであんなにわかりくいんだろ」

「そりゃあ、言ってることと板書に書いてあることが違ったらわかりにくいだろ」

「ああ、だからか」

カオルと月橋は仲良く席をくっつけて話している。さらに、

「それにちょっと声も聞き取りにくいし」

「そして、ちょっと体臭がきついしねー」

と女子二人が口をそろえて言う。カオルは国語の先生を少し応援してあげたくなった。

この女子は水谷と林。大きい方が水谷で、小さい方が林。カオルたちは月橋の周りの席を四つくっつけて座っている。カオルの隣に月橋、カオルの正面に林、月橋の正面に水谷。

「次は・・・・・・数学だな」とカオル。

「お昼の後に数学とか・・・・・・、拷問じゃん」と水谷。ぐでーっと机にのびる。

「眠くなっちゃうよねー」と林。

「俺は昼の後に歴史が一番きつい」と月橋。きついどころかその授業を丸々眠っていることをカオルは知っている。皆も知っている。

「そんなこと言っていつも寝てんじゃん」と水谷。

「いかに俺といえど睡魔には勝てん」と月橋。

「どんだけ睡魔強いんだよ・・・・・・」とカオル。

「そーいえばドクはいつでも起きてるよねー?どーやってんの?」と林。

「え?起きれるだろ」とカオル。

ドクというのはカオルのあだ名だ。白田→白→ホワイト→ドクター・ホワイト(?)→ドクター→ドク

というわけである。

「「「起きれないよ!」」」

月橋、水谷、林の三人が冷ややかな目をして言った。

「ちっ、味方ゼロかよ・・・・・・。あ、ちょっとトイレ」とカオル。

「レディ二人の前でトイレなどと言うな!」と月橋。

「そーだそーだ、トイレとか言うな、トイレとか!」と水谷。

「お前の方が大きな声で言ってるじゃん」とカオル。

「トイレ!トイレ!」と言うのは林。

「・・・・・・おい月橋、こいつらのどこがレディなんだ?」とカオル。

「・・・・・・性別?」と苦しげに月橋。

「・・・・・・だってよ、お二方」とカオル。

「うっせえ、バーカ!」と水谷。

「ほめたって何も出ないよ!」と林。

こいつらがレディだったらうちの妹もレディだな、と思いつつカオルはレディ二人の攻撃を受けている友人(月橋)を置いてトイレに行った。


†††


「・・・・・・いつ森に行くんだ?」

カオルが昼休みにトイレに行くと椿が話しかけてきた。

周りには他の生徒はいない。それでもカオルは小さな声で返事をする。

「今週の土曜だ。今日『お参り』するぞ」

そう言うとカオルは友人たちの待つ教室へと帰っていった。


†††


その日の帰り、カオルと椿は猫町へと行った。『お参り』、つまり狐にあらためてギンパチのことを聞き出すためである。


「確認になるが、ギンパチは烏の森に住む猫の長だ。まあ、これモンだな」

そう言って狐は頬につーっと線を引くように指を動かした。やくざもの、ということだ。

「それは知ってる。奴はどうして断病の鎌を持ってるんだ?」

そう聞いたのはカオルだ。

「特に理由は見つからなかった。おそらくは『名の有る品』の収集目的だろう」

そう聞いてカオルがどこかほっとしたように肩の力を少し抜いたのを椿は横で見ていた。

「・・・・・・断病の鎌、の効果は?」

椿はカオルから目を離して事務的な質問をする。

「知らん。断病というのだから病を断つのだろう。それ以上はモノを調べてみないと」

「役立たずめ」

「ふん、なんとでも言うがいいわ小童が。貴様らが鎌を盗ってくればいいだけの話であろうが」

狐がばはーっと煙を盛大に吐き出す。

「・・・・・・それ以外は?」

狐が煙を吐いて黙り込んだのを見てカオルは質問した。

「無い」

「・・・・・・少なくないか?」

椿もやや呆れ顔で言う。

「・・・・・・実は無くはない。奴の友人、という者の名前はわかった」

「それで居所は?」

「わからん」

「「へ?」」

「わからんと言ったのだ!」

狐は面白くなさそうにキセルをくわえたままそう怒鳴った。

「数日でそんなにほいほい情報が出るものか。いつもいつも無茶な注文をしおって」

「それにしたっていつもの調子じゃないな」

「・・・・・・相手が相手だからな」

狐はじっくりと据えた目をした。何かあったのだろうか。

「やくざ者を調べるのは骨が折れる、とか?」

椿が狐の言わんとしたことを推測してつぶやいた。

狐は渋い顔で面白くなさそうに黙ってうなずいた。

「わしの口からこれ以上は言えん。あとはこいつを探してくれ」

狐はそう言うと紙をぴらっとカオルに寄越して奥に引っ込んでしまった。


カオルが紙を見ると『マタキチ』とだけ書かれていた。


†††

水曜日。


「水曜か・・・・・・」

カオルはカーテンを開け朝の光を前進に受けながら日めくりカレンダーをめくって眠そうにつぶやいた。

「あと三日だな」

「今日を除けばな」

カオルはまたベッドに倒れ込み、二度寝するか否かの危ない橋を渡り始めた。

「眠るなよ?」

カオルは忠告した椿の腰にささった刀をぼんやりと見つめた。

「・・・・・・それ使ったらどんだけ楽かなあ・・・・・・?」

「使わないと言ったのはお前だ。俺はいつでもこの刀を振るってやるぞ?」

しかしカオルは寝返りを打って椿にそっぽを向いた。

「いや、まだいいや」

「そうか・・・・・・」


しばらくして寝息を立て始めたカオルの頭を椿がどついたことは一応書いておこう。


†††


「学校ってめんどうだよなあ・・・・・・」

「それ今更口に出して言うことかあ?」

「正にそうね」

「そのとーりっ!」

順に月橋、水谷、林の発言だ。

四人は今屋上でランチタイムという絶対魔法を展開している。実にリアくさい。

「学校に来ている時間も情報収集に使いたいからか?」

午前の偵察から帰ってきた椿は一切空気を読まずに現れた。

四人で昼食を取っているときに正面の水谷と林の間からにゅっと顔を出して質問してきたのだ。

しかしそんなことでカオルは口に含んだお茶を吹き出したりはしない。幽霊が見えることも、いきなり出てくるのも、もう慣れっこだ。

カオルは簡潔に貧乏揺すりにカモフラージュしたモールス信号で返事をする。

<ソウダ>

「面倒と言えば次は体育よ」

「あっ、そうだった。忘れてた」

「月橋はホント時間割覚えないよね・・・・・・」

「確かにそーだね、不便じゃない?」

「代わりにこいつが覚えてくれてるから大丈夫」

「ほほう、じゃあ俺がお前に間違った時間割を教えればお前は詰むワケか・・・・・・」

「容赦ないな・・・・・・」

これは椿だ。

「鬼かお前は!」

これが月橋。

<ウルサイ ミツケタノカ>

合間に椿に返事をする。椿は首を振り、立ち去っていった。

俺はしばらく椿の背中を目で追うが林たちの声でそれをやめた。

「ドクはホントに毒があるよねー」

「普通は時間割くらい覚えてるんだけどね・・・・・・」

林と水谷がははは、と俺たちを笑う。

「俺に毒なんかねえよ」

「へっ、お前なんか毒だらけだね!ドクドクだね!」

「・・・・・・お前それけなしてるつもりなのか?」

「ドクってどくどくだったの!?」

「林・・・・・・?なんで反応してんの?」

いきなり脇からつっこんできた林に俺はできるだけソフトに対応した。

「実は私もどくどく・・・・・・だったりしてね」

「は、はは、ははは・・・・・・」

一瞬だけ黒いオーラとぎらりと光る眼光を見た気がしてカオルはひきつった笑みを浮かべた。

林とはけっこうなつき合いになるのだが未だに底の知れない女だ。


†††


「マタキチ・・・・・・ね。とっとと見つけないとな」

「何も土曜までにギンパチの所に行こうとしなくても、延期すればいいだろ」

そんなことを言う椿をカオルは鋭い目でにらんだ。

「俺たちには悠長に遊んでる暇は無い。マタキチが見つからなくてもギンパチの所には行く」

カオルのきつい口調に椿はむっとして言い返した。

「学校に行ってるじゃないか。アレはいいのかよ?」

「・・・・・・いいんだよ」

カオルの答えはいつもよりも歯切れが悪かった。


†††


「よう」

「おや、カオルに椿の旦那、よくおいでなすった。ささ、どうぞ」

カオルと椿は猫町の一角にある一軒の居酒屋に来ていた。これで六軒目だ。

猫町、というのは妖怪、幽霊、その他諸々人間には見えざる者の巣くう町のことだ。少なくともカオルの住んでいる周辺ではそういった場所を猫町と呼んでいる。つまり、猫町の住民たちが「ここは猫町だ」と言っているのだ。

「いや、今日は人を捜してるんだ。悪いけど食っては行かない」

「ああ・・・・・・。そうですかい、残念です。で、探してる人ってのは?」

「マタキチ、だ」

これは椿だ。

「マタキチ?」

店主のイタチは、知らないなあ、と言って頭を振った。

「まあ、わかったらお知らせしますよ」

「そうか、迷惑かけたな」

カオルと椿は食い下がることなく大人しく店を出た。


「あいつは嘘をついている」

歩きながらカオルは椿に言った。

「何?どこでだ?」

「マタキチを知らないって言ったときだ。椿今日のところはもう帰る。明日は店主辺りを調べておいてくれ」

「あいよ」


†††


「カオ兄ー」

ノックの音とともに妹の声が聞こえた。カオルは自室のテーブルで色々と書いていたのを中断せずに返事をした。

「ああ、開いてるぞ」

その言葉で妹がドアをがちゃりと開けた。カオルは顔を上げずにドアの側に突っ立ったままの妹に言う。

「何の用だ?」

「何の用もなくては兄の部屋に来てはいけないと!?」

「何で感嘆符付けるんだよ。あと、用がないなら出てけ」

「ひどい!でも用事ならあるもん!」

カオルは手を止めて妹の顔をあきれ顔で見た。

「何だよ、早く言えよ。用件」

妹は兄の冷たい態度にむっとした顔をしたが、次の瞬間、かわいらしい笑顔を全開にして、

「お兄ちゃん、ゲームしよ?」

と言った。

「出てけ!」

間髪入れずカオルは叫んでいた。

「何よっ!へん、カオ兄なんか勉強のしすぎで目え悪くなっちゃえ!」

「何だよ、そのリアクションに困る悪態は!」

「ふん!カオ兄のばーか!ばーか!」

そう言い捨てて妹は自分の部屋に戻っていった。

「兄妹というものはいいものだな」

すぐ側でにやにやと笑いながらそう言う椿が憎らしかったのでカオルは、

「ふん!」

と盛大に鼻を鳴らした。





次もカオルのパートです。

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