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エマーランドにようこそ!  作者: 北郷 信羅
セクション2 ドSな後輩
9/28

2,ボーイ

 ある日の昼休みのこと。

 「なんか、騒がしいな」

昭裕は教室の外がざわついていることに気付いた。

「これは嬉しい方の騒ぎだな」

探偵ぶって悟は言うが、昭裕はスルー。

「見に行ってみよ!」

夏海が言った。この頃彼女は昭裕・悟と昼食を共にしていた。


 廊下には3人の他にも大勢の生徒が出ていた。そして彼らの視線の先にあったのは……

「……あれ、誰だ?」

1人の少女が、数人の男子生徒を後ろに引き連れて歩いてくる。

「キレイだなぁ……!」

悟の素直な感想は、周りの生徒たちも持っていたようで、皆うんうんと頷いた。

小柄なその少女は、細身ですらりとしており、背は低いのにモデルのような印象を多くの人間に持たせた。髪はストレートの黒。胸の辺りまでとどくほどの長さで、艶がかっている。滅茶苦茶もぱっちりとしており、顔のパーツも整っている。悟が思わず口に出したのも頷けるほどに、少女は綺麗だった。


「……でもあんな美人、うちの学校にいたかな……?」

悟はそう続ける。

「うーん、どうだろう……」

昭裕は首を捻る。体型に見合って、彼は顔の広い人間ではない。

「……でも、いたら今さら騒がないと思うけど」

「あ、そうだよなぁ……」

2人が話している間に、少女は徐々にこちらに近づいてきた。

「誰に用なんだろ……?」

廊下のざわめきは収まらない。

「!」

少女が立ち止ったのは、昭裕たちの前だった。

「え、俺!?いやー、まいったなぁ……」

勝手に1人で盛り上がる悟。

「あなた……」

少女は顔をあげる。

「新田夏海先輩ですよね?」

彼女が声をかけたのは夏海だった。

「違う、ニーターパンだよ」

夏海は答える。

「おいっ、ややこしいから」

昭裕が止めた。

「……そうですね、ニーターパンですよね」

少女は妖艶な笑みを浮かべる。

「ねえ、後ろの人たちはなんなの?……もしかして君のボーイ?」

「え……?」

夏海の質問に少女は目を見開く。

「またエマ語だろ、それ」

いい加減彼女のキャラクターに慣れてきた昭裕は、冷静に指摘する。

「全然意味分かんないぞ」

「そう?」

夏海が少女に問うと、少女はこくりと頷いた。

「『ボーイ』っていうのはね、……ほら、あれだよ、あれ……」

「いや、分かんないから」

昭裕が言っても、夏海は「あれ」を繰り返す。

「……もしかして、正しい言葉の方忘れたの?」

「使わないからさぁ……あ!思い出したっ!」

夏海は手を打ち合わせる。

「パセリっ」

「パセリ?」

「……あれ?違った?」

「意味通じないだろ。お前、『あなたパセリですか?』なんて訊くか?」

「可能性はゼロじゃない!」

夏海は力をこめて言う。

「……いやあの、俺は別に『甲子園行けますか』的なこと訊いたわけじゃないんだけど」

「もしかして、『パシリ』ですか?」

ここで少女が口を開いた。

「あ、そう!それっ」

夏海が叫ぶ。

「……うーん、『パシリですか』も普通は訊かんぞ」

昭裕が冷静に突っ込む。

「いやいや、この人たちはパシリとか、そういうんじゃありませんよ」

少女は手を振って否定した。

「あー、そなの」

「そりゃそうだろ!」

悟が話に割って入る。

「この子がそんな……」

「パシリなんて、そんな甘いものじゃないです」

「……へ?」

悟は、少女の雰囲気が変わったことに気づく。

「これは奴隷です」

少女は満面の笑みで言った。言い切った。

「……」

ざわついていた廊下が静まり返る。

「へー、奴隷かぁ」

普通に応答したのは夏海だけである。

「いやいや、違うよなっ、ジョークだよなっ!?」

思いきり動揺している悟が問う。

「私、嘘はつきませんよ」

少女は笑顔のまま答える。

「いやいやっ!別に無理しなくても……」

「……ウザいなー」

少女が呟いた。十分に悟に聞こえる声で。

「……」

「あっ、ごめんなさい!」

少女はぺこりと頭を下げる。

「つい本音が出ちゃいました」

「ぐッ……!」

悟は膝をついた。

「悟……大丈夫か?」

昭裕が声をかける。

「昭裕、俺……」

「さすがに心折れたか……?」

「俺……こういうのも悪くないような気が……」

「帰ってこいィッ!」

「君、何て言うの?」

夏海が相変わらずのマイペースな調子で少女に尋ねた。

「私は1年の渡辺綾香(わたなべあやか)です」

綾香も相変わらずの笑顔で答える。

「私になんか用あるんだよね?」

「そうなんです。私、新田……じゃなかった、ニーター先輩のこと見てました」

「キャラ濃っ!」

悟が叫んだ。

「Sな上にレ……」

「言うなっ」

昭裕が止める。

「え、レ……何?」

夏海が問う。

「ほら、食いついちゃったじゃん」

……と、ここで綾香が動いた。

「!」

夏海に顔を寄せる。

「おいおいおい……!」

さすがに昭裕も絶句する。

「……!」

次の瞬間、夏海の表情が固まった。

「また来ますね」

綾香はまたあの妖艶な笑みを浮かべると、踵を返して去っていった。

「……ニーター?」

昭裕が声をかけても、彼女はしばらくフリーズしていた。

今回の話に出てきたエマ語「ボーイ」は、江角 稚さんに教えていただきました。ありがとうございましたm(_ _)m

「エマ語」は引き続き募集中です。詳しくはSIG5の活動報告をご覧ください。

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