6,タコス
学園祭の準備は、まさしく嵐のようだった。
配役を決めるとなれば、主人公は俺だ死体はお前だと悟が叫び、大道具作るとなれば、勝負しろと悟がチャンバラを始める。当然のように大荒れ。原因がただ1人にあることは、今更触れるまでもない。
そうこうしているうちに、学園祭当日はやってきた。
「いやぁ、緊張するねー」
夏海が言う。しかしかく言う彼女の演劇での役は死体である。
「お前台詞とかないじゃん」
当然、昭裕が突っ込む。ツッコミの台詞はほぼ彼だと思っていただいて結構。
「何言ってんの、照明」
「役割で呼ぶなっ」
「じゃあツッコミ」
「だから役割で……って、俺はツッコミ担当じゃねぇっ!」
と、突っ込んでいることには気づかない昭裕である。
「死体だよ?動いたら終わりなんだよ!?」
夏海は勢いこんでそう言う。
「死体は始めっから終わってるけどな」
「大丈夫だ、ニーター」
微妙に噛み合っていない2人の会話に入ってきたのは悟である。
「あっ、探偵さんはそう思う?」
夏海は嬉しいそうに訊く。
「もちろん!」
探偵役に半ば強引についた悟は、自信たっぷりに答える。
しかし自己推薦していたとは言っても、普通ならこんなチャラくてテキトーな探偵など誰も認めない。それなのに彼がこの役につけたのは、彼がクラスの中心的存在になりつつある証拠なのだろう。
「よーし!なんかできる気がしてきた!私全力で死体演じるよ!」
「死体なら、むしろ力抜いた方がいいと思うけど」
昭裕は控えめに言ってみるが、
「じゃ、練習しよっ!」
やっぱりスルーされるのだった。
3組の演劇は、結果から言えば大成功だった。何しろ、あの「ニーターパン」が作った劇である。それだけで宣伝になっていたし、悟を始めとするキャストたちの演劇力も観客たちを惹きつけるには十分だった。
「みんなお疲れ!休憩しよう!」
学級委員の一声で、昭裕たちは後半組と交代した。
「ニーター、何か食う?」
悟が声をかけた。
「あ、私タコス!」
「……え、何て?」
「タコス!」
と、ここで夏海は昭裕を見る。
「……何?」
「タコス」
「え、タコスって、メキシコ料理だったっけ……?」
「違う」
「あれ、違った?」
「タコスはタコをお酢につけた……」
「それ酢ダコじゃねーか!」
「ナイス!」
夏海は親指を立てる。
「あ、ツッコミが欲しかったのね。……って!」
ここで昭裕は大きく息を吸う。
「なんで俺にツッコミ求める!で学園祭で酢ダコなんか売ってねーよ!」
「ツッコミ=総和の公式知らない?」
「知らねーよ!」
「あとな、昭裕」
悟が言った。
「売ってるぞ、酢ダコ」
「売ってんの!?」
昭裕は完全に息切れである。
「去年、タコ焼き作ってるクラスあってさ、でも途中でその素が切れちゃったらしくて。で、余ったタコ勿体無いからって調理室にあった酢で酢ダコ作って売ってたんだよ」
「なんだそりゃ」
「今年もタコ焼き作ってるところあるからさ、去年やってたやつがいれば、今年もやるんじゃないかな」
「行こ!」
夏海はノリノリで昭裕と悟の腕を引く。
「あ、おい!」
気がつけば、2人の側には夏海がいた。
今回の話に出てきたエマ語「タコス」は、江角 稚さんに教えていただきました。ありがとうございましたm(_ _)m
「エマ語」は引き続き募集中です。詳しくはSIG5の活動報告をご覧ください。