4,授業間瞑想
その日、帰宅した昭裕は、再び「エマーランド」を検索してみた。当然、該当はナシ。
「だよな……」
しかし昭裕は諦めなかった。
(『エマーランド』でダメなら……)
生来、昭裕は好奇心の旺盛な人間である。しかも、彼の高校1年生としての1年間はあまりにも平凡だった。
よって、今の彼の「知りたい」という欲望は、これまで以上に強くなっている。何としても「ニーターパン」の正体を暴きたいと昭裕は思っていた。さながら、推理小説の主人公のように。……尤も、見た目も頭脳も普通の高校生である彼がそのように華々しく活躍できるはずもないが。第一、これはそういう小説ではない(怒)
「……多分、これだ……!」
昭裕は何度か検索をかけて「それ」を見つけた。……いや、正確に言えば、そう推測される場所を見つけた。
(あとはこれを使って本人を問い正せば……!)
昭裕の気持ちは、非常に高ぶっていた。
♦ ♦ ♦
高ぶっていた、はずなのだが。
(な、何て言えばいいんだろ……)
翌日の昭裕は、いつも通りの煮え切らない男に戻っていた。
くどいようだが、昭裕は好奇心旺盛な人間だ。……だが、度胸はない。黒の組織に立ち向かうとか、絶対無理。であるからして、ニーターパンを問い正す勇気もないのだ。
しかし今日の昭裕は運がいいらしい。
「どーしたの、総和?」
頭を抱える彼に、夏海の方から声がかけられたのだ。しかも、「どーしたの?」である。話を切り出すのに、これだけいいチャンスはないだろう。
「なんか、さっぱりパプリカって顔してるよ?」
たまに若干変形する「さっぱり」シリーズに対するツッコミは飲み込んで、昭裕は勝負に出た。
「エマーランド!」
「んっ?」
夏海は首を傾げる。
「エマーランド……は、もしかして、ひ」
「さっぱりピーマン」
彼女は昭裕の言葉を途中で遮った。
「いや、だからさ……。エマーランドには、正式名称があるだろ?」
言わせたくないということは、真実に違いない。昭裕は少しだけ(いや、本当に少しだけ)自信がついて、強引に話を続ける。
「正式名称?」
夏海は再び小首を傾げた。
「そいつは初耳ボイスだ」
「いや、それは嘘でしょ。俺の推測ではエマーランドは」
ガンッ、という大きな音が、教室内に響いた。
「に、ニーター?」
昭裕は戸惑い気味に声をかける。
夏海は勢いよく机に突っ伏したまま、動かない。
「え、ちょっ、ニーター!?」
周りの視線も痛くなってきて、昭裕は焦る。クラスの人気者を泣かせたとあっては、彼のこれからの立場がなくなってしまう。
「ニーター、悪かったって!」
しかし、彼女の反応はない。
そうこうしているうちに、チャイムがなった。しかし夏海は動かない。教師が教室に入ってきた。しかし夏海は動かない。号令がかかった。しかし夏海は動かない。授業が始まった。しかし夏海は動かない。
授業が始まって20分。夏海のキャラを理解している教師でも、さすがに不審に感じたらしい。彼女に声をかけた。
「新田さん、大丈夫ですか?」
しかし夏海は動かない。
「ニーターさん?」
一応そっちの名前で呼んでみるあたり、この教師はよく分かっているようだ。しかし夏海は動かない。
「ニーター……」
昭裕も再び声をかけてみる。……と、
「え……!?」
突っ伏している彼女の顔の辺りから、血が流れている。
「ニーターッ!」
彼女の周りのクラスメイトたちも慌てる。
「新田さんッ!」
教師が駆け寄ってきた。
「ん……」
そこでようやく、夏海が反応を示した。
「おぉ……」
そして何故か、感嘆したように声をあげる。
「すいません、授業間瞑想してましたっ」
顔をあげた夏海は、鼻血を流しながら言った。
「……は?」
教室にいた、ほぼ全員が言った。
「授業間瞑想」
夏海はあっけらかんと、同じ言葉を繰り返す。
「いや寝てたんかいっ!」
一番最初にその意味を理解したのは、昭裕だった。
「んでもってどんだけ思いっ切り突っ伏してんだよ!守れよ鼻!」
「え?あっ、鼻血……」
「今気付いたのかよっ!」
夏海は照れ笑いしながら、ポケットティッシュを取り出す。
「いやあ、暗いと眠くなるんだよー」
「だからって鼻を強打しといて寝るか普通……!?」
昭裕は呆れながら言った。
結局この授業は、夏海の「授業間瞑想」事件によって残りの時間を完全に潰されたのだった。
今回の話に出てきたエマ語「授業間瞑想」は、江角 稚さんに教えていただきました。ありがとうございましたm(_ _)m
「エマ語」は引き続き募集中です。詳しくはSIG5の活動報告をご覧ください。