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エマーランドにようこそ!  作者: 北郷 信羅
セクション1 電波なクラスメイト
3/28

3,さっぱりピーマン

理解できない。昭裕はそう思う。もちろん、新田夏海……通称(というか自称)ニーターパンのことである。


その名前のこともあるし、住んでいる所も「エマーランド」と偽装。他人のことは原型を留めていない愛称(ニックネーム)で呼ぶ。さらに数々の「エマ語」……。全く不可解であった。


♦ ♦ ♦


「1年の頃からああなの?」

昭裕は悟に問う。


4時限目が終わり、昼休みが始まっていた。生徒たちはあちこちで固まり、昼食を摂っている。昭裕も悟の席に移動していた。


「そうだよ」

悟は頷いた。

「全部最初っからああだった」

「……どうなってんだろ、あの人の頭ん中」

昭裕は呆れ顔で呟く。

「別にどうなっててもいいっしょ。『総和さん』も毎日楽しませてもらってるだろ?それでいいじゃん」

悟は戯けてそう言った。

「あのなぁ。……そういえば、悟は何て呼ばれてんの?」

昭裕は気になって訊いてみる。

「俺か?へへっ、俺はなぁ……」

悟はそこで間をあけた。

「……」

「……」

「……」

「……いや、長過ぎだろ、間」

「……」

「いやもういいから!昼休み終わっちゃうからっ!」

「大丈夫だよ。小説の中の時間なんてなんとでもなる」

「その発言はやめなさい」

昭裕はやんわり悟を注意する。

「行数も稼げるし」

「やめなさいっ!」

それは確かにいいね。

「作者が賛同してどうする!」

失礼。


♦ ♦ ♦


仕切り直して……。再び、昼休みの教室。

「……で、結局何なの?」

疲れた表情で昭裕は問う。

「俺はな……パイだ!」

「パイ?」

「おうともさ」

悟はノートを取り出し、そこに「円周率」と書いた。

「……それ、いいのか?」

「無限に続く小数は男のロマンだ」

「さっぱりわかりませんが」

昭裕は呆れた様子でそう返す。

「お前もまだまだだなぁ」

悟は何故か偉そうに言う。

「なんか腹立たしいが……まあ、それはもういいよ」

昭裕は話を戻す。

「とにかく、彼女はずっと『ニーターパン』なんだね?」

「ああ。……あー、いやでも、中学以前はわかんねえや。あいつの幼馴染はクラスにいなかったし」

悟は弁当の中身をかきこみながら言った。

「ふうん。……遠くから来たのかな?」

「だから、『エマーランド』だろ?」

悟が茶化す。

「それ何処だよ!?」

昭裕は彼を睨む。

「さぁ?ググってみれば?」

「それで出てりゃあ、苦労しねえよ」

と、ここで昭裕は、自分の失言に気付いた。しかし時既に遅し。

「え、何お前、本気(マジ)で調べたの?」

悟が少し驚いた様子で訊く。

「……俺が知らないだけだと思って」

昭裕は仕方なく白状した。

「いやいや、『エマーランド』なんてあるわけねえだろ」

悟は笑う。

「あれはニーターが作った国だよ、どう考えたって」

「まぁ……俺もそう思うけど」

昭裕は素直に頷く。

「でもだったら何でそんな国作ったんだろ?」

「……お前、」

悟は昭裕をじっと見つめる。

「そんなにニーターのこと知りたがるなんてまさか……」

「いやいや、そういうんじゃねえって」

彼の指摘に昭裕は首を横に振った。

「そうか?」

悟は残念そうに言う。

「黙ってりゃ普通に可愛いと思うけど」

「お前……俺をからかいたいだけだろ……」

昭裕は迷惑そうに悟を見返した。

「……でもさ、そんなに知りたいなら、本人に訊けばいいじゃん」

悟は、今度は不思議そうにそう言った。

「訊いたよ」

昭裕は溜息をついた。

「そしたら」

「『さっぱりピーマン』だよ」

不意に背後から声がした。声の主は当然、

「……ニーター」

昭裕はがっくりと肩を落とす。

「よっ」

悟が箸を持ったままの右手を軽く挙げる。

「よっ」

ニーターも同じ挨拶を返して去っていった。

「……あんたら、気が合うんだな」

昭裕はげっそりとした様子で呟く。

「お前は深読みし過ぎなんだよ」

悟はまた偉そうに言った。

「……ところで彼女はさっき何て?」

「わかんねえって」

昭裕は方杖をついて答える。

「え?」

「俺の言ってることの意味がわかんねえってさ」

彼はそう言って、また溜息をついた。夏海には、昭裕の話を真面目に聞く気はないようだった。

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