5,いと暑しんぐ
多少(?)のトラブルはあったものの、バーベキューは楽しく行われた。そして日は暮れ、街明かりの届かないこの辺りは薄暗くなり始めた。
「えぇぇっ!?風呂入らないの!?」
叫んだのは悟である。この頃やかましい男である。
「どこにお風呂があるってのよ!?」
風音が言い返す。
「あんたがドラム缶でも担いできたなら話は別だけど!?」
「いやあるさ!」
悟は食い下がる。
「ただでさえ、海じゃなくて山に来てんだ!ここで温泉でも湧いてなきゃ、読者に厳しすぎる!」
「だから『読者』とかやめろって」
昭裕が半分投げやりに突っ込む。
「作者よ!温泉をっ!」
しかし悟は無視して叫び続ける。てか無理だから。
「ここだと、あってもちょっと入られないかな……」
奈菜の(トドメの)一言で、悟はがっくりと肩を落とした。
「寝よ寝よ」
風音が手をひらひら振って話を終わらせる。
「みんなー、テント割り決めよ」
「そうだな」
悟があっという間に立ち直って言う。
「あんたはもう決まってるでしょーが!」
風音が怒鳴る。テントは2人用が3つ。悟と昭裕がテント割りに関係ないのは言うまでもない。
「私、悟先輩と同じでもいいですよー?」
綾香が妖艶な笑みを浮かべて言う。
「えー。お前はやだよ」
悟が目を逸らしながら言った。もちろん血祭りにあげられた。
「じゃ、おやすみー」
風音が言って、テントの中に入る。
「うぅ……いと暑しんぐ」
彼女とペアになった夏海が呻く。
「あは、何それ。エマ語……だっけ?」
風音が寝袋を広げながら言う。
「そだよ。とっても暑いって意味だよー」
夏海が説明する。
「すご、古語と英語が合体してるんだ」
風音は笑う。
「……」
不意に、夏海は風音をじっと見つめた。
「え、何……?」
「……し、総和」
「総和?……ああ、悟か」
もちろん、風音は真面目に会話している。
「違うよ」
「え、あっ、昭のことか!」
「うん」
「……それで、昭がどうかしたの?」
「……あの、なんか総和、弧度と話す時」
「ちょっと待って」
風音が制止する。
「ん?」
「弧度って?」
この2人の会話はなかなか前に進まない。
「君のこと」
夏海は風音を指差す。
「あっ、私か!」
「うん」
「えっと、それで?」
「……あの、弧度と話す時、総和の様子変じゃないかって……」
夏海の声は尻すぼみになる。
「あー、確かにね」
風音は頷く。
「……まあ、心当たりはあるかな」
「あるの!?」
夏海は身を乗り出す。
「多分だけどね」
風音は遠い目をして答える。
「……私と昭は、中学の時」
「入っちゃダメだよ!」
突然、奈菜の声が聞こえた。
「えっ、まさかあの悟……!」
風音はテントを飛び出した。
「あっ、ちょっと待って……」
夏海としては、ここで待ては辛い。しかし彼女が声を上げた時には、風音はテントの外に消えていた。
「奈菜大丈夫!?」
テントを飛び出した風音は叫ぶ。
「あ、熊谷さん……」
奈菜はテントの外にいた。
「私は全然……。でも小林君が……」
「へ?」
「いッてェェッ!」
悟の悲鳴が聞こえた。
「何なに、どういうことっ!?」
風音は混乱している。
「闇討ちですよー」
悟たちのテントから出てきた綾香が言う。
「え、何、テントに入ろうとした……っていうか入ったのは綾香なの!?」
「えへ、そうですよ」
綾香はバットをぶん回しながら笑う。
「なんだ、私てっきり悟が奈菜襲ったのかと……よかった」
「よくねぇッ!」
テントから出てきたボロボロの悟が叫んだ。