2,なんとかこーとら
「昭、おはよー」
「……あぁ、おはよう」
明るく挨拶する風音に対して、昭裕はどこか力のない挨拶を返す。
「総和、弧度(=風音)に対する時なんか変……」
夏海が呟いた。
「色々あったんだよ」
悟が言う。
「色々って……?」
「おや、興味あります?」
夏海の反応に、悟がにやにやしながら問う。
「うん……」
夏海は目を泳がせながら答えた。
「本人に訊けよ」
「え」
「昭裕本人に訊けよ」
「~ッ!」
夏海は大きく頬を膨らませる。
「ひどいっ」
「……お前も変わったなぁ」
悟はしみじみと言う。
「そんなこと……ない」
夏海はふくれっ面のまま、そう返す。
実際には、夏海も自分のその反応が平生の自分のそれとは、どうも違うことに気づいている。そしてそのような感覚が例の告白(?)の時からだということにも。
「それより、教えてよ」
「悪ぃけど、やっぱり無理」
悟は言う。
「それは昭裕の問題だから……」
そう続けながら、悟は手を挙げた。
「昭裕ーっ」
「うん?」
「ニーターがお前に言いたいことあるって」
「え!?」
夏海が慌てる。
「何?」
昭裕が訊いた。
「さっぱりピーマンだよっ、円周率(=悟)!」
夏海は叫ぶ。
「おい悟、どうなってんの?」
昭裕が困惑した様子で訊く。
「あれー?おかしいなぁ」
悟は首を傾げる。
「まぁいいや。ニーター言わないんなら俺が言うよ」
「うぇっ!?」
夏海の返答はもはや悲鳴。
「昭裕、」
「いや!私は別にっ」
「みんなで中間テストの勉強しない?」
「!?」
悟の言葉に夏海は派手にずっこけた。
「円周率ィッ!」
「うわ、ニーターがずっこけた……」
昭裕は呆気にとられている。
「すげー違和感」
「それいいんじゃない?私も混ぜてよ」
風音が話に入ってきた。
「おう。奈菜ちゃんも呼んでやろうぜ」
悟はそう言ってから夏海の肩をぽんと叩き、
「生かせよ?」
彼女の耳元で囁いた。
◆ ◆ ◆
「だからそうじゃないって言ってるじゃん!」
風音が叫ぶ。
「騒ぐなよ。慌てずに1つ1つやってこうぜ」
悟が言う。
「あんたが言うなっ!」
中間テストのために図書室で開かれた勉強会は、ほとんど悟のためのものになっていた。ぶっちゃけ、風音と奈菜はかなり高い成績を修めていたし、昭裕と夏海もそこそこ勉強はできていたのだ。
「くそっ、英語なんてやってられっか!」
悟は教科書を投げだす。
「俺はエマ語勉強する!」
「そんな汎用性の低い言語学んでどうすんだよ……」
昭裕が呆れ顔で言う。
「分かった、任せて!」
夏海が言った。
「私がエマーランド語のなんとかこーとらをお教えしましょう!」
「ぐ、早速エマ語か!……うーん」
悟は腕を組みながら首を捻る。
「真髄……どんなものか、ってことだろ」
昭裕があっさりと翻訳する。
「あー!おいっ、言うなよ!」
悟が叫ぶ。
「てか、ホントお前、よく分かるな……」
「さすがに慣れるよ……」
昭裕は肩を竦ませる。
「うん、総和ならエマ語検定2級くらいまではいけるんじゃないかなー?」
夏海が言った。
「いや、嬉しくないからそれ」
昭裕は軽く突っ込む。
「とにかく!あんたはまず英語を勉強すればいいのっ!」
風音が悟の制服の襟を掴んで机に引きずり戻した。
「ぐっ……!」
「……」
夏海は昭裕をちらりと見る。
「……What are you worried about?」
「え?」
昭裕は首を傾げる。
「今何て?」
「いいよ、何でもない」
夏海は目を逸らした。
「Never give up. Do you have anything that you want to ask?」
ハッとして、夏海が声のした方を向くと、奈菜と目が合った。彼女は微笑みながら小さく頷く。
「え、ちょっと、何で安藤さんまで英語で話してんの?」
昭裕が困惑しながら訊く。
「英会話の練習。北田君も聞き取れるようにならないと……大切なこと訊き逃しちゃうよ?」
奈菜はそう答えた。
「ね、ニーターさん?」
「……あっ、うん」
夏海はこくこくと頷く。
「まぁ確かに、リスニング落としかねないなー……」
昭裕は呟く。
「まだ時間はあるからね。大丈夫だよ」
奈菜はどちらにともなく言った。