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エマーランドにようこそ!  作者: 北郷 信羅
総まとめ 天然な幼馴染
22/28

1,古トモ

「大丈夫だよ」

少女が言う。彼女のポニーテールが軽やかに弾んだ。

「……」

少年は何も言わずに俯いている。

「辛いのは分かるよ。私も辛い時あるもん。でも、そういう時でも、アキがいるから……」

「……」

「ね、頑張ろ!そのうち絶対上手くいくようになるよ」

「……ごめん」

少年は呟いた。


◆ ◆ ◆


「……どうしたんだよ、昭裕」

登校途中の道すがら、悟は訊く。今朝会ってからずっと、昭裕が放心状態なのである。

「……いや」

昭裕はそう呟くだけである。

「あ!もしかしてあれか、お前ニーターのこと……」

「あー、そんな話あったなー……」

昭裕はボーっとしたまま呟く。

「違うのかよ……。じゃあ何でお前はそんなんなってんだ?」

悟は腕組みしながら昭裕を見る。

「ああ……」

昭裕は空を仰いだ。

「ちょっと夢見たんだ、中学ン時の」

「……あー、そういうことね」

悟はそれを訊くと、もうそれ以上詮索することはしなかった。


「よし、ホームルームを始める」

着席する生徒たちを見ながら、智次が言った。

「……前に、そこのお嬢さんには出て行ってもらおう」

もちろんその「お嬢さん」とは、綾香のことである。

「えー、いいじゃないですかぁ」

綾香は食い下がる。

「よくないですぅ」

悟が言う。彼は着席する綾香の真後ろに立っている。

「やだ、後ろに立ってるとか、ストーカー?」

「誰がストーカーだっ!そこは俺の席なの!」

悟が叫ぶ。

「じゃあ、交換しましょう、私の席と」

「何で俺が落第しなきゃなんねーんだよ」

「どーせ、頭よくないんでしょう?もう1回1年生やっといた方がいいんじゃないですかー?」

「こいつ……ちょっとは可愛げ出てきたかと思ったら」

と、突然バットでぶん殴られる。

「やだなー、可愛いなんて、元からじゃないですかー」

照れ笑いを浮かべながら、綾香は言う。

「で。何で今俺ぶたれた?」

「愛情表現❤」

悟をがしがし踏みつけながら綾香は答える。

「痛いっておい!痛いって……愛が重いィッ!」

悟の悲鳴が教室にこだます。

「……まあ、冗談はさておき、」

綾香は教室の後方に目をやる。

「え、冗談?……それはそれで悲しいような」

悟が呟く。

「席なら、空いてますよ」

「え」

またも、教室には空席があった。

「あれ、今日誰か休み……って、この件前もやったな……」

昭裕が言う。

「ああ、学園モノじゃ定番の転校生だ」

智次が言った。

「だから。そういうもの言いは不穏なんでやめてくださいって」

昭裕が冷ややかに突っ込む。

「先生、」

悟が挙手した。

「うちのクラスにばっか転校生来るのはどうしてですか?」

「作者の都合だ」

智次は真顔で答える。

「おいィッ!」

昭裕が叫ぶ。いや、間違ってはいないんだけどね。

「それはともかく、転校生だ」

智次は無視して、淡々と話を続ける。

「またお前らのせいで時間がかかった。どっかの教師にナンパされてるかもしれないな」

奈菜が顔を真っ赤にして下を向いた。

「よし、入ってこい、熊谷」

「熊谷?」

昭裕と悟が同時にオウム返しした。

「は……、初めまして」

緊張気味に教室に入ってきたのは、黒髪ポニーテールの女子生徒だった。背が高く非常に細く見える。

「熊谷風音です。不束者ですが……」

「不束者?」

智次が怪訝そうに言う。

「え、あれ?違ったっけ??……えーと、とにかくよろしくお願いしますっ」

風音は深々とお辞儀をした。深すぎてもはや前屈運動にしか見えないが。

「よう、風音。やっぱお前か」

悟が声をかけた。

「え、あっ、悟!?」

風音の表情が柔らかくなる。

「久しぶりー、えっと、御無沙汰?」

「……相変わらずみたいだな」

悟は呆れ顔で言う。

「知り合いですか?」

綾香が悟の頬を引っ張る。

「いだだッ!おいッ、そういうの普通、袖を引くとこだろ!てか帰れよ教室にっ!」

「幼馴染なの、小学校からの」

風音が説明した。

「あれ、『小学生からの』かな?」

「見ての通り、ちょっと抜けてる(・ ・ ・ ・)やつなんだよ」

悟が言った。

「誰が老けてる(・ ・ ・ ・)のよ!」

風音が言い返す。

「ほら。……なぁ、昭裕?」

悟の突然の振りに、昭裕はびくりと肩を震わせる。

「え、昭裕……?」

風音は悟の視線を追って―――昭裕を見つけた。

「昭……!」

「……おう」

昭裕は苦笑しながら、小さく手を挙げた。

「あっ、総和も2人の古トモなの?」

夏海が問う。「古トモ」とは、幼馴染のことだろう。

「うん……」

昭裕は、何故か居心地悪そうにしながら頷いた。この時はツッコミもなかった。

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