5,ロベロベ
それから数日後。何故か教室を訪問する男子はいない。
「今日も誰も来ないねー」
昼休みに夏海がタコさん(ウィンナー)をぱくつきながら言った。
「うん……」
奈菜が不安そうに頷く。因みにこの2人、この頃はよく昼食を共にしている。
「『嵐の前の静けさ』じゃなきゃいいんだけどね……」
昭裕が彼女の心情をズバリ言った。
「『嵐』って言やぁ……」
悟が教室の出入口付近を見やる。
「アイツもあれから見かけないんだが」
「正弦(=綾香)?」
夏海がズバリ……言ってんだか言ってないんだか。
「ああ。なんか逆に気味悪ィ」
「この頃のお前、彼女にイジられるのが日常になってたからなぁ……」
昭裕が半分呆れた様子で言う。
「人をドMみたいに言うなっ!」
「セクション0。ドMな親友」
夏海が真顔で言う。
「やめろ!俺がいつドMなんて言った!?」
悟が夏海を揺すりながら叫ぶ。
「でもお前……あの子来てから既に2回、それっぽい発言してんぞ」
昭裕が指摘する。
「違うって!俺はーーー」
「あ、来た」
夏海が呟いた。
何時の間にか教室の出入口には、数人の男子生徒たちが集まっていた。
「北田昭裕はいるか!?」
生徒の1人が叫んだ。
「え」
昭裕が固まる。
「何昭裕、お前いつから男にモテるようになったの?」
悟が訊く。
「ンなわけあるかっ!」
昭裕が音速のツッコミ。
「え、総和、男子とロベロベなの?」
夏海が首を傾げる。
「セクション−1。ゲイな主人公」
「やめろォ!」
昭裕が叫ぶ。
「あとloveをローマ字読みすんなっ!」
「お前が北田昭裕か?」
男が苛々した様子で訊く。
「え、あー……そうですが」
昭裕は目を逸らしながら答える。
「ちょっと来い」
「はあ」
昭裕はやむなく男たちの後に続いた。
連れていかれた先は、本章2回目の校舎裏である。
(うわ……何かヤバイ感じ……)
昭裕は言い知れぬ不安を感じる。
「北田昭裕、」
振り返った男が言う。
「俺と勝負しろ」
「へっ?」
昭裕は思わず間の抜けた声を漏らす。
「俺と勝負しろッ!」
男は拳を振り上げた。
「ちょっ、ちょっと待ってください!」
昭裕は慌てて叫ぶ。
「なんだ」
「あの、何で俺に勝負しろなんて言うんですか?」
「何でだと……!?」
別の男が怒気を含んだ声で言う。
「お前から奈菜ちゃんを取り戻すために決まってんだろ!」
「はい!?」
「しらばっくれても、無駄だからな」
他の男たちも手首をゴキゴキと鳴らす。
「いや、ちょっと待った……」
昭裕の「待った」は受け入れられなかった。