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エマーランドにようこそ!  作者: 北郷 信羅
セクション3 魔性な転校生
15/28

1,麓現象

綾香の喧嘩事件から、数日が経過した。あの事件以来、彼女による夏海イジリはなくなり、クラスは平穏な日常を取り戻した。……ただ、

「こんにちはー」

綾香は今も度々昭裕たちのクラスを訪れていた。そしてその度に例の不良グループと鉢合わせになり、クラスメイトたちをハラハラさせていた。

「お前来ない方がいいって」

悟が言う。

「……ん?誰でしたっけ?」

早速綾香は毒を吐く。

「だっ……」

悟は倒れかかる。

「ああ、そうだ、思い出しました」

「ふう……。まったく、冗談きついぜ」

なんとか壁に寄りかかりながら悟は言う。

「私を助けようとしたけど、何の役にも立たなかったクズさんですね」

言うまでもないが、悟は崩れ落ちている。

「朝からそれやったら、さすがに悟壊れるぞ」

昭裕が言う。そう、今はまだ、朝のホームルーム前の時間なのである。訂正しよう。度々どころか、綾香は以前よりも頻繁にこの教室に現れるようになっていた。ついでに言うと、その度に悟に毒を吐いている。

「あ、昭裕……」

悟がなんとか起き上がって言う。

「うん?」

「俺、こういうのも悪くないような気が……」

「またかよっ!」

昭裕は呆れ顔で突っ込む。

「おーい、お前ら席着けー」

そうこうしている間に、智次が教室に現れた。クラスメイトたちは素早く着席する。……綾香も。

「いやいやいや!そこ俺の席だから!」

綾香に対する時は、完全にツッコミに転職している悟が叫ぶ。

「お前1年だろ?さっさと自分のクラス戻れ」

智次も注意した。

「他のクラス担任と揉め事になるの、面倒なんだから」

「ああ、やっぱりそういう……」

昭裕が呟く。智次が注意するのは自分に都合の悪い時しか有り得ない。

「えー。でもうちの担任、私が何しても大抵のことなら許してくれますよ」

綾香はそう言って、舌をちろりと出した。彼女のクラス担任にも、同じようにしているのだろう。

「あー、じゃいいや」

智次はあっさり承諾。

「いやダメでしょ!」

悟が叫ぶ。

「俺はどーすりゃ……」

「向こう空いてますよ」

綾香は一番後ろの席を指差した。

「……へ?」

確かにその席は空いていた。

「え、今日欠席いないと思うけど……」

「うわ、麓現象?」

夏海が謎の発言をする。

「いや、頂上(・ ・)現象じゃなくて超常(・ ・)現象だから!山の上じゃなくてもチョウジョウゲンショウでいいからっ!」

昭裕が的確に突っ込んだ。

「チョウジョウゲンショウなわけあるか。転校生だ」

智次が言った。

「え!?」

クラス全体がざわめく。

「お前らがつまらんコントやってるから、紹介が遅くなったんだ。転校生廊下で何文字分待たせる気だ?」

智次は呆れ顔で言う。

「いや、先生、そういう発言は控えてください」

昭裕が指摘する。

「そんなことはどうでもいいだろ。とにかく、転校生を紹介する。安藤、入れ」

智次の呼びかけで、教室に転校生が入って……こなかった。

「……先生、俺には見えないのですが」

悟が言う。

「正直者にしか見えない」

智次がそう返した。

「いやここでボケないでくださいよ!」

昭裕が突っ込む。

「安藤、どうした?」

智次が少々声を大きくして呼びかけた。すると、

「すいません!ちょっと……」

と、返事が返ってきた。

「うん?どうした?」

智次は廊下の様子を見に向かう。生徒たちも彼の後に続いた。

「……何やってんすか」


智次が訊いた相手は年配の教師だった。

「あ、いやっ、この子が教室の外にいてね、ホームルームの時間なのにどうして廊下にいるのかと……」

教師は慌てた様子で言い、

「ああ!私もホームルームがあったんだった!」

と、そそくさと隣の教室に入っていった。

「……で、実際のところは?」

智次は、今度は転校生の女子生徒に訊いた。

「あ、あの……。さ、最初はそんな感じでしたっ」

黒髪ショートヘアの転校生は先ほどの教師を庇うようにそう答えた。整った顔立ちをしているが、しかし外見とは別に、何か不思議な魅力を感じさせる少女である。

「最初は分かった。……その後は?」

智次はあくまで追求する姿勢。

「あ、もしかしてエンコ―?」

綾香がずけずけと言う。

「何、エンコン?」

「いいから。君出てくるとややこしくなるから」

話に入ろうとする夏海を昭裕が止める。

「違います違います!」

転校生はふるふると首を横に振って否定した。

「ただ、どこから来たかとか、好きなものとか訊かれただけですっ」

「ナンパじゃん」

綾香がにやにやしながら無遠慮に言う。

「難破?どこの船?」

「やめなさいって」

再び出てこようとする夏海を、やっぱり昭裕が止める。

「教師にナンパされるなんてついてないな。まあ、あの人そっちの気あると思ってたけど」

智次が呆れ顔で言う。

「矢島センセは女子高生ナンパしないんですかー?」

またも綾香が余計なことを訊いた。

「年下に興味はない」

「じゃあ、熟女好き?」

「お前はもう教室帰れ」

面倒くさくなった智次は、綾香を教室の外に追い出した。

「えー?いいじゃないですかァ」

「ダメ。メンバーチェンジ。安藤イン。お前アウト」

智次は綾香に宣告する。

「……さて、安藤、みんなに紹介するから……」

「それで、どうしてこっち来たの?」

「え、ええと……」

智次が綾香の相手をしている間に、今度は悟が転校生に近づいていた。

「何やってんだ、お前?」

智次が訊く。

「え、いいじゃないっすか。友達になろうと思っただけっすよ。……あ、あとご趣味は……」

……と、突然悟の頭にバットが叩きつけられた。

「――――っ!」

犯人は綾香だった。

「って!何すんだお前!?」

悟が叫ぶ。

「なんかウザかったんで」

綾香に反省の色はない。

「なんかウザかったでぶん殴られてたまるか!死ぬわっ!」

「小説だから死にません」

「そういう話ここですん……」

もう一撃が悟に入った。

「帰りまーす」

気絶した悟を尻目に、綾香は自分のクラスに戻っていった。

「……今度こそ、転校生を紹介する。……安藤」

「あっ……、はい」

転校生は黒板に名前を書いた。

「安藤奈菜です。よろしくお願いします」

奈菜はぴょこんと頭を下げた。

「じゃあ、逆行列(インバース)だね」

夏海が嬉しそうに言う。

「なんでやねんっ!」

クラス中のツッコミがこだました。


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