7,むっちゃ
「何で助けたんですか?」
綾香は悟に問う。
綾香たちは教室の片付けをしていた。倒れた机や椅子……ならまだいいのだが、窓ガラスが割れ、破片があちこちに散らばっている状態はいただけない。
「何でって、ニーターが助けたいって言ったからだよ」
悟は事も無げに言う。
「ニーター先輩が……?」
「ああ。俺は放っておいてもいいって言ったんだけどさ、あいつが器の『チビい』人間にはなりたくないって」
綾香は夏海をちらと見やってから、再び悟を見る。
「何で助けたんですか?」
「へ?いやだからーーーー」
「助けたくなければ、助けなければいいんです。それなのに何であなたはわざわざ来たんですか?」
「ニーターは放っておけないから」
「先生を呼びに行く方でもよかったのに、何で」
「あー!うるせーなー!俺がどうしようと俺の勝手だろ!?」
悟は綾香に背を向ける。
「……」
綾香はしばらく彼の背を見つめる。
「……私、昔は結構虐められてたんですよ」
「え」
悟は振り返った。綾香はガラス片を箒ではきながら話し続ける。
「私昔から可愛かったから、モテたんです」
「……何、自慢話?」
悟は鼻白む。
「ちょっと可愛子ぶってお願いしたら、絶対みんな言うこときいてくれて」
「いや、はしょれよ、そこ」
「近所でもちょっとした……」
「もういいから!」
悟が制止する。
「あ、ごめんなさい」
綾香は謝る。
「あなたには縁のない話でしたね」
「ぐッ……!」
悟は膝をつく。
「あ、また悟が傷付いてる」
机の整頓をしながら昭裕は言う。
「なんか、むっちゃ仲良しな感じだよねー」
夏海は嬉しそうに言う。
「むっちゃ?」
「むっちゃ」
「めっちゃじゃなくて?」
「むっちゃ」
「意味同じ?」
「むっちゃ似てる」
「あ、そう……むっちゃ……」
「むっちゃ」
「……で、私があんまりにも可愛かったから、」
綾香の自慢話は、今の今まで続いていた。
「周りのブスどもが腹立てて、わたしに嫌がらせしてきたんです」
「……お前それ、可愛い以外の問題の方が大きい気がするぞ」
悟は呆れ顔で言う。
「あ、誤解しないで。私昔は普通だったんですよ」
「今は普通じゃないって認めてるんだな……」
「まあとにかく、そんな状況が続いたんで、ある時私ブチ切れて反撃したんですよ。そしたら、スゴく気持ちがスッキリして……」
「だからってここまでドSになるか、普通?」
「だって気持ちいいんですもん」
綾香はうっとりした様子で言う。その姿はやはり可愛いらしかった。
「……ハァ」
悟は溜息をつく。天は二物を与えないとは、よく言ったものである。
「……」
綾香は掃除用具を片付けてから、悟の方を向いた。
「……ありがとうございました」
「え」
悟が顔を向けると、綾香は笑顔でぴょこんと頭を下げた。
「役には立ちませんでしたけど」
「おいっ、一言多いッ!」
綾香は悪戯っぽく舌を出してから、教室を出ていった。