6,プレッシャー求めてる
雨はますます強くなり、遠くの方で雷鳴も聞こえ始めた。
「これ以上俺らをキレさすな」
男の1人が、泥まみれになった綾香を見下して言う。
「…………な」
綾香の口が動く。
「何だ?」
「うるせえな」
彼女は男たちを睨みつけて言った。
「あァ!?」
男は綾香の胸倉を掴む。しかし彼女は男を睨み続ける。
「まだ痛い目見足りないらしいな……!」
「いや、そんなもんでいいだろ」
突然の声に男たちが振り返ると、割られた教室の窓からこちらを見ている悟がいた。
「女の子大勢で囲んで虐めてるってのは、あんまり見映えのいいもんじゃねえぞ」
「こいつはもはや悪魔だぞ」
不良グループの男が言い返す。
「魔女だってサキュバスだってジャイ子だって女だよ」
悟は窓から外へ飛び出す。
「あ痛って!ちょっと刺さったよこれ!」
「お前、この女の味方するのか?」
「まあね。俺可愛い女の子に弱いんだ」
悟は冗談めかして言いつつ不良グループの中に入っていき、綾香の胸倉を掴んでいる男の手首を掴んだ。
「離してやれよ」
「……」
男は黙って手を離した。
「よーし、じゃあもうこの件についてはここまでにして……」
言いかけた悟の横から、綾香がバットで男を殴った。
「てめェッ!」
男たちの怒りが再燃する。
「おいィィッ!人がせっかく穏便に済まそうとしたのにっ……」
悟が頭を抱える。
「私は、こんな奴らに負けない……!」
綾香が唸るように言った。
「なら、諦めるまで叩きのめすしかねえな」
「ちっきしょー……!」
悟は言いながらも、男たちの前に立ち塞がった。
「邪魔だ、どけッ!」
男たちは苛立った様子で叫ぶ。
「頼むよ、許してやってくれ」
「できるかっ!こっちが何もする気なくてもぶん殴ってくるような女だぞ!」
「もっともだと思うけど、頼む」
「……」
綾香は黙って悟の背を見つめる。
「……どかねえなら、てめえも潰すぞ」
男たちが凄む。
「ちぇっ、結局喧嘩かよ……」
悟はぼやく。しかしどくことはしない。
「こうなりゃ自棄だ!どっからでも……」
言いかけた悟の後頭部にバットが振り下ろされた。
「なっ……何すんだよ!?」
もちろん綾香だった。
「邪魔です。どいてください」
「はぁ!?いやいやいや、俺は」
「助けはいりません。私の喧嘩です」
綾香は少し苛立たし気に言う。
「ご立派だな」
男たちが綾香に迫る。と、その時。
「お前ら何してる!」
突然の怒鳴り声に男たちの足が止まる。
「先生……!」
智次だった。
「校内で喧嘩されたら学校の評価下がるだろうが!」
「そこっ!?」
智次と一緒に来た昭裕が突っ込む。
「間に合ったー?」
夏海も後に続く。
「教師のチョイスに問題ありだけどな」
悟が表情を引き攣らせながら言った。
「担任の方がいいと思ったんだよ」
昭裕が弁明する。
「プレッシャー求めるのも程々にね」
「……?」
夏海の言葉に綾香は小首をかしげる。
「あんま喧嘩すんなってことだよ」
昭裕が説明を入れた。
「……」
綾香は何も言わなかった。
「まったくお前らは……」
智次が苛立たし気に言う。
「喧嘩するなら外でしろ!」
「「いやもういいから止めてっ!」」
智次の発言に昭裕と悟が同時にツッコミを入れた。