5,(休講)
「……やっぱり来ましたね」
1年2組の教室。外は曇っており、時間的には夕方だが、辺りは夜のように暗い。灯りが消えているので、教室も暗い状態である。
「逃げずに待ってたのか。それだけは褒めてやるよ」
不良グループの1人が言う。教室にいるのはたった1人の少女だった。
「褒められちゃった。嬉しー」
少女……綾香は机上に座り、棒読みの台詞を吐いた。
「謝るなら、今のうちだぞ」
不良グループの人数は10人にも及ぶ。普通に考えれば、この状況で綾香が勝つことはあり得ない。
「謝る?あは、誰に何を謝るんです?」
綾香は妖艶な笑みを浮かべて言う。
「……話し合いじゃ、解決しなさそうだな」
ぞろぞろと教室に入ってきた不良グループの男たちは、綾香を囲んだ。
「やだ、か弱い女の子1人に、そんなに人数集めないとダメなんですか?恥ずかしー」
「こいつッ……!」
1人が綾香に手を伸ばした。……と次の瞬間。
「!」
男が崩れ落ちる。その男を見下ろす綾香の手には、金属バットが握られていた。
「な……何持ってんだてめェッ!」
「えーだって、喧嘩得意な男たち10人を相手に、女の子1人で挑もうとしてるんですよ?これくらいのハンデはアリでしょう」
綾香は悪戯っぽく舌を出して笑う。
「このッ……」
男たちは綾香を取り押さえようとするが、彼女はバットをぶん回して男たちを跳ね飛ばす。
「巫山戯んなよ……!」
男たちの頭に血が昇り始めた。
「あは、楽しいですねー」
綾香は本当に楽しそうにバットを振り回す。
「てめェッ……俺らに本気出させてェのか……!?」
1人が唸るように言った。
「あれ、まだ本気出してなかったんですかー?」
綾香は小馬鹿にした様子で言う。
「……ッ!」
この辺りが、彼らの限界だった。
しょっちゅう喧嘩をしている彼らは、実際のところかなり強い。ただし彼らも相手は選ぶ。弱い者イジメを好むタイプではないし、だから今回も本気で叩きのめすつもりは彼らになかった。しかし馬鹿にされて、それでもまだ穏やかな気持ちでいられるほど心優しい人間でないのも確かだった。
「!」
綾香の振り回すバットがあっさり止められる。と同時に幾つもの拳が彼女に降り注いだ。
「う……!」
綾香は膝をついた。
「謝れば、これくらいにしといてや……」
男の1人が彼女の頭を掴もうと手を伸ばした瞬間だった。突然綾香が立ち上がって男の脇腹にバットを叩き込んだ。
「ぐッ……!」
「フェイクか!」
彼女はさらに教室の窓を叩き割って、外へ飛び出した。
外はますます暗くなっており、雨もポツポツと降り出していた。
「待てッ!」
彼女を追って窓から外へ出た男たちを、綾香は次々に叩く。
「ふぅっ……!」
しかし長くは持たなかった。すぐに男たちの反撃に遭い、再び糠るんだ地面に膝をつく。幾つもの拳を浴びて、それでも闘うことをやめない彼女に今度は強い蹴りが入った。
「あッ……!」
綾香はその場に崩れ落ちた。