第7話:あの時
そう、すべての原因を作ってしまったのはあたし自身だった。夢中になりすぎて、周囲からの気遣いや助言に耳を貸さなかったあたしのせい。あの時だって、有希子達の言葉にきちんと耳を貸していればあんなことには…………。
あれは、脚本を書き始めてだいぶ目途がたった時だ。その日も、徹夜で作業をしたせいか部室で何時の間にか寝入っていた。その時、明日香を探していた有希子は、机に顔をふせて寝ている明日香を発見した。
「また、徹夜。明日香? 起きて。こんな所で寝たら風邪ひくでしょ?」
有希子は、明日香に声を掛けると隣に座り、軽くその背をゆすった。
「……う……ううん。……あれ? 有希子だ……おはよー」
明日香は目を擦りながら、いつの間にか部室に来ていた有希子に驚いたようだが、まだ寝ぼけているのか頭がよく回転していないようだ。そんな、明日香を見て有希子は軽く眉をしかめるとこう告げた。
「おはよーじゃないでしょ? また徹夜して………。あれほど、徹夜は駄目って言ったよね? いくら昔よりは元気だからって、あんたが人より体が丈夫じゃないの分ってるでしょ? ……父さんがそろそろ検査しに来なさいって」
ここ数日、同じように有希子達からお説教されていた明日香は、内心いらだっていた。
「やだな、全然平気だし。ちゃんと寝てるよ。それに検査しなくても大丈夫。それこそ、昔と違うんだからさ。……今何時?」
「…………十一時だけど」
「え? やばい! サークル棟の前で待ち合わせしてるんだ。行かなきゃ」
明日香は、慌てて荷物をまとめ始めた。そして、荷物を手に取り、部屋の出口に向かい始めた明日香の手首をグイッと掴み取り、有希子は今まで以上に真剣な顔で明日香に告げた。
「明日香。真面目に聞いてちょうだい。あんたの生活がオーバーペース気味だって、おばさん達も心配してる。あんたが、脚本書くの本当に楽しそうだった。だから、今までこの件には干渉してこなかった。でも、このままの生活を続けるなら先輩にあたしから言うからね。辞めさせるべきだって」
有希子の真面目な態度に、明日香は戸惑いつつも我を通そうとした。
「やめてよ! 確かに少しはオーバーペースなのかもしれないよ? けど、体はなんともない。それにこの脚本で次のフィルムフェスに応募しようって皆頑張ってる。あたし、元々脚本以外の仕事には関わってないし、脚本さえあがれば休めるんだよ。それに今日渡す分であたしの仕事はとりあえず終わる。今があたしの正念場なの!! だからこれだけはゆずれない」
明日香の意志の固さについに有希子はねを上げた。そして軽く嘆息すると言った。
「…………分った。でも一つだけ約束してくれる? 今日渡す分でとりあず終わりってことなら、脚本は出来たのよね? だったら、脚本を渡したら検査に行くこと。明日香が脚本を書くことがゆずれないようにあたしもこれだけはゆずれない」
その真摯な言葉に明日香は、有希子の瞳を真っ直ぐ見つめ答えた。
「うん。約束する。……じゃあ、あたし行くね」
明日香の言葉にひとまず安心したのか有希子は手を離す。今度こそ、明日香は出口に向かい待ち合わせ場所に向かった時だった。嫌な寒気がし、手足が冷え始めたのと同時に自分の心臓がドクドクドクと激しい鼓動を打ち始める。
(……なんでこんな時に……。……やばい、これはまずい……か……も)
明日香の足取りがフラフラと不安定なり、ついにしゃがみこんでしまったのを見た有希子は、明日香に駆け寄るとやはつぎに声を掛けた。
「明日香!! 薬は? どこに入れてるの? 明日香!!」
明日香が、カバンを指差したのを見た有希子は、急いで薬を取り出して飲ませた。そこに、悟が現れた。
「何騒いでるんだ?」
「悟!!明日香が、明日香が……」
しゃがみ込む二人の様子を見た悟は、一瞬で状況を理解すると言った。
「落ち着け。発作か?」
「うん。ひどくはないみたい、今はおさまってきたけど」
「おまえ、外に出て車を捕まえてこい」
「分った」
有希子は、すぐに部屋から飛び出して行く。残された悟は、明日香を背負うと有希子のあとを追った。
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