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第6話:打ち明け話

 有希子が部屋を出て行くと、明日香は座っていた椅子からおちるのではというくらい脱力し、体を投げ出してしまった。


 「………………すっかり忘れてた。………………ねぇー、いるんでしょ?」


 明日香が呼びかけると、三千代が部屋のドアから現れた。


 「いるけど。何? 認める気になった?」


 「認めるわけないじゃない。…………ただ、あなたが普通の人でないということだけは認める。ちょっと聞きたいことがあってさ」


 明日香の頑なな態度にあきれつつも後半の言葉の調子が弱いことが気になった三千代は、明日香の正面に座ると組んだ足に頬杖をついて問い掛けた。


 「それで? 聞きたいことって?」


 「あの館に行って帰った後、不思議だけど時間が戻ってる。ここまでは認めるわよ。でも一つ気になることがあるの。過去に戻ってるって事は一度経験した出来事について記憶があるはずなのに、なんでその出来事の記憶がないの?」


 明日香は、ぬっと三千代に顔を近づけ問い返した


 「ああ、確かにそれは気になるところよね。あたしも聞きたい」


 「はっ?あなた役所の人なんでしょ? なんで知らないのよ!!」


 明日香は、三千代のあまりにものん気な一言に腹を立てた。そして、三千代に掴みかかった。


 「まぁ、落ち着いてよ。あのさ、前にも言ったけどこんなケースは珍しいの!だから原因はあたしにも分らない。簡単な推測ぐらいしかたたない」


 明日香の手を自分の体から振りほどきつつ三千代は距離を取り直した。


 「推測でもいい。教えて!」


 「まず、あんたは自分の死を理解できていない。その理由は、あんたの自分の死の瞬間の記憶がないから。だから、あたしはあんたが死んだ時に何か起きたと考えてる。だから記憶が無い。そして過去の記憶が無いのも同じ理由。以上!」


 「じゃあ、その何かが思い出せば、過去も思い出す?」


 「さぁ? それは知らない。推測だもん」


 三千代が答えると明日香は一人考え込み始めた。そんな明日香を気にしつつ三千代は部屋の中をぐるりと見渡した。部屋の中には、何に使うのか分らない機材やら本であふれていた。


 「ねぇ、今度はあたしが聞いてもいい?」


 「えっ? 何?」


 三千代はためらいつつもどうしても気になるのか問い掛けた。


 「何でさっきごめんねって言ったの?」


 「まさか、立ち聞きしてたわけ?」


 明日香が三千代をジロリと睨むと三千代はあわてて弁解した。


 「しょうがないじゃない。あたしの今の仕事はあんたをあっちに連れて行くことなんだからさ。側にいなきゃいけないの!!」


 「聞いてたならわかるでしょ?さっきのスタッフが断られてのはあたしが原因なの」


 「スタッフ????」


 「あっ、それだけじゃ分らないか。どうせだから全部聞いてもらおっかな」


 明日香はそうつぶやくと椅子に座りなおした。


 「あたし達ね、映画を作ってたの。元々は大きなサークルにいたんだけど、あることでもめて三人とも辞めることにしたの。でも、映画は作りたかったから三人でまたサークルを作った。今度の学祭で発表しようってことで脚本作ってさ。どうしても人手が足りないから前のサークルで手が空いてる一年の子に頼んでたんだけど…………それも駄目になっちゃった。だから、謝ったの。覚えてたら何か手が打てたのにね…………」


 そう言うと明日香が淋しげな表情を見せた。


 「でも、一度引き受けたのに何で今さら……」


 「サークルを辞めた原因があたしだから。あたし達、付属の高校でも映画作ってた。その卒業記念の作品を見た先輩が大学でも誘ってくれたの。始めは楽しくてしかたがなかった。だって、規模も違うし、機材もプロに近いものがあってすぐ夢中になったんだ」


 明日香は先ほどの表情が嘘のように楽しそうに話した。


 「少したって、先輩から誘われたの。脚本を書かないかって」


 「それってすごい事なんじゃないの?入ったばっかで」


 「うん。すごい事だよ。でも、表現方法が増えていくにつれて書きたいなって。だから引き受けた。ある短編小説を原作にしたものだから原作に沿いつつ自由に書いてみなって。書き始めたらあっという間に夢中になってたんだ。…………でも夢中になりすぎて自分のことも周囲の人たちのことも頭に入らなくなってた」


 つぶやいた明日香は、これまでに無いほどの悲しくて痛そうな顔をしていた。

ぼちぼち話しが進み始めたかな・・・。

一言でもいいので感想がいただけるとはげみになるのでお願いします。(ぺコリ)

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