第4話:館の住人
三千代は、館に戻ると階段を登り部屋へと向かった。そう、明日香が迷い込んだ部屋である。扉を開き、カウンターの上の呼び鈴を勢いよく叩いた。
「戻りましたー」
三千代が声をかけると、部屋の奥から円が出て来た。
「おかえりなさい、三千代。彼女はどうだった?」
「どうもこうもないですよ。自分が死者だってことを本当に理解してないみたいです。自分が帰ったのが過去であることには気付いたみたいですけどね」
三千代は、バカにしたような表情を見せた。
「そう。…………一度帰れば、思い出すかと思ったのだけれど」
「でも、正直信じられないです。こんなケースは初めてで」
三千代は、近くにあった椅子に腰をかけると円の返事を待った。
「そうね。私もこれまで一件しか遭遇していないケースだもの」
(へーーーーっ、同じことがあったんだ)
「死者が自分の体から離れ迷子になる。こんなのはよくあるこですけど、自分が死んだ時のことを忘れるなんて。それに、けっこう思い込み激しいタイプと見ました。あれだけ話しても自分は生きてるなんて言い切れるなんて…………」
三千代がそう言うと、円は三千代を真っ直ぐと見つめ言った。
「あれだけ話した?三千代、あなた余計なことまで話したのではなくて?」
三千代は、自分の失言で気付き内心動揺しながらも懸命に言葉をつむいだ。
「そんな事ないです。普段のお迎え時の説明しか言ってないです」
そんな三千代をジッと見つめ、にこりと笑いながら円は言った。
「本当に? あなた、忘れてないわよね?」
にこりと笑いながら、実はかなり物騒な光をその瞳に写した円を見て、こころなしか後ずさりしながら三千代は、返事をした。
「何をですか?」
精一杯、可愛げを総動員しながら三千代を怯えていた。
「私達がこの館の管理に回された原因を」
「忘れるわけないじゃないですか」
後にも先にもあれほど、心底恐怖を感じたの死んだ時以来である。
(誰が忘れるもんかーーーーー)
「そうよね? 忘れてなければいいのよ、忘れてなければ」
三千代は必死にこの状況から逃れる術を探した。そして閃いたのか円に勢いよく言った。
「あた、あたし、橘 明日香の監視に戻ります」
三千代は、脱兎のごとく部屋から逃げ出した。
「本当に分ってるのかしら、あの子。…………橘 明日香さん、気になるわ。上に確認を取ったほうがいいかもしれないわ。ふうっ、めんどうなことになりそうだわ」
円はつぶやくと、上に確認を取るべく部屋の奥へと戻っていった。