第3話:訪問者
明日香が振り向くと、そこには一人の少女が立っていた。少女は、明日香と同じくらいの年頃で髪の毛はボブぐらいの長さでシンプルな白のシャツと黒いジーンズを履いている。
「誰?」
明日香が問い掛けると少女は、明日香の側に近寄ってきた。
「はじめまして。橘 明日香さん」
「何?急に入って来て。もしかして入会希望者?悪いけど今会長いないからまた後で来てくれる?」
明日香は、その侵入者を追い出すべく言葉を投げかけ出て行くように仕向けた。しかし、そんな明日香の言葉を意にかえさず少女は室内に入ってきたのだった。
「ちょっと、あなた…………」
「分らない?あたしは三千代。狭間の館の管理者の一人よ」
「狭間の館?ああ、あの変な女の仲間?悪いけど、あんな作り話に付き合うほどあたしは暇じゃないの。帰ってくれる?」
明日香は、そう言うと三千代の肩をつかみ出口へと引っ張った。そんな明日香の様子を見て、三千代はおもしろそうに目を大きく開くと、明日香の手を解き立ち止まるといきなり笑いだした。
「あはははははっ」
「何がおかしいのよ!!」
三千代の態度が自分をバカにしているように感じ、明日香は顔を赤らめながら三千代にくってかかった。
「円先輩から聞いてたけど、本当に分ってないんだ、あんた。あたしも、この仕事に着いてけっこうたつけど、あんたみたいなのは初めてだよ」
「あたしみたいな人?」
「そう、自分の死を理解してない人間」
三千代は、部屋の中にあった椅子に腰掛け明日香をおもしろそうに眺めていた。その遠慮のない好奇心に満ち溢れた視線に耐えられず、明日香は、三千代の視線から逃れるために部屋の中を歩き始めた。
「あなたも、あたしが幽霊だって言うの?」
三千代から否定の言葉が出てくるのを期待しながら問い掛けると、三千代はおもむろに話し始めたのだった。
「そうよ。あたし達は、分るの。生者と死者の違いがね。普通、死者は死ぬと自分の側にいて、迎えを待ってる。だから、自分の死を理解する。でもあんたは違った。自分の体から離れ迷子になっていた。だから、館に来た。でも普通なら自分の死を理解している。だから、あっちに連れて行くだけで終わり。でもあんたは本当に理解してないんだね、自分の死を」
明日香は、不安そうな目を向け、一瞬ちゅうちょしながらも反論した。
「あたりまえじゃない!あたしは、死んでないもの!!」
「じゃあ、一つ聞くけど、今日は何日?」
「…………七月…一日……」
「あんた、自分で言ってたじゃん。今日は十月一日だって」
「…………それは」
三千代は、立ち上がり明日香のすぐ側に立ち顔を覗き込みながら言った。
「あんたは、あの日、十月一日に死んだんだ。そして帰ったの、過去に。帰るって飛び出して過去に帰る死者なんて本当にめずらしいものを見せてもらったよ」
「例え、過去に帰ったとしても、あたしは死んでない。生きてるの」
「そう思いたいなら、そう思ってれば?……じゃあ、あたし帰るから」
三千代は、突然そう切り出すとドアに向かって歩いて行った。
「えっ!!」
明日香は、思わず声をあげてしまい、その声に三千代は振り返り言った。
「何? 帰って欲しかったんでしょ?」
「仮にあなた達の話が本当だとしたら、あなたはあたしを迎えに来たんでしょ?」
明日香の問いかけが意外だったのか三千代は、驚きつつもこう返した。
「確かに、あたし達の仕事の主旨としてはそうなるけど、言ったでしょ? 普通、死者は自分の死を理解しているものだって。だから、自分の死を理解してないあんたを連れて行っても意味がないの」
「そんなの、理解するはずないじゃない」
明日香が、嫌味を込めて返事をすると、三千代は急に真顔になり言い放った。
「理解するよ」
「なんで断言できるわけ?」
「自分が死んだときのことを思いだせば、誰だって理解する。…………誰だってね」
三千代は、一瞬視線を下に落とし何かを思い出しながらも、すぐに続けた。
「まぁ、仕事上はあんたの周辺にいるから、何かあったら名前でも呼んでよね」
「誰が呼ぶもんですか!!」
「じゃあね」
明日香の返事を聞き、少し苦笑しながらも三千代は言葉の通りに去って行った。後に残された明日香は、その姿を目で追いながら一人つぶやいた。
「…………あたしが死んだ時の記憶?」
少しづつ、登場人物が出揃い始めました。が、まだ出てきてない人がちらほら・・・・。頑張って書き進めます。