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エンドロール  作者:
22/22

最終話:エンドロール

 花火大会から数日後、三千代が部室に顔を出すと明日香と有希子と悟がパンフレットの最終確認をしていた。


 「どう? これで大丈夫?」


 明日香が尋ねると有希子は、指で丸を作り言った。


 「うん、完成!!」


 「やったな。後は編集だけか…………」


 「そうよ、だから頑張って間に合わせてね? じゃあ、あたしこれ印刷所に回してくる」


 明日香は、原稿を有希子から受け取ると部屋から出て行った。その後ろ姿を見ながら何か言いたげな顔をしていた有希子だったが、結局何も言わなかった。


 「何かあった?」


 三千代が尋ねると有希子は黙って首を振り、部屋から出て行った。


 「まぁ、気にするな」


 悟は三千代の肩をポンと軽く叩くと部屋から出て行く。


 「何なのよ!?」


 部屋には、納得がいかない三千代の叫びがむなしく響いた。


 それからの一ヶ月、最初はどこかぎこちなかった有希子と明日香の仲も元に戻り、学祭の最後の準備に追われていた。

 

そして、ついに来たのだ。明日香の最後の一日が…………。

 

 学祭当日の朝。明日香は一人、部室にいた。そこに一本の電話がかかってきた。もちろん、その相手は、有希子だ。


 「はい、もしもし?」


 「もしもし、明日香? ごめんね、朝早く」


 「ううん、大丈夫。どうしたの?」


 「それが、悟ってば一箇所どうしても編集したいところがあるって」


 「え!? だって今日だよ、学祭」


 「ああ、でも大丈夫。最後のエンドロールだけだから」


 「エンドロール? だって昨日皆でチェックした時は、大丈夫だって。あたしも行ったほうがいいかな?」


 「ううん、こっちは大丈夫。……悪いけど会場の最終確認してて欲しいの。駄目かな?」


 「分った。もう少ししたら三千代が来るから確認してくるね」


 「え? 明日香、今どこよ?」


 「いつもの部室」


 「何でそんな所に?」


 「すっごい早く起きちゃって。ほら、遠足の日って朝早く起きるじゃない? そんな感じ?」


 「小学生じゃないんだから。今日すごく冷えてるし風邪ひかないようにちゃんと厚着してる?」


 「大丈夫だよ。心配しないで」


 「分った。悟をせっついてすぐ行くから。じゃあね」


 有希子が電話を切ろうとしたときだった。明日香がそれをすごい勢いで止めた。


 「あっ、有希子!!」


 「何?」


 「悟に伝言。何があっても予定通りに上映してよって」


 「何それ?」


 「あたしからのプレッシャー。じゃあね?」


 「うん、またあとで。バイバイ」


 「バイバイ」


 明日香は電話を切ると携帯を握り締め、胸元に抱えこんだ。そして、下を向き一言呟く。


 「バイバイ」


 しばらくすると部室に三千代が現れた。


 「もういいの?」


 「うん。やれる事は全部やったから」


 「そう。…………一つ質問があるんだけどいい?」


 「いいよ」


 下を向いたままの明日香をチラリと目に入れながら三千代は尋ねた。


 「あたしが言うのも変なのは分っているんだけど、聞きたかったの。どうして、あんたは死を受け入れたの? その上、自分が死ぬって時なのに淡々と事を進めてるし。…………普通ならさ、死と向き合う時は恐怖で一杯で、死にたくないって叫び散らしたっておかしくないのに」


 「はははっ。…………本当だよ。何であんたがそんな事聞くかな」


 三千代の思いもよらぬ質問に明日香は乾いた笑いをあげた。


 「だって、あんたたちが言ったんじゃない。あたしはもう死んでるって。死を認めなさいって言ったのはあんただよ」


 「確かに。でもさ、普通は受け入れられないと思ったんだ。…………あたし、ずっと考えてた。自分の時はどうだったろうって。あたしの時は先輩と課長が迎えに来て、いざ書き換えが終わって、さぁいよいよだって所で叫んでた。死にたくない、家族と一緒にいたい、死にたくないって。みっともないくらい泣き叫んでた。そんなあたしを先輩と課長が慰めてくれた。だから、あんたももし…………」


 三千代の最後の言葉にかぶせるように明日香は、強く言った。


 「だから、あたしにも泣き叫べって? おあいにくさま、あたしはそんな事はしない。まぁ、他人から見ればかわいげなく見えるかもしれないけど、死におびえて泣き叫ぶなんてこと、とっくの昔にやりつくしちゃったわよ」


 「…………明日香」


 明日香は三千代の心配そうな声に顔を上げて笑った。


 「あたしは、あなたが思っているほど聖人君子でもないし、あたしほど自分の欲に忠実な人間はいないと思ってる。昔、入院してた頃は自分の体を呪っていた。なんでこんなめに合わなきゃいけないの? 神様は不公平だってずっとそんな事を発作が起きるたびに考えてた。すごく具合が悪い時期が在って次の桜の咲く時期までもたないかもって言われてた。その時は、窓から外を眺めるのがやっとで、ああ自分は何もできなくて何も残すことができないで死んでいくんだって思ってた。その時は、本当に怖かったの。一度眠ったら次は目を覚ますことはないんじゃないかとか色々な考えが頭の中を巡ってた。…………だからね、今度はそんなに怖くないの。最後に映画も作れたし、自分の残したいものも作れた上にデートまで出来たし。…………書き換える………前は…………突然で………出来なかった……か……ら…………」


 「明日香?」


 それまでしゃべっていた明日香の言葉が途切れ始めたのを不審に思い三千代が明日香を見るとちょうど机につっぷす姿が目に入った。三千代は明日香を抱え起こすと叫ぶ。


 「大丈夫!? そうだ、誰か呼んでくるから」


 明日香は最後の力を振り絞って三千代の腕をつかんだ。


 「何、あんたが慌ててるのよ。人なんか呼ばなくていい、時間が来ただけだから」


 「だって、あんたを一人で死なせるわけにいかないよ」


 今にも泣き出しそうな三千代の顔を見て明日香は言った。


 「馬鹿ね。一人じゃないわよ、あんたがいるじゃない。そうだ、あなたにお願いがあるの。……カバンの……中にある…………ノートを…………渡して…………欲しい。それと…………」


 明日香の最後の言葉を聞き取ろうと三千代は、耳を近づける。


 「うん、うん、分った。そうするから」


 「お……ねがい……ね?」


 「明日香?明日香?あすかーー」


 三千代は、急いで明日香の携帯を手に取ると救急車を呼んだ。そして、救急隊員に明日香を託すと涙をぬぐって明日香の最後の願いを叶える為に上映会場へと向かった。一人、会場の点検をしていると有希子や悟、そして見知ったスタッフの面々が現れた。


 「おはよう? あれ? 明日香は?」


 「あっ、何か家であったみたいで、一度帰宅するって」


 「え!? 大丈夫なの?」


 「はい。急いで戻ってくるからって」


 「そっか。まぁ後でのお楽しみでいいか。ね、悟?」


 「そうだな」


 「お楽しみ?」


 「内緒だけどね。ほら、あの子ってば自分はたいしたことしてないからエンドロールから自分の名前を外して欲しいって言ってたけど、皆が絶対入れるべきだって」


 「それは喜ぶよ、絶対」


 「でしょ? さぁ、準備するわよ!」


 有希子の掛け声に皆動きだした。三千代も受付を手伝おうと入口に向かうと悟が追いかけてきた。


 「なぁ、さっき救急車来てたろ? あれって、もしかして…………」


 悟の真剣な顔に三千代は、こう答えた。


 「明日香の伝言聞いてますよね? …………あの子の最後のお願いなんです…………」


 「………………わ……か……った…………」


 悟は、一瞬泣き出しそうな顔したが一度頭を振るといつも通りの顔を浮かべ自分の仕事へと向かった。


 会場には、たくさんのお客が入った。三千代は、一番後ろに立ちながら最後まで見た。そして最後のエンドロールで明日香の名前が流れると一人暗闇の中で涙を流すとひっそりとその場から姿を消した。


 学祭から数日後、明日香の葬儀が行われた。その葬儀には、サークルのメンバーや高杉の姿もあった。 その葬儀の後、有希子と悟はある人物と待ち合わせていた。


 「ああ、三千代」


 「ごめんなさい。遅れて」


 「俺らも今来たところだから」


 「何かこの部室に来たらね、余計に実感がわかなくて。今にもあの子が出てきそうで」


 「俺も」


 三人で部室のドアを見つめしんみりとした空気になった。


 「そうですね。…………実は二人に来てもらったのは頼まれたものがあって」


 「頼まれたもの?」


 悟が聞くと三千代はカバンから数冊のノートを取り出した。


 「はい、明日香から二人にって」


 悟が一番上のノートをパラパラとめくり、叫ぶ。


 「これは! おい、有希子、これ見ろよ」


 「何? …………これは!?」


 「脚本だよ、明日香が書いた」


 それは、自分の死を知った女の子の最後の夏の物語。


 「明日香がこれを? 俺達に?」


 「はい。すぐに渡すつもりだったんですけど時間がなくて。ごめんなさい」


 「あなたが謝ることないわ。あの子の希望通り、学祭での上映をしてその後お葬式があったりでバタバタしてたから。お葬式でね、明日香のご両親があの子が長くないことは知っていたって、高杉先輩も本人から聞いてたって。最後に一度だけデートして下さいって言われたって。きっと、あの子はやりたいことを全部したんだと思うの。出来るかぎり、そしてこれはあの子が生きた証なんだと思う。…………ありがとう、届けてくれて」


 「…………次はこれを作らないと」


 「そうね、そしてあの子の名前をエンドロールで流しましょ」


 「ぜひ、作ってあげてください。じゃあ」


 三千代は、お辞儀をすると足早に部屋から去ろうとしたそれを有希子が引き止める。


 「待って、三千代!あなたにもぜひ参加して欲しいわ」


 「ごめんなさい。それは出来ません。わたし、実はこれから海外に家族と移住するんです」


 「そうなの?」


 「だから、最後のお別れに来ました。二人とも元気でね? さよなら」


 そう言うと三千代は、駆け去って行った。そして三千代は、走って走って二人が完璧に見えないところまで来ると近くのドアを開いた。そのドアの先は三千代がいるべきあちらの館につながっていた。


 「お疲れ様」


 三千代が戻ると円が出迎えてくれた。


 「…………円先輩」


 「無事に任務完了ね。でも最後はひやひやしたけれど」


 「はい。あたしもあんなに感情移入するは思いませんでした。ところで明日香は?」


 「明日香ならもう研修に入ってるわよ。もう少ししたらうちの課に来ると思うわ」


 「そうですか…………」


 どこか悲しげな顔を浮かべる三千代の肩を円が叩く。


 「さぁ、いつまでもそんな顔しないで」


 「そうですね、いつ迷子が来るか分りませんからね」


 「そうよ、それにあなたには始末書の山を片付けてもらうわないと」


 「始末書!? 何でですか? あたし、何もやらかしてませんよ、今回は!!」


 三千代の叫びが虚しく館に響いた。それは、いつもの三千代の日常生活への帰還の証。これは、短くてどこかせつなさを帯びた一夏の出来事。


 そして報告書を書きながらあたしは思う。あたしにとってこの夏は、自分が死んで以来長くとても心に残る夏だった。その上、エンドロールで泣くなんてことは初めての経験だ。でも、きっと自分を含め死に逝く人々にはそれぞれのエンドロールがあるのだ、きっと。そして自分はそのエンドロールの最後の幕引きをしていくのだ、これからもずっと。

 

 

ついに最終話です。

長かった・・・。最後まで読んでくださった皆様、ありがとうございます(>o<)

もしよろしかったら感想などいただけるとありがたいです。

HPの掲示板や私書箱、または作者ページのメッセージを送るからでもけっこうです。

お待ちしてます。

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