第20話:密談
「すみません。わざわざ病院にまで来てもらってしまって」
明日香は、ぺコリと頭を下げる。
「いや、かまわないよ。撮影も終わってるしね。ところで、用事って何かな? あの二人に内緒ってことは、かなり悪いこと?」
「ふふっ。悪いことですよ。立ち話も何ですからどうぞ」
「怖いな」
高杉は肩をすくませ、わざとらしくため息をつくと進められた椅子に座る。
「あのですね、先輩にどうしてもお願いしたいことがあって」
「お願い?」
「はい。先輩、あたしの共犯者になってくれませんか?」
高杉は思いがけない明日香の台詞に固まってしまった。そんな高杉を見て明日香は、微笑んでいた。
一方、三千代は売店に行くために下へと向かう途中に自分が降りようとした階段とは逆方向にある階段を登る高杉の姿を発見した。そして、先日有希子から言われた言葉を思い出す。
(二人きりにしちゃ駄目って言ってたよね…………確か)
三千代は、どうしようかと考えあぐねていると高杉が明日香の病室に入っていくのが見える。
(ええい、しょうがない)
引き返して病室へと急ぐと、ドアの前に辿り着いた三千代は、少し開いていたドアの隙間から二人の会話を立ち聞きしようとした。しかし、隙間が狭いせいか途切れ途切れにしか声が聞こえてこない。それでも三千代は必死に明日香の言葉を拾う。
「…………共犯者になってくれませんか?」
三千代は、その言葉に高杉と同じように固まってしまった。思考が半ば停止した状態でフラリと音をたてず立ち去る。
(聞いちゃいけない。これは聞いちゃ駄目だ)
三千代は、ドアから離れると階段へと向かう売店へと向かって。
「…………ということをお願いしたいんです。駄目ですか?」
「いや………駄目じゃないけど。…………分ったよ」
「お願いします」
高杉は話を終えると病室から去っていった。その数分後、三千代がアイスを抱えて戻ってきた何も知らないふりをして。
「ただいまー。チョコが無かった」
三千代の不満たらたらな第一声に明日香は噴出した。
「また今度買ってあげるわよ」
「誰か来てたの?」
「何で?」
「椅子が動いてるから」
「ああ、さっき看護士さんが来たから。さっ、食べましょ?」
いつもと変わらない明日香の様子に三千代は、高杉のことを問いただすのは止めておこうと決めた。
もう少しでラストです。ラストまでの道のりは決まりました。あとは自分次第です。