第14話:悪だくみ?
明日香が出て行った数分後、有希子を連れた悟が部屋に戻ってきた。
「げっ! 本当に帰りやがった」
もぬけのからとなった部屋に悟の声がむなしく響いた。
「言うだけ言って逃げたわね、あの子」
有希子は、ため息をつきながらつぶやいた。
「…………まぁ、いいんじゃねえの」
あきらめたのか悟は、力なく答えた。
(逃げ足だけは、速いんだからな……)
「そうね、あの子には後でお礼をしないと」
「何だよ、お礼って!!」
自分の言葉に過剰反応をする悟に内心、首をかしげながら有希子は言った。
「スタッフの件についてよ?」
「ああ、そっちな」
(びびった)
そう悟は、明日香に言われたことが相当響いたのか、結局告白することもなく言い訳を並べて有希子に出演交渉を受諾させたのである。
これが明日香にばれればかならず言われるだろう、意気地なしと。あそこまでお膳立てしてあげたのに、本当に悟はチキンだと断言される。間違いなく。
「何よ、他に何かある?」
(つーか、本当に俺の今までの恋愛はばれてるのか? 知ってるなら気付くだろ?)
「それにしても、あの子には負けたわ」
「何が?」
「スタッフが駄目になった理由は知らないはずなのに、皆に頭下げてくれて。あたしだったら出来ない」
「あいつはお前より強いからな。…………いや、俺達の中で一番強いか。でもって、一番弱いのはお前だからな」
「あたし?」
有希子は悟の言葉に納得がいかないのかどこか不満げな声を上げた。
「小さい頃から、お前はいつだってまとめ役だったけどさ、皆から信頼される分人から悪意を向けられるのにはめっぽう弱かった。その点あいつはさ、自分が影で槍玉に上がることを知っていたから、そういうことに対しての対処方法が上手くて。俺は俺で単純で不器用だから、一度つっぱしると後ろに戻ることは出来ない。だから、こういう時はいつも明日香が後ろに戻れるように手を引っ張ってくれた」
「…………確かに。だから今回も自分が一歩引くことで皆とのいざこざを止めてくれた。でも、皆が私達に戻って来いって言ってくれて嬉しかった。……三人で戻って来いって」
「でも、あいつは自分が戻れることを知らない」
「あっ、そうだ!!」
有希子は、どこか人の悪い笑みを浮かべながら悟に提案した。
「お返しにあの子にはこのこと内緒ね?学祭の最終日に皆で言って驚かそう」
「決まりだな」
悟もその意見には大賛成だ。
(今度はこっちがぎゃふんと言わせてやる)
「よし、今度の日曜から撮影開始よ」
「そうだな。まぁ、お前は頑張って台詞覚えろ」
「…………そのことだけよ、頭痛いの」
有希子が弱音をはくのを見て悟は、励ました。
「まぁ、演技初心者のお前には、あんまり期待してねーから。せいぜい棒読みにはなるなよな」
有希子は、出演を引き受けたのを後悔し始めていた。
「…………はやまったかも」
「今さら断るなんて出来ないからな」
「分ったわよ。…………とりあえずバイト行こう」
「俺は、もう一度イメージ固めなおすか」
「考えるだけで憂鬱になってくる」
「まぁ、深く考えるなよ。演技はどちらかというと感覚が物を言うから、考えすぎるとよけい駄目になるぞ……」
二人は、そんな会話をしながら部屋を出て行った。頑張って良い作品を作ろうとお互い心に決めながら。