第12話:遠い記憶
自分の一番古い記憶は、病院の天井だ。物心ついた頃からずっと、手術するまでその光景に変化は無かった。変化といえば、窓の外に立っている大きな桜の木だろう。その桜は、春になると薄いピンクの花を満開にさせ、初夏になれば緑色の若葉を繁らせていた。冬になると、とても淋しかったけれど。
いつもベッドの上で考えていた、あと何度この桜を見ることができるのだろうかと。大きく成長するにつれて、自分の病状については嫌でも分ってくるものだから。
母親の「大きくなれば元気になる」、この言葉を信じ無くなったのはいつからだろう。きっと、この言葉は両親の願いでもあり希望を持つ為に自分達をはげましてもいたのだと思う。
小学校に上がる頃、病院の院内学級で有希子と悟に出会った。二人は、親が病院で働いていたせいかよく遊びに来てくれた。初めてできた自分と同じ年の友だちだった。二人と過ごす時間はとても楽しくて二人が来てくれる週末の時間だけが、入院生活の支えになっていた。
でも、他の子と外で遊んでいる姿を見ると心が痛んだ。何故自分は、二人と外で遊べないのだろう、何故?と。そんなジレンマにかられて日々を過ごしていた時、転機は訪れた。
「手術? 手術をすれば元気になるの?」
「うん、とても大変だけど、頑張れるかい?」
「うん」
そうして手術をすることになった。でも、その成功率はとても低いものらしかった。それは、両親や先生、看護士さんの顔を見ればすぐに分った。これだけ長いこと入院をしていれば、大人の顔色を読むことにたけてしまうようだ。
だけど、知らない振りをしようと思った。何も知らずに励ましてくれる二人、何より自分の為にもこの賭けに絶対勝つつもりだった。
ただ、死ぬのを待つなんてまっぴらだ。絶対生きる。そう心に誓った。
…………そしてあたしは賭けに勝った!! しかし、奇跡は長くは続かなかったのだ。