第11話:世話のかかる友人達
有希子が部屋から出て行った後、悟は明日香から貰ったリストを見ながら考えこんでいた。そんな悟の為に、明日香は自販機まで飲み物を買いに行き、お茶を差し出した。そして朝から決めていたことを実行に移した。それは、悟にとってはかなりのダメージをくらう爆弾だった。
「ねー、悟」
「…………何だ?」
「本当は、悟の頭の中ではイメージしている子いるんでしょ?」
悟は、リストから顔をあげると怪訝な顔を明日香に向けた。
「何だよ、いきなり」
「この脚本を読んだときさ、イメージ出来たヒロインは一人なんだよね。だから、悟が留美ちゃんを選んだとき意外だなって。だってさ、素直に言えば良かったのにね?」
明日香の意味ありげな視線に悟は内心とまどっていた。
(何だ、明日香のやつ……)
「何を?」
「ヒロインやってくれって、有希子に」
「ぶふぉ。……何言い出すんだよ、お前は」
明日香の突然の爆弾発言に悟は、思わず飲んでいたお茶をふきだしてしまった。
「違うの?」
明日香は、悟の顔に思い切り顔を近づけて人の悪そうな笑みを浮かべて悟をうながした。
「…………違わない」
「えっ? 何? 聞こえなーい」
悟が小声でつぶやくと、明日香はわざと聞こえないふりをした。
「違わねーよ!!」
「やっぱりね。じゃあ、今から有希子に出演交渉してらっしゃい」
「今から!?」
「そう、今すぐ。ぜんは急げって言うでしょ?」
「…………わかったよ」
「じゃあ、いってらっしゃい。あたしは帰るから」
「お前もついて来いよ」
「何でよ?」
「あいつが俺の頼みを素直に聞いたことあるかよ。お前が一緒ならすぐ聞くだろ」
「はーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ」
明日香は、体中から空気を抜く勢いで深いため息をついた。
「なんだよ、そのため息は」
どこか、哀れみを込めた目で悟を見ると明日香は世話がやけると言わんばかりの口調で諭した。
「分ってないな。この場合は、あたしがいないほうがいいんだって」
「何でだよ?」
「あたしだって告白にまでついて行くほど野暮じゃありません」
「はっ?お前、バカ?何で出演交渉が告白になるんだよ」
「もしかして本気で気付いてない? だから、有希子に子供扱いされるんだよ」
「あいつが、俺を子供扱いするのは、行動がガキだからだろう」
「じゃあ、子供の頃から一緒にいるあたしから見たことを話そうか?」
悟は机を一度叩くと椅子にえらそうにふんぞりかえりながら命令した。
「言え」
「昔から、悟が作る作品のヒロインってその頃の悟の好きな人がモデルだよね?高校一年の時は、京香先輩でしょ、二年の時は、皐月ちゃん。中学にさかのぼると……」
「そんなことあるかよ!!」
悟は、顔を真っ赤にしながら反論したが、この時点で図星であることは明白である。
(あーあ、顔が真っ赤。本当、悟ってこういう話に弱いよね……)
「そんなことあります。幼馴染であるあたし達の共通意見よ。だから、今回の脚本を読んだ時にすぐにピンときたの。有希子は気付いてないけど。留美ちゃんもどちらかというと同じタイプだし。でも、あたしはすぐに気が付いたよ。何? 間違ってる? うん? どうよ?」
明日香の勝ち誇った態度についに悟は白旗をあげた。
「…………行けばいいんだろ!!」
明日香達に自分の恋愛遍歴がばればれだったのがよっぽど恥ずかしかったのか、悟は椅子を蹴倒して部屋から出て行った。どこか、早足気味で。
「まったく、世話のかかる二人よね。…………後しなくちゃいけないことは、当日のパンフレットと会場の下見と…………。うーん、けっこうあるな。完璧に仕上げなきゃ、せっかくチャンスを貰ったんだから」
「どうやら思い出したようだな?」
「あなたは!!」
突然、明日香の前に現れたのは、あの時約束をした女性だった。そう、自分が死んだあの時に……。
今回はさくさくと書けました。
そして、やっとこさ最後の最後にあの人が。
長かった。