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第10話:動き出した時間

 三千代は、椅子に座り考えていた。


 「あたしと、あの子の共通点?…………あるか?だいたい、時代が違いすぎるだろ」


 明日香と自分をどんなに比較しても共通項がない。という事は、外見や性格とか分り易い点ではないってことか?


 「先輩の言葉をよく考えてみよう…………先輩は、自分も忘れそうだって言ってた。ということは、あたしにとっても相当昔の出来事ってこと?」


 だんだんと考えが袋小路にはまりつつあった。


 「本でも読んでみるか…………」


 橘 明日香のこれまでの人生をまとめるとこうだ。生まれたときから体が弱く、入退院を繰り返す。


 (あの有希子という友だちは、入院していた病院の医者の娘で、悟は看護士の息子か)


 そして、十歳の時に手術を受ける。それまでは、毎日が発作との戦い。この手術も成功率は極めて低かったらしい。


 (幼少期から毎日が死との戦い。共通項発見。まぁ、あたしの場合は仕方のないことだし)


 手術後は、経過もよく普通の生活を送れるようになったと。共通項が死との戦いか…………。


 「死との戦い!? …………そうか、生を受けてからずっと死と戦い続けたあの子は、人よりも生への執着が大きい。そういう人間の多くは死んでから……。そうか、だからあの子の本は空白なんだ」


 三千代は、自分の出した結論にたまらずドアを開いた。そして、明日香の元へと向かって行ったのだった。


 館から戻り、夢から覚めた明日香は、さっそく行動を開始した。まずは、以前いたサークルで比較的自分と仲良くしてくれた人達に一人、一人会って話した。そしてその時した頼みの返事が来るのを部室で今か今かと待ち続けていた。もう、駄目かと諦めかけた頃、一本の電話がかかってきた。


 「うん、うん。…………お願いします、二人とも本当に頑張ってて。あたしは、当日の受付くらいしか手伝えないし。うん、これ以上の負担は二人にかけたくないし。だから、皆の力が必要なの。ありがとう。じゃあ」


 (やったー!!)


 色よい返事を貰うことが出来た明日香は、思わず部屋の真中で一人ガッツポーズをした。


 「悪い、遅れた!…………って何やってんだ?」


 ちょうど部屋に入ってきた悟にガッツポーズを見られてしまった明日香は、咳払いをしてごまかした。


 「何でもない」


 「そうか。……有希子は?」


 「委員会で少し遅れるって。そうだ! 代わりの案出来た?」


 明日香の問いかけに悟は、あーとかうーとか言ってごまかしていたが、諦めて白状した。


 「すまん。もうちょい時間くれ」


 「うん、もちろん」


 と、その時部屋のドアが勢いよく開き有希子が走りこんできた。


 「ごめん、遅れた!」


 「遅せーよ」


 「悪かったわね、まったくたまに自分が遅れなかったからってえらそうに」


 「何か言ったか」


 「いいえ、別に! ごめんね、明日香」


 「気にしないで。まぁ座った座った」 


 明日香は、有希子が座るのを確認するとおもむろに切り出した。


 「報告があります。問題だったスタッフの件ですが、もう一度田中君たちにお願いして声をかけてもらった所、田中君や小林さんなど主だったメンバーが手伝ってくれることになりました。ぱちぱちぱち」


 明日香の報告に悟と有希子は思わず叫んだ。


 「まじ?」


 「ふっふっふっ。まじです。しかーし、一つだけ問題が……」


 「何? 問題って」


 有希子は、一転して暗くなった明日香に尋ねた。


 「…………今回、ヒロインを頼んでいた留美ちゃんが怪我で参加不可能に」


 「まじかよ!」


 「嘘でしょ!」


 有希子と悟は思わずうめいた。


 「なので、悟には新しいヒロインを選んで欲しい。何人かリストアップしたので確認して。有希子は、撮影の予定を皆と相談して決めて欲しい」


 「分った。でも、ヒロインが決まらないことにはな。とりあえず、皆の予定だけでも再確認してくる。悟、あんたはさっさとリストから目ぼしい子見つけて。それで早くオーディションしましょう」


 「じゃあ、これスタッフのリスト」


 「ありがとう。いってきます」


 「いってらっしゃい」


 有希子は、来た時と同じいやそれ以上の勢いで部屋から出ていった。そんな、有希子の後ろ姿を見送りながら明日香は一人、心の中でつぶやいた。


(ついに、始まったんだ。あたしの命のカウントダウン)

 

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