第1話:狭間の館
「ここは、どこだろう…………」
少女は、周囲を見渡しここがどこであるかを確認しようとした。しかし、周りにあるのはうっそうとしげった木々だけだった。少女は、民家を探そうと森の奥へと歩を進めた。その間もここが何処なのかと何かヒントを得ようと必死だった。そんな少女の願いもむなしく、建物はおろか灯りさえも見つけることが出来なかった。
どれくらいたっただろうか、少女があきらめかけたその時、かすかな灯りが見えたのである。少女は必死にその灯りがある所まで走った。そしてついにその灯りの在り処まで走り着くことが出来たのである。
そこには、大きな洋館が建っていた。歴史を感じさせる古い洋館で灯りはその洋館の玄関灯だった。
「表札は無しか。・・・でも灯りも点いてるし、きっと誰かがいるよね」
少女は、意を決して洋館の扉を開けた。ギギーッ。少し錆付いているのか扉の音が大きく鳴った。しかし、誰も出てくる気配は無く、仕方なく少女は建物の中へと進んだのである。
「ごめんくださーい。誰かいませんかー?」
少女は、声をかけながら玄関ホールへと入ると目の前には二階へと続く螺旋階段があった。その階段を登った先には扉があり、その扉が少し半開きになっていて中から光がもれていた。
「…………よし、行くか」
光がもれている扉を目指し、階段を登り部屋の前へとたどり着くとゴクリと喉を鳴らし、部屋の扉へと手をかけた。そして、遠慮がちに扉をノックし部屋の中へと進んだ。
「すいません。誰かいませんかー?」
少女が入った部屋は、壁一面に本棚があり、数千冊はくだらないであろう本が収めらていた。そして部屋の中央には机がり、その先にはカウンターがあり呼び出しのベルがあった。
「……図書館? …………こんな所に?」
少女は、周囲をキョロキョロと見渡しながらカウンターに向かった。その時、机の上に一冊の本があることに気付いた。おそるおそるその本を手に取るとタイトルが目に入ってきた。
「何、この本。……『橘 明日香』あたしの名前?何これ、気味悪い。それよりもここはいったい何処なのよ…………」
明日香が本を持ち呆然と立っている時、カウンターの奥の部屋から女性の声が聞こえてきたのである。
「…………誰かいるの?」
その声の主は、黒のスーツにいくつかのバッチをつけ、髪をアップにまとめた眼鏡の女性でその手には本を数冊抱えていた。
「うわっ!!」
明日香は、突然聞こえた声に動揺し本を床に落としてしまった。
「すみません!!」
明日香は急いでその本を拾いなおすと元のテーブルの上へと置き直した。そして声をかけてきた女性へと体をむけ、いっきにまくしたてたのだった。
「すみません、勝手に入ってしまって。決して泥棒とかそういうんじゃなくて、気付いたらいきなり森の中にいたので電話でも貸していただけないかと思いまして。あっ、身分書とか見せたほうがいいですよね…………」
明日香はそう言うと自分の着ていたコートのポケットを探り始めた。あわてふためく明日香を見て女性は一瞬あっけにとられていたが、目的のものが見つからずだんだん青ざめていく明日香を見てクスクスと笑い、再び声をかけてきたのである。
「ふふふっ。そんなにあわてないで落ち着いてください。別に誰が来られてもかまいませんよ?此処はそういう場所なんですから」
そう言うと女性は手にしていた本をカウンターへと置くと明日香の方へと向き直った。
「そういう場所って?」
「とりあえず、お茶でもしませんか?休憩をとろうかと思っていたところですので。私は円と言います。この狭間の館の管理人です」
「あっ、あたしは橘 明日香と言います」
明日香はぺコリと円に向かってお辞儀をした。
「明日香さんですか、こちらこそよろしくお願いいたします」
円はそう言うと同じ様にお辞儀を返し、明日香に椅子に座るようにと勧めた。そしてテーブルにあった本と明日香を一瞬見比べたが、何事も無かったかのように本をテーブルの脇へとどけた。そしてカウンターの裏側へと周りお茶を用意すると、お盆に載せテーブルへと戻って来た。そして明日香の前にティーカップを置いた。
「どうぞ。暖かいものを飲めば落ち着きますよ」
「ありがとうございます。…………おいしい」
「お口にあったようで嬉しいです。落ち着かれたようなので此処について説明しますね。何か聞きたいことってありますか?」
「あの狭間の館の狭間はどこかの地名なんですか?」
「この館が此処とある場所の中間にある為にそう呼ばれるようになったと聞いています。でも私も此処の管理をするようになって数年なので由来についての詳しいことはまだ知らないんです。まぁ、管理と言ってもその仕事の大半はこの蔵書の管理ですけど。・・・・ところで明日香さんはどうしてこちらに?」
明日香はカップをテーブルに置くと自分に起こったことをよく思い出しながら円に語った。
「それが、さっきも言ったように気付いたらこの館のある森に立っていたんです。その直前までは、確か家から公園までの道を歩いていたはずなんですど。…………おかしいですよね」
最後の方になると本当に自分はその道を歩いていたのか半信半疑になってきていた。そんな明日香の戸惑いを感じたのか、円はなだめるようにこう答えを返した。
「おかしくないですよ。ここは明日香さんのよう方がよくいらっしゃいますから。そして、私に与えられた仕事の中には明日香さんのような方をお世話するという仕事もありますから」
明日香は、円のその言葉に救いを求めるかのように聞き返した。
「私のような人の世話?」
「はい。しかし、その前にこの場所についての説明をしなければいけません。今から話すことは、明日香さんには理解しにくい事ですし受け入れがたい事です。でもこれは事実ですし、明日香さんには理解し受け入れていただかなければいけません」
明日香は、円の前置きを我慢できないのか、椅子から立ち上がり円に詰め寄った。
「円さん。教えてください!あたしは帰りたい、帰らなければいけないんです。大切な約束があるんです!!」
「分りました。先ほど明日香さんはこの館の名の由来を質問されましたね?覚えていらっしゃいますか?」
「確か…………ここはある場所との狭間にあるって……」
「そうです。そしてそのある場所と言うのが、明日香さんのいた世界『現世』と呼ばれる場所。そしてここが『あの世』です」
明日香は、その言葉に力が抜けたのかガタンと大きな音をたて座り込んでしまった。それでも何とか混乱をしずめようと円へと問いかけた。
「ちょっと待ってください。ということは、まさか…………」
「そう、あなたは死んだのです」
「や、やだな、円さん。ふざけないでください!!私が死んだって、じゃあ円さんも?そんなことあるわけ…………」
「私は、あの世の役所の者です。本来なら、あの世にある役所で死者の皆様のお世話が仕事です。でも時々、あなたのように役所からのお迎えから外れてしまう方々がいるのです。その方々をお世話するのが私達、狭間の館の管理人の仕事です」
「仕事って、何それ!!頭おかしいんじゃない、私は死んでなんかいませんから!!おじゃましました!」
明日香は、怒りにまかせ部屋を飛び出し、階段を下りると勢いよく玄関から飛び出し館の外へと出て行った。
そんな明日香をどこか哀れむような目で見つめ、円は一人つぶやいた。
「…………最初から自らの死を認める者などいない。でも、あなたは戻って来る」
この話は、趣味の芝居練習ように書いた話なので
スムーズに書けるかと。
でも少し、暴走するかも(爆)