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海底レストランを思い出して

作者:
掲載日:2026/05/02

ゆらゆらと差し込んでくる光。

ゆらゆらと差し込んでくる光。


青く、青く、満たされて、遠い。

青く、暗く、満たされて、黒い。




そうして、私は目を覚ました。


自室の天井ではなかった。

この目に飛び込んだのは、

周りを見渡しても見たことのない、

そんな場所だった。


それは巨大な水槽のようで、

そして内装を満たしているのは。


一番、見覚えのある近しい所は。


「……ここは、レストラン?」


大きく息を吸って、吐いた。

まだ夢の中にいるのだろうか。


そんなことを考えていると、声がした。





「今回からの人?」


振り向くと、白いシャツに黒いベスト。

つまり、レストランの店員さん、

のような人が立っていた。


「ここはレストラン。

 海底にあるレストラン。

 まあとりあえず着替えて」


その人に引っ張られて連れていかれる。


やはり、確かにレストランだった。

窓の外には魚がくねくねと泳ぎ、

クラゲが舞っている。


テーブルにはナイフとフォーク、

そしてカップ。


厨房に入れられる。


「これに着替えて」


その人と同じ服。


「いや、あの……なんで?」


思わずそう聞く。

いや、それ以外にも、

聞きたいことはあったけれど、

とりあえずその言葉が口をついた。


「最初は店員の回だから」


周りを見渡すと、

他にも人がいて料理の準備に奔走していた。


「まあ、その、言いたいことは分かるよ」


その人は言う。


「とりあえず最初は見ていればいいから。

 助けてほしい時に声をかけるね」


そう言って、その人は、

皆の中に入って料理を運び出した。





それから少し時間が経って、

大きな扉から人が入ってきた。


ドレスコードに身を包んだ、

つまり客のような格好の人たち。


店員はその人たちを席へ案内する。

そして料理の説明をして、客は食べ始める。


なんてことのないレストランの光景。


なのに、妙に異様なものに感じるのは、

この場所のせいだろうか。


そう、ここは綺麗で、それが逆に恐ろしい。


少し違和感を覚える。

それが何か、まだ分からない。


ぼんやりと見ていたが、

先ほどの店員の名札に目が留まる。


そこには「イオトクフダ」と書いてあった。


「名前……」


「それは後にして。

 そして、申し訳ないけど、配膳をして」


連れられる。


肉の乗った大皿を手渡される。


「これは『黒毛和牛ロース肉の炭焼き

 赤ワインの香りとハーブのアクセント』

 と、言って渡して。あそこのテーブルね。

 丁寧によろしく」


そう言ったかと思えば、

もう別の料理を持って行った。


……まあ、言われたのならやるしかない。

指定されたテーブルへ向かう。


男性一人のテーブルだ。

ワイングラスに入った、

赤ワインを楽しんでいた。


その人のところへ行き、言う。


「こちら、『黒毛和牛ロース肉の炭焼き

 赤ワインの香りとハーブのアクセント』

 です。

 どうぞお楽しみください」


料理を置く。


その人は軽く会釈をして、食べ始める。

それを見て戻る。


「ありがとうね」


店員さんに言われる。


「いえ、暇だったので、全然」


 


それからも店内を眺めては、

時々配膳をすることを繰り返した。


そして最後の一人の客が帰ったとき、

店員たちは店の掃除を始めた。


終わったのだろうか。


「お疲れ様」


声をかけられる。


「あ、いえ……えっと、

 イオトクフダさん?」


名札に書かれた名前をそのまま読む。


「イオトクフダ。

 もちろん本名じゃないよ。

 ここに来たときに与えられた名前」


イオトクフダさんは椅子に座る。

私も椅子に座る。


「あの、えっと、

 聞きたいことがいろいろあるんですが」


「まあ、そうだろうね。何が知りたい?

 そうは言っても、

 私も知らないことだらけなんだけどね」


「そうですね……まず、ここは何ですか?

 なぜここに私たちはいるんですか?」


イオトクフダさんは立ち上がる。


「歩きながら話そうか」


「はい」





窓を見ながら、二人で歩く。

青々とした幻想的な雰囲気。


それはここが現実ではないと、

そう告げているようだった。


イオトクフダさんは気楽に歩いている。

当たり前のように。


「あなたの名前、書いてあるよ」


イオトクフダさんは、

私の胸元の名札を見る。


私も見る。


「ミタナカエン」と書いてあった。


「あなたの名前はミタナカエンね。

 よろしく」


「……はあ」


歩き続ける。


「まず、ここがどこかは分からないし、

 なぜここに来たのかも分からない」


イオトクフダさんは言う。


「分かっていることは、そうだね。

 ここに来た人は、

 回を全うする必要があること」


「回?」


「うん。

 それは今みたいに店員の回だったり、

 客の回だったりする」


客としても過ごす?

ここで?


ますますわけが分からない。


「それを繰り返す。ずっと」


「……いつまで、ですか?」


「それも分からない。

 私はもう四十一回を超えたよ」


イオトクフダさんは笑ってそう言う。


「ここから逃げようとは?」


「試してみたけど無駄だったよ。

 扉はびくともしないし、

 この窓も壊せない。

 試しにナイフで手首を切ってみたけど、

 全く切れなかった」


出られない。


本当に。


そうしていると、

ピアノの音が聞こえてきた。


「月の光」だ。


「あ、

 もうすぐ次の回が始まるから行こうか」


イオトクフダさんは私を連れて、

厨房の隣へ。

壁に貼られた紙を見る。


「あなたは客か。私はまた店員だね」


よく見ると、それは名簿のようだった。


私の名前の横には客、と書かれている。


そしてピアノが終わると、

また知らない部屋に立っていた。

______________________________


目の前には、客が入ってきた扉。

なるほど、ここから入ってきたのか。


周りには、私の他にも人がいた。

服装はいつの間にか、

ドレスコードに変わっている。


そして扉が開き、


「いらっしゃいませ」


声が聞こえた。


そして席に案内された。




私は、客としてレストランを眺めていた。

そしたらいくつか、気づくことがある。


まず、窓の向こう。


魚は、数百匹ほど泳いでいる。

種類はばらばらで、統一性はない。


だが、その中に、

一匹だけ、ほとんど泳がない魚がいる。


ただ、そこに留まり、

ずっとこちらを見ている。


まるで、

このレストランを観察しているように。


次に、店内。


テーブルが並ぶ中、

一つだけ、異質なものがある。


空っぽのテーブル。


他とは明らかに違う材質。

磨かれているのに、

どこか使われていない、そんな気配。


席は二つ。

だが、そこには誰も座ろうとしない。


次に人。


店員も、客も。

仕草で、なんとなく分かる。


ここに来てからの時間。


慣れている者。

戸惑っている者。

諦めている者。


言葉にしなくても、それが滲んでいる。


そしてメニュー。

コースは十種類。


だが、これもおかしい。

テーマが統一されていない。


和食、洋食、見たことのない料理。

組み合わせに一貫性がない。


一口食べる。


美味しい。

確かに、美味しい。


でも、だけど、

味がばらばらだ。

調和していないのに、成立させている。


そして、

どこかで感じる。


これは、

誰かの好みが、

そのまま並べられている味だ。


思いの寄せ集め。

空間も、料理も、魚も。


まだ何もかもが分からないし、

間違っているかも。

ただ一つ思ったことは、


このレストランは、

誰か一人の中身を、

そのまま、

ここに広げたものなのかもしれない。


そして、また、次の回がやってくる。

______________________________


店員の回、だった。


私はとにかく配膳をして、接客をした。

記憶力は良かった。昔から。


メニュー、配膳方法、席の配置は覚えた。


「よくそんなに早くに覚えられるね〜」


イオトクフダさんは感心していた。


私は、

他の不慣れな人たちのフォローに回った。




そして、閉店後の店内。


皿の触れ合う音も消え、

水の揺らぎだけが残って、

ゆらゆらと魚は泳いでいる。


私は、窓際の席に座っていた。

魚は、今日も変わらずこちらを見ている。


「……お疲れ様。

 何をしているの?」


声をかけられて振り向く。


そこにいた人は、

配膳の時に何度か見かけた人だった。


名札には「ミミトカムラ」と書いてある。


「魚を見ています」


「......なるほど」


ミミトカムラさんは、

興味があるのかないのか分からない顔で、

隣の椅子に腰を下ろした。


「あなたは優秀だね。

 もう他の人のフォローができている」


「そうなんですか?」


「うん。だいたいの人は、

 自分のことで精一杯になるから」


テーブルに頬杖をつく。


「まあ、ここに慣れてくると、

 だんだんどうでもよくなるからね」


その言い方を聞いて、

ここに長くいる人なのだと直感した。


「ミミトカムラさんは、

 ここにどれくらい、いますか?」


そう聞くと、少しだけ視線を宙に泳がせる。


「……さあね。数えるの、途中でやめたよ」


「......?」


「最初は数えてたよ。何回目の回とか」


軽く笑って、それでも、目に浮かぶのは、

諦念だった。


「でも、意味ないって気づいてから辞めた」


「……出ようとは思わないんですか?」


「思ったよ。最初はね。

 でも、出られなかった」


それだけ言って、

話を終わらせるように肩をすくめた。


それ以上は聞かない方がいい気がして、

口を閉じる。


水が揺れて、光が動く。

二人でそれを見る。


恐ろしい。もうこの光景を恐ろしいと、

そう感じなくなったことが恐ろしい。


「ねえ」


ミミトカムラさんが、ふとこちらを見る。


「あなたの、名前は?」


「あ、ミタナカエンです」


「そっか」


それだけ言って、また窓の外を見る。

まるで、名前にあまり意味がないように。


なにか、寂しそうな顔した。

そんな気がした。


その時に、

奥の方で、何かが倒れる音がした。


ガタン、と。

反射的に振り向く。


厨房の入り口あたりで、

一人の人が立ち尽くしていた。


名札には「デムラヤタン」と書いてある。


顔色が悪い。

というより、明らかに怯えている。


その顔を見て、よくよく考えたら、

怯えている人があまりいない。


私もいつもは怖がりで、

お化け屋敷とか絶対行けないのに、

ここはなぜか、

そういう恐怖とかが感じない。


「……あの」


小さな声で、

こちらを見ているけど、

視線が定まっていない。


「だ、大丈夫ですか?」


私が声をかけると、びくりと肩を震わせた。


「す、すみません、すみません……」


謝る必要はないのに、何度も頭を下げる。


「皿、落としてしまって……」


足元を見ると、割れてはいないが、

皿が転がっている。


「ああ、大丈夫ですよ。割れてないですし」


そう言って拾おうとすると、


「あ、私やります……!」


慌てて手を伸ばす。

その動きがどこかぎこちない。


「……新しく来た人?」


後ろからミミトカムラさんが声をかける。


「は、はい……多分……」


自信なさげに答える。


「多分?」


「……気づいたら、ここにいて……」


声がどんどん小さくなる。

その様子を見て、

ミミトカムラさんは軽くため息をついた。


「まあ、最初はそんなもんだね」


椅子から立ち上がる。


「ほら、こっち来なよ。座って」


デムラヤタンさんは少し迷ってから、

また怯えてゆっくりとこちらに歩いてきた。


椅子に座る動きも、どこかぎこちない。


「……デムラヤタン、です」


小さく名乗る。


「ミタナカエンです」


「……ミミトカムラ」


うん、やっぱり珍妙で不可思議な名前だ。


この名前を考えた人がいたら、

なんでこんな、

よく分からない名前を付けたのか、

問いただしたい。


「……ここって」


デムラヤタンさんが、恐る恐る口を開く。


「何なんでしょうか……」


その問いは、私も同じく。


ミミトカムラさんは、

少しだけ考えてから言う。


「さあ、全く分からない」


「私も、全く」


「そう、ですか......」


ミミトカムラさんは、

テーブルを指で撫でて言う。


「分からないままでも、

 回は来るし、終わる。

 それだけは、絶対に、

 何があっても起こる」


デムラヤタンさんは、ぎゅっと手を握る。


「……怖いです、とても」


正直な言葉だった。


「そうだね」


ミミトカムラさんは、あっさり頷く。


「怖いかもしれないね。

 ただ、でも、でもまあ」


少しだけ口元を緩める。


「ここには皆がいるから」


その一言で、空気が少しだけ柔らいだ。




私は、ふと窓の外を見る。

あの魚は、変わらずそこにいる。


動かず、ただこちらを見ている。

ただ、こちらを見ていた。


遠くか近くかで、ピアノの音が流れ始める。


「……来る」


ミミトカムラさんが立ち上がる。


「次の回」


私たちも、それに続く。


まだ何も分からないまま、次の回が始まる。

______________________________


「こ、今回は皆店員の回ですね。

 迷惑かけないように頑張ります......」


デムラヤタンさんはそう言った。


確かに、私、イオトクフダさん、

ミミトカムラさん、

デムラヤタンさんは店員だ。


「ま、分からないことは、

 ミタナカエンに聞けば大丈夫だよ。うん」


「イオトクフダ、あなたのほうが先輩でしょ」


「......はい、すみません」


「あ、うん。まあ、

 いつでもフォローします」


そうして、今回は調理も手伝った。


配膳の回の時にやり方は見ていたので、

とりあえずは大丈夫だった。


デムラヤタンさんを見やる。

危なっかしいが、きちんと頑張っている。


あの空のテーブルは、

また、まだ、誰もいない。




そして、閉店後の店内。

また、客も店員も曖昧になる、静かな時間。


私たちは、

自然と同じテーブルに集まっていた。

誰からともなく、話し始める。


「昔さ、ここに来る前はね、

 工場で働いていたんだ」


ミミトカムラさんが、ぽつりと口を開く。


「特に面白みのない、そんな所だよ。

 でもね、一つだけやりがいがあって」


少しだけ視線を落とす。


「私の手際の良さを、褒められた時」


言葉は淡々としているのに、

どこか柔らかい。


「私は、人を認めるとか、

 自分を認めるとかが苦手で。

 どうにも苦手で。

 だから、誰かに褒められた時、

 期待された時、

 どうしようもなく嬉しいんだ」


私達は静かに聞いていた。


「でもね。同じくらいに思うんだよ。

 この人は、私がどうしようもない、

 本当に無能を晒したら、

 きっと失望するって」


「……それ、分かります」


デムラヤタンさんが、小さく頷く。


「私も、ずっと怖いです。

 ここのことも……そして、何もかもが」


両手をぎゅっと握っている。


「……そういうこと、

 考えたこともなかったな」


イオトクフダさんが、

少し考えるように言う。


「私は、前は……というか今も学生で。

 来週、期末テストがあるから、

 まあ、怖いって言えばそれくらいかな」


少しだけ、空気が軽くなる。


「私は……」


視線が集まる。


「えーと……あまり話すことがないですね。

 営業の仕事をしていて。銀行の」


「え、すごいじゃん」


イオトクフダさんが、ぱっと顔を上げる。


「というか、もしかして私が一番年下?

 ごめん、タメ語で良かった?」


「いいですよ」


私は小さく頷く。


「私は敬語の方が気楽なので、

 そうしているだけなので」


「皆、見た目じゃ年齢分からないからね」


ミミトカムラさんが言う。


「本名も分からないし」


「……というか」


デムラヤタンさんが、

少し不安そうに口を開く。


「本名を、思い出せないです。

 ……何ででしょう」


「それも、このレストランの力かもね」


ミミトカムラさんは、あっさりと言う。


「それ以外は思い出せるのに」


「うーん……」


イオトクフダさんが天井を見上げる。


「このまま、

 勉強の内容も忘れたらやばいな〜」


少しだけ笑いが生まれる。

でも、それは長く続かない。


「……このレストランには、

 今三十人が在籍しています」


私は言う。


「十五人が店員の回。十五人が客の回。

 メニューはおすすめのみ。

 選択はできない」


一度言葉を切る。


「色々と決められていることがある。

 それは、誰かの意思なんでしょうか。

 それとも、

 ただそうなっているだけ……?」


「私は、誰かの意思だと思う」


ミミトカムラさんが、即座に言う。


「おそらくは、あの魚」


窓の外をちらりと見る。


「ここを見張ってる、

 あれが関係してるんじゃないかって」




「......ん?」


イオトクフダさんが、

呆気に取られた顔をする。


「え、何。魚って。え、まじで何?」


私とミミトカムラさんは目を見合わせる。


デムラヤタンさんもよく分からない、

そんな顔をしている。


「ええと、実は......」


私はここで気が付いたことを全部話した。

聞いてはいなかったけど、やっぱり、

ミミトカムラさんも気が付いていた。


「......まじ?」


「はい、まじです」


「全っ然、気にも留めてなかった......」


「私も、です......」


恐らくは、この人たちの記憶力が悪いとか、

私達が特別記憶力がいいとか、ではない。


忘れさせられている。


本名から、ここに至るまでのこと。

そして、何故か、私は忘れていない。


だから、気付けたのかもしれない。




「まあ、それは置いておいて」


空気を変えるように、

イオトクフダさんが言う。


「皆、来る直前って何してたの?」


「私は、工場から帰るところだった」


ミミトカムラさんが答える。


「次の日が休みでさ。

 ドラマを一気見しようかなって思ってた」


「……私は、寝てました」


デムラヤタンさんが小さく言う。


「暇だったので……」


「私は残業から帰って寝ようとしてました」


私は続ける。


「急にアポが入って、

 遅くなったんですよね。

 イオトクフダさんは?」


「えーっとね、私はね……」


少しだけ、言い淀む。


「な、何か言いづらいことなら、

 言わなくてもいいですよ」


デムラヤタンさんが慌ててフォローする。


「いや、そういうわけじゃないんだけど」


イオトクフダさんは、少し苦笑して、


「恋人に振られて、帰ってたんだよね」


「そうなんですか?」


「うん……三年付き合ってたんだけど」


視線が、少しだけ遠くなる。


「理由は……よく分からないまま」


言葉が、そこで止まる。


その沈黙の中で、

ピアノの音が、ゆっくりと終わり始める。


次の回がやってくる。


「あ、もうすぐ始まるね。準備しようか」


ミミトカムラさんがそう言って立ち上がる。

私たちも立ち上がって、名簿を見にいく。


そんな中で、

イオトクフダさんの表情が強張っていた。


「......あれ、恋人の顔、

 どんなだったっけ......」


小さく、そう呟いた。


次の回がやってくる。

______________________________


回をいくつも重ねたあと、

私たちは、

自然と同じ席に集まるようになっていた。


「ここの料理さー、美味しいけどさ」


イオトクフダさんがテーブルに、

頬杖をつきながら言う。


「皆で一緒に食べられないの、

 ちょっと辛いよねー」


「そうですね」


私は頷く。


「たまにお酒が出るのが、少し嬉しいです」


「いいなあ」


ミミトカムラさんが軽く肩をすくめる。


「私、お酒苦手だから。ちょっと羨ましい」


「……あの」


デムラヤタンさんが、

少し遠慮がちに口を開く。


「ここから出られたら……

 皆でご飯食べに行きませんか?」


「出られたら、ね」


ミミトカムラさんが返す。


「出られるよ」


すぐにイオトクフダさんが言った。

軽い調子なのに不思議と迷いがない。


「そうですね」


私は言葉を継ぐ。


「回を重ねるごとに、

 この場所は少しずつ不安定になっています。

 理由は分かりませんが」


「ていうかさ」


イオトクフダさんがこちらを覗き込む。


「ミタナカエンって、記憶力いいよね?

 メニューの名前も、作り方も、

 一回見ただけで全部覚えてたじゃん」


「……私は、覚えるの苦手で……」


デムラヤタンさんが小さく言う。


「すごいです」


「いや……うーん」


少し困ってしまう。


「確かに、物覚えは良い方かもしれません」


「ここの変化にも、最初に気づくからね」


ミミトカムラさんが言う。


「助かってるよ」


「……なんだか、褒められすぎて、

 変な感じです」


「いいじゃん、たまには素直に喜びなよ」


イオトクフダさんが笑う。

その空気が、少しだけ心地いい。


そのとき。グラスの中の液体が、

わずかに揺れた。誰も触れていないのに。


視線が自然と窓の方へ向く。


あの魚が、いた。

変わらず、動かず。こちらを見ている。


まるで、この会話を聞いているみたいに。


誰もそのことを口にしなかった。

ただ、少しだけ、笑い声が小さくなった。

______________________________


「ねえ、イオトクフダってさ」


閉店後、グラスを指で回しながら、

ミミトカムラさんが言った。


「恋人いたって言ってたよね。

 どんな人だったの?」


少しだけ、間が空いた。


イオトクフダは、軽く笑う。


「えー、普通だよ、ほんとに」


そう言いながら、視線はどこか遠い。


「背は私よりちょっと高くて、

 あんまり喋んない人でさ」


グラスの中の水面が、ゆらりと揺れる。


「でも、たまに変なこと言うんだよね」


小さく笑う。


「コンビニでアイス選ぶのに、

 五分くらい悩んだり」


「……長いねえ」


ミミトカムラさんが呆れたように言う。


「でっしょ? しかも結局、

 いつも同じやつ選ぶの」


「じゃあ悩む意味ないじゃん」


「ほんっとそれ」


少しだけ、空気が和らぐ。


「でもさ」


イオトクフダさんは続ける。


「そういう時間、

嫌いじゃなかったんだよ」


視線が、テーブルの上に落ちる。


「何も起きない時間っていうかさ。

 ただ隣にいて、

 どうでもいいことで笑って」


指で、グラスの縁をなぞる。


「これで、いや、これがいいって思える感じ」


少しだけ、沈黙が落ちる。


「三年付き合ってたと聞きました」


私が聞く。


「うん。まあまあ長いよね」


軽い調子で言う。

でも、その指先は止まっていた。


「別れた理由って……

 あの、分からないって言って、

 ましたよね」


デムラヤタンさんが、遠慮がちに聞く。


イオトクフダさんは、少しだけ考えてから、

肩をすくめる。


「うん。なんかさ」


一度、言葉を探す。


「疲れたって言われた」


「……疲れた?」


「うん」


苦笑する。


「何に疲れたのかは、

 最後まで分かんなかった」


視線が、どこにも合っていない。


「私、なんかしたかなーって思ってさ。

 でも聞いても、違うって言うだけで」


グラスの中の水が、わずかに揺れる。


「そのまんま終わった」


短く言う。


「……納得は、できてない?」


ミミトカムラさんが聞く。


「うーん」


イオトクフダさんは、少しだけ笑って、


「できてないね、全然」


あっさりと言った。


「だってさー、終わるなら、

 ちゃんと終わってほしいじゃん」


指で、軽くテーブルを叩く。


「嫌いになったならそう言ってほしいし、

 他に好きな人ができたなら、

 それでもいいし。

 いや、よくはないけど」


一度だけ言葉を切る。


「でも、分からないまま終わるのってさ」


小さく息を吐く。


「どこにも行き場がないんだよね」


静かだった。ずっと。

水の音だけが、遠くで揺れている。


「……会いたい、とかって、

 ......あるんですか?」


デムラヤタンさんが、小さく聞く。


イオトクフダさんは、少しだけ考える。


「うーん……」


そして、肩をすくめて笑う。


「どうだろうね」


でも、その笑いは、少しだけ遅れていた。


「会って、何言えばいいか分かんないし」


視線が、窓の外へ向く。


「でもさ」


ぽつりと続ける。


「もし会えたら、一個だけ言いたくて」


「何を?」


「……あの時間が、好きだったって」


それだけ言って、口を閉じた。


誰も、すぐには何も言えなかった。

ただ、水だけが、揺れて、揺らいだ。


そしてまた、いつものように、

次の回がやってくる。

______________________________


「イオトクフダさんは?」


「ああ、今片付けの手伝いしてる」


閉店後に三人で席に座っていた。


「今回は......疲れましたね。なんでか......」


「そうだね......」


「なぜか今回は疲れましたね」


三人とも無言で窓の外を見る。

魚はいる。


「......そういえば」


デムラヤタンさんが言い始める。


「お二人って、恋人いますか?」


「私はいないね」


「まあ、私もいません」


「......すみません。私もいません」


「皆いないんだね」


「なんで聞いたんですか」


「いや、なんとなく......」


デムラヤタンさんは申し訳なさそうに答える。


「じゃ、私もなんとなく話すけど」


ミミトカムラさんは言う。


「皆に会うまでは、

 もう帰らなくていいって、

 そう思っていた。

 元の世界に帰っても、また、承認と、

 失望への恐怖に苦しむって」


ミミトカムラさんは続ける。


「なら、何も考えなくていい、

 ここでいいって。

 でも、今は帰りたい。


 ......皆とご飯食べたいから」


「あ、私もそうです!」


デムラヤタンさんが少し前のめりになる。


「私も私以外全部が怖くて、

 怖くて仕方なくて、

 だから、帰りたくないって。


 でも、怖くても、進みたいって、

 ......いや、本当少しだけですけどね、

 思いました」


ここに来て、何かを変わったのか、私は、

よく分からないけど、あまりらしくないけど、

友達ができたかもしれない。


そして、壁にかけられた絵が変わっていく。

その瞬間に、絵の端、

夕焼け、二人の影がある、そんな絵に、

文字が見えた。


「サテノナラエ?」


思わずに口に出す。

何だろうか、それは。


窓の外の魚が、ぴたりと動きを止めた。

見られている。


そんな感覚が、はっきりとした形で、

胸に落ちる。


ミミトカムラさんは、少しだけ目を細めて、


「……名前だね」


と、言った。


「誰かの」


水が、ゆらりゆらりと揺れる。


まるで、

その名前を、

呼ばれたくなかったかのように。

______________________________


ゆらゆらと差し込んでくる光。

水面の揺らぎが、天井に歪んだ、

影を描いている。


閉店後。

音はほとんどない。


皿の触れ合う音も、足音も消えて、

ただ水の気配だけが残っていた。


三人で席に座っていた。


イオトクフダさんはいない。

また片付けの手伝いをしているらしい。


「……静かですね」


私が呟くと、

ミミトカムラさんは小さく頷いた。


「こういう時間、嫌いじゃないよ」


デムラヤタンさんは、

両手でグラスを包みながら、

どこか落ち着かない様子で窓の外を見ている。


魚は、いる。

いつも通り。


……いや。


「……あれ」


私は、違和感に目を細めた。


「どうしたの?」


「いえ……」


立ち上がる。

窓際の壁。

そこに掛けられている絵。


何度も見てきたはずのそれに、

ほんの少しだけ、違和感があった。


近づく。

そして、気づく。


「……文字?」


絵の端。

本当に、端の端。


削れたように、滲んだように、

それでも確かに、書かれている。


「サテノナラエ」


「……それは」


ミミトカムラさんが、後ろから覗き込む。


「あの時の、名前……?」


デムラヤタンさんも、恐る恐る近づく。


「……こんなの、前からあった?」


「いいえ」


私は即答する。


「少なくとも、私は見ていません」


空気が、少しだけ変わる。


静かな水の中に、

小さな波紋が広がるみたいに。


「……他にも、あるかもしれないです」


私はそう言って、店内を見渡した。

違和感は、一つだけじゃない気がした。


探す。


テーブル。

椅子。

壁。

照明。


そして、


「……ここにも」


メニューの裏。


指でなぞると、

かすかに凹凸がある。


同じ文字。


「サテノナラエ」


「……え」


デムラヤタンさんの声が震える。


「こっちにも……」


皿の裏、

ナイフの柄、

ワインのラベルの隅。


そこかしこに、

意図的に隠されたように、

同じ名前が刻まれている。


「……何、これ」


ミミトカムラさんが、低く呟く。


「全部にある……」


「……」


私は、ゆっくりと息を吸う。

これは、ただの落書きじゃない。


サインだ。

この空間を作った誰かの。


「……このレストランは」


言葉にする。


「誰かが作ってる」


静寂、

そのとき。


カタンと。


小さな音がした。

三人同時に振り向く。


空のテーブル。

誰も座っていないはずの席。


その上のグラスが、

ほんのわずかに揺れていた。


「……今、誰か触った?」


「いえ……」


誰も動いていない。


でも、グラスの水面が、

まだ、わずかに揺れている。


まるで、

誰かがそこにいたみたいに。


「……」


デムラヤタンさんが、後ずさる。


「や、やっぱりここ、何か……」


「違います」


私は、遮る。

目を離さずに言う。


「いる、ではありません」


一歩、近づく。

空の席へ。


ナプキン、

ほんの少しだけ、折り目が崩れている。

椅子、

わずかに引かれている。


「……これは」


喉が、少しだけ乾く。


「誰かの記憶が残ってるだけです」


「……記憶?」


「はい」


振り返る。


「ここには、誰かがいて、

 そしてその人は、

 ここで食事をしていました。


 でも今はいない。

 なのに、その痕跡だけが残っている」


言葉にするほどに、

確信が形を持つ。


「……じゃあ、その記憶の主は?」


ミミトカムラさんが問う。


私は、答えない。

代わりに、窓の方を見る。


あの魚。

ずっと動かない魚。

ずっと、こちらを見ている魚。


「……」


ゆっくりと、近づく。


そして、

目が合う、

その瞬間。


魚が、

ほんのわずかに、

揺れた。


息が詰まる。


ただの魚じゃなく、

あれは。


「……見ています」


思わず、呟く。


「私たちを」


「……誰が?」


デムラヤタンさんの声。

答えは、もう出ていた。


「……このレストランを作った人、です」


「それは、サテノナラエ」


名前を、口にする。

その瞬間。


水が、

一瞬だけ、

歪んだ。


魚たちが、同時に向きを変える。

空間が、わずかに軋む。


まるで、

その名前に、

反応したみたいに。


「……やっぱりいる」


ミミトカムラさんが、静かに言う。


「この場所には、誰かがいる」


私は、頷く。言葉にして、

胸の奥で、確信が固まる。


このレストランは、

ただの空間じゃない。

ただの異世界でもない。


「……これは」


ゆっくりと、ゆっくりと言う。


「一人の人間の、記憶です」


静寂と水の音だけが、残る。


「そして」


窓の向こうにいる、

あの魚を見つめながら。


「その人が、それらしく言うなら、

 オーナーです」


誰も、否定しなかった。

否定できなかった。


もう、

気づいてしまった。

______________________________


回を重ねるごとに、

違和感は変化と変わっていった。


私は、それをすべて覚えている。


最初に見た魚の数。

泳ぎ方。

配置。

テーブルの位置。

内装の細部。

メニューの構成。


少しずつ、確実に変わっている。


他の三人は気づいていない。

いや、正確には、

気づけない。


名前すら曖昧になるこの場所で、

変化を比較できるのは、私だけだった。


閉店後に皆を集める。


「……まとめると」


私はゆっくりと口を開く。


「このレストランは、

 誰かの記憶を基に作られています。

 ただし、それは一定ではなく、

 少しずつ変化している」


三人の視線が集まる。


「魚の種類に統一性がないのも、

 料理や内装の方向性がバラバラなのも、

 全部記憶の断片だからです」


一度、窓の外を見る。


「あの、ほとんど動かない魚。

 あれはおそらく、観測者です」


「……つまり」


イオトクフダさんが、

少しだけ考えてから言う。


「その誰かっていうのが、確か、

 オーナーってこと?」


「はい」


「で、そのオーナーは」


少しだけ言葉を選ぶ。


「色々な場所に行っている。

 海だけではなく、

 地上の記憶も混ざっている」


「……ああ、うん、なるほどね」


イオトクフダさんが、小さく頷く。


「なんか分かったかも」


顔を上げる。


「その人、さ」


少し間を置いてこう言う。


「誰か、いたんじゃない?

 すごく大事な人。

 一緒にいろんな所に行って、

 いろんなもの食べて」


確信していた。そんな言い方だった。


「……それを、全部置いていって、残してる」


空気が少しだけ沈む。


「うん、多分そうだね」


ミミトカムラさんが、あっさりと肯定する。


「じゃあさ」


椅子に深く座り直して、こちらを見る。


「その記憶を揺らしてみる?」


「……揺らす?」


「今、

 このレストランは不安定なんでしょ?」


指先でテーブルを軽く叩く。


「なら、だったら、それをもっと崩す」


まるで、壊れかけのものを、

さらに押すみたいに。


「例えば、」


窓の方を見る。


「あの魚に、

 気づいてるってことを見せるとか」


「……」


「あるいは、あの空のテーブル、

 使ってみるとかね」


そう言う。


「待ってください……」


デムラヤタンさんが、震える声で口を開く。


「それって……」


一度、息を飲んで言う。


「もし、もしも、

 本当にその人のための場所だったら……」


視線が空のテーブルに向く。


「……勝手に触って、大丈夫なんですか?」


静まり返る。


その問いは、

今まで誰も口にしなかったものだった。

これは、観察していい場所なのか。


それとも、

踏み込んではいけない場所なのか。


ピアノの音が、遠くで鳴り始める。


次の回がやってくる。

______________________________


今回は私とイオトクフダさんは店員だった。


イオトクフダさんが、

空のテーブルに近づく。


空のテーブル。


誰も座らないはずの席。

そのまま、

何のためらいもなく椅子に手をかける。


その瞬間、

カタ、と。

ほんのわずかに、地面が揺れた。


もう一度。

カタ、カタ、と。


小さく、しかし確かに。


拒まれている。


まるで、そう、

ここに触れるなと言われているみたいに。


それでもイオトクフダさんは、

手を離さない。


そして、窓の方を見る。


「……オーナーさん」


小さく、呟く。


「私達の考えが全部合ってたとしてさ」


「もし、あなたが、

 このレストランを見てる理由が、

 推理通りだとして、

 私、あなたの気持ち、少しだけ分かるよ」


声は優しい。


「大好きな人がいなくなる気持ちは、

 分かるよ」


ほんの少しだけ笑う。


「……でもさ、

 こんなことしても、

 あなたが辛いだけだよ」


イオトクフダさんは静かに伝える。


「……だって、今、楽しい?」


問いは、水の底に沈むみたいに落ちていく。

返事はなかった。


けれど、

空間が、わずかに歪んだ。


窓の外の魚たちが、一瞬だけ軌道を乱す。

あの、動かない魚が。


ほんの、ほんの少しだけ、

揺れた。


イオトクフダさんは、もう、

それ以上は何も言わなかった。


そっと、手を離す。


空のテーブルから、一歩下がる。

それだけで揺れは、止まった。


レストランは、少しずつ変わっていく。


配置。

光。

音。


何かが、確実にずれていく。


それでも、

私は、私の役目を全うする。


料理を運ぶ。

言葉を添える。

そして、

窓の向こうを、見る。


「あなたは、パスタが好きなんですね」


私でも、

なぜそんなことを言ったのか分からない。

ただ、そう感じた。


「……私も、好きです」


その言葉は、誰に届くでもなく、

けれど、確かに、何かに触れた気がした。


また、次の回が始まっていく。

_____________________________


このレストランには、

一つだけ鍵のかかった扉があった。


「owners only」


そう書かれていて、8桁の錠前があった。


「......なんか脱出ゲームみたいですね」


デムラヤタンさんが呟く。


私達は閉店後に扉の前に集まっていた。


「こんなとこに扉あったっけ......?」


イオトクフダさんが聞く。


「いいえ、今回からです。

 なぜかは分かりません」


答える。


「これは開けたほうがいいかな。

 開けないほうがいい?」


「いや、でも開けて欲しくないなら、

 鍵なんてつけなくない?」


確かに変だ。

開けられたくないのなら、

錠前なんてつけなくて良い。


ミミトカムラさんは言う


「このレストランは、まあ、全部変だけど、

 ここまでのことを考えるなら、

 意味のあるものしか置いていないと思う」


「そうだね」


イオトクフダさんは肯定する。


「......多分だけど」


イオトクフダさんは言う。


「このオーナーはさ、

 誰かに理解して欲しいんだよ。

 自分のこと。

 だからわざわざ錠前をつけてる」


「なら、この8桁の暗証番号は、例えば、

 このオーナーの思い出の番号?」


ミミトカムラさんは頭を抱える


「いや、流石に分からないな......」


「......そうですね、時間があれば、

 総当たりをしたんですが、

 もう少しで次の回が始まります......」


デムラヤタンさんが呟く。


考えろ。ヒントはあったはずだ。

これまでの全て。


出てきた数字は全て記憶している。


「......ミタナカエン、何か分かる?」


イオトクフダさんが聞く。


「......おそらくは日付です。

 ちょうど、8桁ですし。

 イオトクフダさんが言ってくれたように、

 オーナーの大事な人との、

 思い出の日付である可能性が高いです」


「じゃあ、例えば記念日とか?」


ミミトカムラさんが言う。


「......記念日だと候補が多いですね」


デムラヤタンさんが答える。


記念日。

確かにそれもありうる。


そうだ。


このレストランは少しづつ分かりにくいけど、

古いものと新しいものがある。


それを考えれば、何か分かるかもしれない。


「私だったら何にするだろう......」


イオトクフダさんが言う。


思い出すと、

前回パスタの話をオーナーに投げかけた。


あのパスタの味付けは特有の地方のもので、

ただ一つ違和感があった。

その味付けだけは、

変化がなかったと言うこと。


それに意味があるのなら。

そして海に泳ぐ魚たち。


雑多に見えて法則があった。

変化する魚、しない魚。


そこから考えて、

オーナーが出会った、

その場所はなんとなく分かる。


ただ日付。これだけが......。


「あ」


ミミトカムラさんが何か気づく。


「ねえ、それ……」


ゆっくりとこちらを見る。


「変わらなかったって言ったよね?」


「……はい、そのパスタだけは、

 ずっと同じ味でした」


ミミトカムラさんは、少しだけ考える。


「じゃあさ」


指でテーブルを軽く叩く。


「それこそ、最初なんじゃない?」


「最初……?」


「うん」


「一番最初に食べたもの。

 一番最初に行った場所。

 一番最初に見た景色」


「だからこそ、変わらない。

 というか、変えたくない」


「……」


頭の中で、全部が繋がる。


変化する料理。

変化しない料理。

増える魚。

動かない魚。


雑多に見えて、確かにある芯。


「……出会った日」


デムラヤタンさんが続ける。


「その人と、初めて出会った日」


それなら、それだったら、


「変わらない理由が、説明できます」


「で、でも……」


デムラヤタンさんが続けて不安そうに言う。


「日付までは……どうやって……」


「分かります」


私は、はっきりと言う。


「このレストランの古さには、

 順序があります」


「内装、料理、配置。

 全部、少しずつ時系列になっている」


壁の装飾を見る。

古い様式。新しい様式。


「一番古いものを辿ればいい」


「そこが、最初です」


イオトクフダさんは笑って言う。


「ほんと、よく覚えてるね」


「……」


深く息を吸う。


あのパスタ。

あの場所。

あの魚。


全部を繋げる。


「……分かりました」


数字が頭に浮かび、

ゆっくりと、錠前に手をかける。


「入力します」




錠が外れた。

小さく、確かな音。


けれど、

扉は、開かない。


「あ、あれ、間違えた?」


イオトクフダさんが首を傾げる。


「……いえ、

 それだと錠も開かないはずです」


私は答える。


沈黙が落ちる。

その間に、時間が少しだけ歪む。


「……というか」


ミミトカムラさんが、眉を寄せる。


「次の回は?

 もうとっくに、

 始まっててもおかしくないよね」







「もうないよ」


後ろから声が聞こえる。


振り返る。


そこに、人がいた。

初めて見る顔。


なのに、

どこかで見たことがあるような、

そんな感覚が、胸の奥で軋む。


人の形をしている。


けれど、

それを人と呼んでいいのか、迷う。


私達は動揺する。


「あなたが、オーナーですか」


私の声は、それでも、

思ったよりも静かだった。


「そう」


短い返答。

その人は、ゆっくりとこちらへ歩いてくる。


「この番号……よく分かったね」


扉に触れる。

撫でるように。


その瞳は、私たちを見ていない。


もっと遠く。

もっと昔の、どこかを見ている。


「オーナー」


ミミトカムラさんが、前に出る。


「聞きたいことが山ほどあります」


「……答えてくれますね?」


「うん」


あっさりと頷く。


「じゃあ、席に着こうか」


その言葉で、空間が、静かに変わる。


次の回は、始まらない。


でも、

何かが、確実に始まる。


気づけば、テーブルが二つ残っていた。


空のテーブル。椅子は、五つ。


そして、

もう一つ。


向かい側に、椅子が二つのテーブルがある。

オーナーは、そこを見ない。


ただ、静かに座る。


「……まずは、どこから聞く?」


私は、息を整える。


「このレストランは、何ですか」


ようやく、本題に触れることができる。

______________________________


いつから生まれたのかも、

なぜ生まれたのかも分からない。

私たちは、そういう存在だった。


海にいた。

そこに、皆がいた。


そして海から出ていった存在は、

いつしか人間となって、社会を闊歩した。

それを見ていた。


醜いと思った。

世界を汚し、同じ種族をも汚す存在が、

穢らわしいと思っていた。


そんな時に、

私の住んでいた海底に人間が来た。

いや、来たというより、溺れていた。


このままだと死ぬだろう。

まあ、どうでもよかった。

それが運命で、自然の摂理だ。


だが、この場に死体があるのも気持ち悪い。

なので引き上げて助けた。


私たちは、人間ごときよりも遥かに強い。

救助は容易だった。


その人間は、私にしがみつき、泣いた。


早く消えてくれないだろうか。

そう思った。


それから、その人間、

名前はミミといった、

は、私に会いに来るようになった。

鬱陶しいことこの上ない。


無視しようかと思ったが、

あまりにもしつこいので、

仕方なく、仕方なく付き合った。


ご飯を食べたり、

一緒に自然を眺めたりした。


なぜか、それは、一人で見るよりも、

ずっと綺麗だった。


ミミは、

地方に伝わるパスタを私に食べさせてきた。


ミミは、よく笑う人だった。

どうでもいいことで笑って、

すぐに「ねえ見て」と呼ぶ。


ミミは料理を口に運ぶたびに、

少しだけ首を傾げてから、

「美味しいね」と言う癖があった。

まるで、その一口ごとに、

世界を肯定しているみたいに。


ミミは言った。


「私ね、あなたと出会えてよかった。

 運命があるのなら、

 私はね、

 あなたと出会うために生まれたのかも」


気色が悪い。

何を言っているのか。

そもそもお前は、

こんなところで、

油を売っている場合じゃない。


「……うん、私も」


私は、口からそう声を漏らした。


――は?


今、私は何て言った?


それから、そこからは、

自分の言ったことを心の中で反芻した。


私も?


そんなことはない。

矮小な人間と一緒にいたことで、

変になっただけだ。

すぐに忘れる。


それからミミの声を無視した。

これでいい。

お互いにとっても。


ミミは、私などすぐに忘れて、

自分の人生を生きるだろう。

それでいい。


なのに、なぜか胸が苦しい。


ある日、ミミがまた海に来た。


「ねえ! 答えてよ! いるんでしょ!」


そういう声が聞こえた。


もうやめてくれ。

分かっているだろう。

共には生きられないんだ。


そう思ってミミを見た。

ミミは泣いていた。


それを見た途端に、

身体が勝手に動いていた。


気がつけば、海を出て、抱きしめていた。


「ごめんね......!


 ごめんね、ごめん......。

 本当は、本当にあなたといたいよ。

 ずっと、ずっと......!」


私は泣きじゃくっていた。


もう分かった。さすがに分かった。


私は、ミミが好きなんだ。

好きになってしまったんだ。

もうどうしようもなく。


ミミも、抱きしめ返してくれた。

その時も、少しだけ首を傾げて、

それから、泣きながら笑っていた。


「私はね、名前、サテノナラエ。

 そう言うんだ......」


「......そっか。すっごく、綺麗......」


そして、私たちは世界を回った。

ご当地の料理を食べて、

いろいろな場所を見て回った。


幸せだった。

こんなにも、

幸せでいいのだろうかと思うほどに。


そして、ある時。


ミミは喧嘩をしている、

人間たちの間に割って入った。


正義感が強くて、優しいミミは、

仲直りしてほしかったのだろう。


だが、逆上した一人から暴行を受けて、

あっけなく死んだ。


私はその時、

買い物をしていて、

知らせを受けたのは、

もうとっくに死んだ後だった。


その人間たちは殺した。


もうどうでもよかった。

何もかもが。


血の匂いも、悲鳴も、抵抗も。

すべてが、遠くの出来事のようだった。


終わったあと、

私はその場に立ち尽くしていた。

何も感じないまま、ただただ、

時間だけが過ぎていく。


違う。


何も感じていないのではない。

感じるべきものが、

どこにも残っていなかった。


それから、思い出の土地を巡った。

ミミと一緒に行った場所へ。


でも、料理は何も味がしない。

景色は何も綺麗じゃない。


あの声がないだけで、

世界はこんなにも、

空っぽになるのかと思った。


もう、私は駄目になってしまったんだ。


それなら、もう海に帰ろう。


だが、思い出だけは、

絶対に消してはいけない。


そうして私は、海底にレストランを作った。


海に住まう我々は、

そこでなら本当の力を発揮できる。


そのレストランは、未練がましく、

ミミとの思い出を詰めていた。


ここで暮らそう。

もう何もかも知らない。


ここでいい。

ここで死のう。


そう思った。

______________________________


私の問いに、

オーナーは少しだけ目を伏せた。


考える、というよりは、

思い出している、ようだった。


「……思い出だよ」


ぽつりと、呟く。


「ここはね、

 あの人との思い出を集めた場所」


テーブルをなぞる。


「料理も、景色も、空気も……全部、全部、

 忘れたくなかったから」


一度、言葉が途切れる。


「いや」


オーナーは小さく、首を振る。


「違うかな。

 忘れたくなかったんじゃない」


ゆっくりと顔を上げる。


「もう一度、会いたかったんだ」


誰も言葉を挟めない。


「じゃあ、なんで私たちを?」


イオトクフダさんが、静かに聞く。


「人を、集めたんですか」


「……最初は、必要なかった」


オーナーは答える。


「一人で、繰り返していればよかった、

 でも、それだと、

 現実にならなかった」


「現実……?」


「記憶は、誰かに見られないと、

 ただの夢になる」


窓の方へ、視線を向ける。


「だから、人を呼んだ。

 客として、

 店員として、

 この場所を、

 このレストランを、

 ちゃんとしたものにするために」


デムラヤタンさんが、震える声で言う。


「じ、じゃあ……回の意味は……?」


「ああ、あれは、再現だよ」


オーナーは即座に答える。


「客として来る日もあれば、

 店員として迎える日もある。

 そうやって、色々な形で、

 あの人との時間をなぞっていた」


「……ずっと?」


「うん、




 ずっと」


 


「じゃあ、なんで……」


ミミトカムラさんが口を開く。


「なんで、今終わるんですか」


オーナーは、少しだけ笑った。


寂しそうでもなく、

嬉しそうでもなく、

ただ、どこか、

軽くなったような笑い方だった。


「……あなたたちが、壊したからだよ」


「壊した……?」


「うん」


「正確に言うと、気づいたから、かな」


私の方を見る。


「変化に、

 そして意味に、

 そして私に。

 この場所は、

 気づかれないことで保たれていた。

 ただのレストランとして扱われることで」


「でも君たちは違った。

 観察して、

 考えて触れた。

 そして」


一瞬、イオトクフダさんを見る。


「踏み込んだ。

 だから、終わる。

 いや、というよりも」


少しだけ言い直す。


「もう終わろう。そう思った」


その言葉は、

どこか救いで、諦めで、そう聞こえた。


「……その人は」


私は、ゆっくりと聞く。


「来るんですか」


オーナーは、少しだけ目を細めた。


「......来ないん、だろうね。

 そんな、当たり前のことに気付くのに、

 こんなにも時間がかかってしまった」


「......皆、

 本当に、ごめんなさい......」


誰もすぐには言葉を出せない。


ただ、

どこかで。


終わりが、

静かに、近づいていた。


「......じゃあ、このレストランは?」


ミミトカナタさんが聞く。


「......私が作った」


静かな声だった。


「この海底に住んでいる、

 人に近いけれど人ではない生物。

 それが、私だから」


わずかに微笑む。


「こんなものは、簡単に作れる」


その言葉は、誇りでも自慢でもなく、

ただの事実を述べていた。


「……私たちは、帰れる?」


私が聞く。


オーナーは、少しだけ目を細めた。


「うん。今すぐにでも、

 帰ることはできるよ」


その言葉は、優しかった。


けれど、

どこか、引き止めるようでもあった。


窓の外では、

いつものように、

魚たちがゆっくりと泳いでいる。


海水魚も、淡水魚も、

本来交わるはずのないものたちが、

同じ水の中で揺れている。


ここは、思い出の場所。

思い出を、思い出すための。


そして、それは、

誰か一人のためのものだった。


料理の味。

内装のずれ。

名前の違和感。


すべてが、

一人の記憶を、無理やり世界にした痕跡。


オーナーは、窓の外を見ていた。


「……無意味だった。何もかも」


ため息のように小さく、そう呟く。


それが、

どれくらいの時間を待った末の言葉なのか、

私には分からなかった。


ただひとつ、分かるのは、


このレストランは、

誰かを迎えるための場所ではなく、

誰かを待ち続けるための場所だった。


そして、その誰かは、

もう、来ない。


それでも。


ここは、消えずに在り続ける。


まるで、

忘れることを拒む、そんなふうに。


「……どうする?」


イオトクフダさんの声。


帰ることはできる。


今すぐにでも、

この、青く満たされた場所から。


けれど、

ふと、思う。


もし。

もし本当に、いつか。


その人が、ここに来ることがあるのなら。

その時、この場所がなかったら。


オーナーは、サテノナラエさんは、

また、ひとりになる。


どうする?


元の世界へ戻るか。

それとも。


私は、もう決めていた。


「オーナー。最後の回をしませんか?」


オーナーは私を見る。


「……」


イオトクフダさんは何も言わずに私を見た。


私も、なぜ、

こんなことをしようとしているのか、

分からない。


でも、しなきゃ、と思った。

絶対に。


「店員は私たち四人。お客様はオーナー。

 あなたと、そしてもう一人」


オーナーは少し考えて、


「……分かった」


そう言った。


そして、最後の回が始まった。

______________________________


いつも通りの料理。

配膳。

空気。


違うのは、

テーブルが一つだけであること。

椅子が二つであること。


そして、

そこに座っているのが、

一人だけだということ。


オーナーだけ。


二人分の料理を運ぶ。


「こちら、『黒毛和牛ロース肉の炭焼き

 赤ワインの香りとハーブのアクセント』

 です。

 どうぞ お楽しみください」


オーナーは、ゆっくりと食べ始める。


「……美味しい」


「ありがとうございます」


コースが、静かに進んでいく。




うん。

美味しい。美味しいよ。

でも。


どんなに素敵な料理も、

どんなに綺麗な景色も。

あなたがいたから。


だから、美しかったんだよ。

だから、楽しかったんだよ。


あなたがいなくなってから、ずっと、

会いたくて、会いたくて、仕方がなかった。


でも、結局、会えなかった。


分かっていたのに。


子供が駄々をこねるように、

もう戻らない時間を見たくなくて、

あなたがいないと言う現実を見たくなくて、

馬鹿げたことを繰り返した。


目の前を見る。

誰もいない。


もう一度見る。

もちろん、誰もいない。


当たり前だ。


いろんな人に迷惑をかけて、

時間を浪費して、

これで終わりか。


......全て無駄だった。









「いただきます」


声がした。

目の前を見る。




誰か、誰かがいる。


いや、もう、声が聞こえたときには、

すぐに分かっていた。


その仕草も。

美味しそうに食べる顔も。

何もかも。


間違えるはずがない。

間違ってたまるものか。


だが、なぜ? 幻覚?

私が作り出した幻想?


「美味しいね」


その人は、そう言った。

そう言って、私に微笑みかけた。







「……うん、美味しい」


もう、そんなことはどうでもよかった。




視界が滲む。手が震える。

そして、ずっと、滲んでいた。


料理が終わるまで。


そして、

その人は、最後まで、そこにいた。

______________________________


「えーっと、じゃあ、この扉を通ったら、

 元の世界に変えられる?」


イオトクフダさんはそう聞く。


「うん、全部元通りになって、

 何も変わってない。戻れるよ」


オーナーは腫れた目を擦って言った。


もうレストランには私達以外何もない。


がらんとした、しーんとした、

そんなレストランを見て、

なんとも言えない気持ちになった。


「じゃあ私はここで」


ミミトカムラさんが言った。


「またね、皆と会えて良かった」


ミミトカムラさんは、

私達一人一人と握手して、

まるで通学路の別れ際みたいに出ていった。


「で、では、私もこれで......」


デムラヤタンさんもそう言う。


「......忘れてませんよ。皆でご飯、

 食べにいきましょうね......」


デムラヤタンさんとハグをして、

去っていった。


「皆帰るの早いね〜」


「まあ、気持ちは分かります」


「ミタナカエンは帰ったら普段の生活に?

 まあ、当たり前か」


イオトクフダさんは頭を掻く。


「テスト勉強、頑張ってくださいね」


「そっか、言ってたね。

 本当よく覚えてるね」


二人で笑う。


「オーナーも元気でね」


「......うん、まあ」


イオトクフダさんは、

オーナーの前に来て言う。


「死んだらだめだよ」


オーナーは驚いた。

多分、図星だったのだろう。


「もし、オーナーが死んだら、

 誰があの人のことを思い出すの?

 誰があの人の顔を想えるの?」


「......」


「ね、だから、ね。

 生きていてね」


「そうだな......。言う通りだった。

 ありがとう」


そして、私とハグをして、

消えていった。


「じゃあ、私も帰ります」


「ああ......」


扉を通ろうとする。

その前に一つ、言い忘れたことがあった。


「楽しかったです」


「え?」


「正直言って、

 ここのレストランでの暮らしは、

 結構楽しかった。友達もできましたから。

 だから、ありがとうと言うには変ですが」


「別に、恨んでません」


「そうか......」


そして帰った。







目を覚ますと、見知った天井だった。


帰ってきた。


時計を見る。

時間は、あの時のままだった。


あんなことがあったのに、

時間は経っていないのか。


ポケットに違和感を覚えて探ると、

手紙が入っていた。


オーナーからだった。


「まずはごめんなさい。

 いろいろと迷惑をかけました。


 皆の身体変化や、

 経年変化はリセットしました。

 何も変化がないと思います。

 時間も戻して、何も異常なくしました。


 これが贖罪になるとは思っていませんが、

 せめてもの償いです。


 そして、ミタナカエンさん。

 本当にありがとう。


 私は最後、あの人と共にいられた。

 感謝してもしきれない。




 ありがとう」


手紙は、それで終わっていた。


机に置いて、ベッドに腰掛ける。


オーナーは、今どうしているだろうか。

あの三人は?


......きっと私と同じ、

元の生活に戻って生きているのだろう。


あの出来事は、

まるで夢のようなひとときだった。


まあ、ただ、もう戻らなくていい。


けれど、

完全に忘れることも、きっとない。


まだ深夜だ。

私はそのまま横になり、目を閉じた。


海底レストラン。


また、いつか会える日まで。

______________________________


「......いや〜まさか、皆東京にいるとはね」


都内のレストランにて、

イオトクフダさんは、

そう言う。


「そうですね......。と、いうかあれから、

 7日も経たずに再会できるなんて......」


デムラヤタンさんは言う。


いや、本当にそうだ。

正直、もう二度と会えないと思っていた。


「皆の本名も分かったけど、ついつい、

 あの名前で呼んでしまうね」


「分かります」


それから皆普通に日常に戻って、

普通に生きていた。


「あれ、生頼んだの誰?」


「イオトクフダさんじゃないんですか」


「いや未成年だからね」


「そういえば、

 イオトクフダは恋人と会えたの?」


「まあーね。まあまあだね」


「......ミタナカエンさんは、

 お仕事順調ですか?」


「ええ、本当に何も変わらず」


そんなどうでもいい会話を続けていた。


「ご予約のミミ様です」


そんな言葉が聞こえてきた。


「ミミ? 独特な名前だね〜」


「確かに」







そして、また、今日は終わっていく。


「やっぱり皆で食べるご飯は美味しいね」


「ええ、そうですね」

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