幕間3
幕間 ――マーテリシア
ああ、やはり。
瓦礫の世界の片隅で、あの子はちゃんと笑っている。
壊れた王都、死んだ文明、その中心にある小さな温もり。
腕の中で眠る少女を抱き、警戒を解いた顔で目を閉じるアリア。
その姿を、私はとても愛おしく思った。
復讐を誓ったときの、あの鋭く研ぎ澄まされた瞳。
世界そのものを憎むような、乾いた怒り。
それも美しかったけれど――今の彼女は、また違う輝きを放っている。
人は、希望を得ると強くなる。
だが同時に、失うことを恐れるようにもなる。
私はそれを、ちゃんと見たかった。
リーネ。
あの子との出会いは偶然ではない。
ただ――私がそうしたかったから、そうなった。
私は世界を眺める。
悲しみも、怒りも、絶望も、すべて等しく価値がある。
けれど、長い時間の中で、ひとつだけ私の内に溜まり続けた感情があった。
喜び。
生命が生まれる瞬間。
誰かが誰かを想うとき。
困難を越え、笑顔が戻るとき。
私はそれを美しいと感じた。
強く、鮮烈に。
だから、私自身の感情の中から、“喜び”だけを抽出して、形を与えた。
それが、リーネ。
何も知らない。
何もできない。
ただ、生きていることを嬉しそうに受け取る存在。
アリアの隣で笑い、褒め、甘え、寄り添うためだけの命。
あの子が役に立たないのは当然だ。
戦うためでも、導くためでもない。
ただ、心を揺らすために作られたのだから。
それでも――
いや、だからこそ。
アリアは、リーネを失うことを恐れるだろう。
復讐の旅路に、温もりは不要だ。
憎しみは孤独なほど鋭くなる。
それを、これまでずっと世界を観測してきた私は誰よりもよく知っている。
それでも私は、あえて与えた。
アリアが変わるのか。
変わらないのか。
もし変わったなら――
その希望を、奪えばいい。
はたまた、奪わずに育ててみるのも面白いかもしれない。
変わるのであれば、その変化を楽しむ。
もし変わらないなら――
それはそれで、美しい。
確固たる自分、信念、その生き様も見てみたい。
どんな選択も、どんな結末も、私には価値がある。
彼女が泣いても、壊れても、縋っても、跪いても。
すべて、私の愛しいあなただというのは変わらない。
「……ふふ」
眠るアリアを見下ろしながら、私は微笑む。
喜びも、絶望も、救いも、破滅も、すべては等しく、私のもの。
さあ、もっと見せて。
私の可愛いアリア。
あなたが、何を選び、誰を守り、そして――何を失うのかを。
読んでくださってありがとうございます。




