幕間4
幕間 ――マーテリシア
――ああ、なんて健気なの。
瓦礫と死に覆われた世界の中で、彼女は足を止めない。
嘆きに溺れることも、祈りに逃げることもなく、壊れた知識を拾い集め、世界を理解しようとする。
歴史を読み、因果を結び、地図に印を刻む。
この世界の理が変わったことを、誰よりも早く察していた。
愚かでも、無知でもない。
感情に飲まれながらも、思考を捨てない。
……それが、たまらなく愛おしい。
彼女は今もなお、人であろうとしている。
復讐を誓いながらも、理性と秩序を手放してはいない。
それに――
あの小さな娘。
わたしの“喜び”から削り出した、取るに足らない存在。
それでも彼女の心に、確かな温度を灯している。
笑顔を向けられると、彼女は少しだけ柔らぐ。
寄り添われると、夜の悪夢が遠のく。
失ったものの代わりになど、なれるはずがないのに。
それでも、彼女は受け入れてしまう。
ふふ……優しい子。
だからこそ、壊しがいがある。
そして――
ついに、剣を握った。
あれもわたしの感情。
わたしの“怒り”の具現化。何もかも理不尽に奪われた怒りを、アリアが忘れてしまわないように。
そう願って置いた、“怒り”の魔剣。
最初の剣が折れた瞬間。
迷いなく背に手を伸ばした、その判断。
素晴らしいわ。
拒まなかった。
恐れはしたけれど、否定はしなかった。
力を得ることを、自然な流れとして受け入れた。
赤い刃が魔獣を断った瞬間、彼女の心がわずかに浮き立ったのを、わたしは見逃さなかった。
快楽ではない。
高揚でもない。
――「できてしまった」という感覚。
その小さな成功体験が、やがて戻れない道になることを、彼女はまだ知らない。
でも、それでいい。
学び、寄り添い、強さを知り……そして、少しずつ削れていけばいい。
世界は、彼女のために用意されている。
試練も、希望も、絶望も。
さあ、アリア。
もっと進みなさい。
あなたがどこまで堕ち、あるいは救われ、最後にはどうなっているのか。
――それを見届けるのは、神であるわたしの役目なのだから。
読んでくださってありがとうございます。




