ママ、授業参観で完全に生徒扱いされる
土曜日の朝。
そらの中学校では年に一度の授業参観が行われる日。
日向ママはウキウキで着替え、鏡の前でくるっと回った。
「どう? 落ち着いた服にしたけど、これなら保護者に見えるでしょ!」
そらはじっと見つめて、ため息をつく。
「母さん……残念ながら何を着ても見た目は変わらん」
「そこをどうにかしてよ!? 魔法の一つもないの!?」
「そんな魔法あるなら俺が欲しいわ」
文句を言い合いながら歩き、中学校へ到着した瞬間——
早速、災難が訪れた。
校門で警備員がひょいっとママを抱き上げたのだ。
「君、ひとりで来ちゃだめだよ。お父さんお母さんは?」
「ちょっとおおおお!!! 降ろしてぇぇぇ!!!」
そらが無言で学生証を見せながら言う。
「その人、俺の母です」
「……は?」
警備員はビクッとしてママを地面にそっと降ろす。
「す……すまん……。あまりに……その……小っちゃ……」
「あのねぇ!? 今日くらい信じてよ!? 授業参観よ!? どう見ても保護者でしょ!?」
「どう見ても」は言えないらしい。
なんとか校舎に入ると、次は生徒達の視線が刺さった。
「かわい……誰の妹?」
「えっ、参観日に小学生が迷いこんだの?」
「この子も授業見にくるん?」
ママは笑顔をひきつらせながら言う。
「みなさん、落ち着いてください。わたしはそらの母です」
「「「え…………」」」
一斉に硬直するクラスメイト達。
そこへ、そらの友達・森下が叫んだ。
「そら!! なんでそんな可愛い人を“母”って紹介しないんだよ!!」
「紹介する機会がねぇよ」
「会わせるべきだろ! 俺は今日死ぬかもしれない……好きすぎて……」
「落ち着け」
ママは頭を抱える。
「なんでわたし、知らない中学生に本気で告白されてるの……?」
教室ではすでに保護者も並び始めていた。
日向ママが入ると、他の保護者たちが微笑んで声をかけてくる。
「まあ可愛いわねぇ」
「どこのクラスの子? 誰の妹ちゃん?」
「後ろの席に座っていいわよ〜」
「座らない!! 保護者席に行くの!!」
列に並ぶと、周囲の保護者がざわざわ。
「え……本当に保護者の方……?」
「若っ……いや幼……いや……その……」
「えっと……成人されてるんですよね?」
「みんな言い方!!!」
授業が始まり、担任の坂田先生が教室に入る。
「はい、みなさーん、今日は保護者の方が—…あっ日向さん。えっと……座席は……その……」
「わたしは生徒じゃありません!!」
坂田先生は毎度のことなのに、やっぱり言いかけた。
授業が始まると、先生はプリントを配った。
すると、先生はなぜかママの席にもプリントを置いた。
「いや配るな!! わたしテスト受けないの!!」
「はっ……! す、すみません……つい……」
クラス全員が笑いをこらえる気配。
そらは机に顔を伏せて肩を震わせていた。
ママはそっと肘で突く。
「あんた、笑ってるでしょ」
「笑ってない」
震えてる。
授業が進む中、ママは完全に“背の低い子”として扱われ……
先生に指名されそうになるわ、
隣の保護者に「そのランドセルかわいいね」と言われるわ、
後ろの生徒に「前が見えない」と頭越しにのぞかれるわで、
心のダメージは限界だった。
そして極めつけ。
坂田先生が生徒に質問したあと、ちらっとママを見る。
「日向……さんも……わかりますか?」
「まさかのわたし当てる気!?!?!?」
「す、すみません……本当に……つい……」
怒る気力も抜けたママは、そのまま机に突っ伏した。
授業が終わり、そらが近寄ってくる。
「母さん、大丈夫?」
「……今日、一度も大人扱いされなかった……」
「まあ……学校は一番きついだろうな。
子どもしかいない空間だし」
そらはママの手をそっと引いて、立たせた。
「でもさ。俺はちゃんと大人だと思ってるし、母さんが母さんだって、誰よりも知ってるよ」
ママは目を瞬かせ、ふっと表情がゆるむ。
「……もう……そら……。
あんたのそういうところ、反則よ……」
「事実を言っただけ」
その言葉に、ママの疲れもすこーしだけ消えた。
今日もまた、
“合法ロリお母さん”は誤解と戦い続けるのであった。




