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二人のバート  キャサリン目線

題名とおり、キャサリンの目線で書きました!

 会う度に態度の違う彼を私はなぜだか違和感を感じていた。

 

 ギルバート・キャスター子爵子息


 王太子殿下直々に専属護衛騎士に選ばれたひと。

 領地に結婚を約束したフランシス・ルージャ伯爵令嬢がいるのに、王太子殿下に引き裂かれた悲恋のひと。

 爵位は低いが殿下直々に選ばれた彼は、婿養子としては最上級の存在で王都にいる令嬢たちからの視線を独り占めしていた。

 だが彼は一途に領地に残した彼女を想い、そんな視線すら無視していた。


(必ず領地に戻り彼女と結婚するんだ)


 騎士仲間にそう話している事は有名だった。

 婿として迎えたい令嬢以外は彼の気持ちを尊重していた。のに、それを許さないお方がいた。


 王太子殿下と妃殿下だ。


 お二人はギルバート様を手放さない為に、ギルバート様の双子の兄アルバート様とフランシス嬢の結婚を提案した。


 提案・・


 貴族同士ならば提案で済んだかも知れないが、王族からの提案に誰が断る事が出来るのだろう。

 そもそも専属護衛騎士に任命したのも、大勢の目がある彼女のデビュタントその日だった。

 私もその日デビュタントで、同じホールにいたのだ。だからあの時のギルバート様の表情が、目に焼き付いて離れなかった。


 悔しい、悔しい、悔しい


 その場にいた何人の人たちが彼の気持ちに気付いたのだろう・・


「ドラン侯爵令嬢、貴女もキャスター卿に目を付けているの?」


 王太子夫妻が主催したお茶会に参加した私は、高位貴族のため王族に近い席に誘導された。

 今回のお茶会は第二王子殿下のお相手を探す為に主催されたのだが、婿を探している私のような令嬢には逆にキャスター卿へ目がいってしまう。


「アリシア・コンフォート公爵令嬢・・ごきげんよう。わたくしは別に・・」


 隣の席に腰掛けたコンフォート公爵家令嬢アリシア様は、第二王子殿下の婚約者第一候補だ。

 もちろん侯爵令嬢である私もだが、私は一人娘である為まずお声がかかる事は無い。

 その為アリシア様はこうお声をかけて来たのだろう。


「キャスター卿には忘れられないお方がいらっしゃるとお聞きしました。わたくしはわたくしだけを見てくださる方を探したいと思っておりますの」

「まぁ、ドラン侯爵令嬢は夢見がちなお方なのね!」


 取り巻きたちと一緒にクスクスと笑っている。

 アリシア様は何かと私に突っかかる。

 王太子妃殿下が私と同じ侯爵家から嫁いでいるからなのか?

 公爵様から何かを言われているのか・・何度言ってもわかってくれずこうして取り巻きたちと一緒に突っかかる。


 「?」


 視線を感じた私はそちらへと目をやる。すると王太子殿下の後ろに控えているキャスター卿と目が合った。

 (あの目・・)


 やはり違和感を感じてしまい、結局居心地が悪いままお茶会はお開きとなった。


 

 「キャサリン、今日のお茶会はどうだった?第二王子殿下と話したかい?」


 その日の夕食時、お父様から声をかけられた。

 私は口に運んだキッシュを飲み込むと


「コンフォート公爵令嬢アリシア様に絡まれてしまい、その場から出られませんでしたわ」

「ああ、アリシア嬢か・・彼女も今年で二十歳だから焦っているのだろう」


 王族を抜かすとコンフォート家は貴族の中では最高位だ。

 何代か前の公爵の元に当時の王妹が降嫁したと聞いた。


「実はアリシア嬢には隣国の王子への話が出ていてね。第二王子殿下と結べない場合は行く事になるだろうな・・立場は第三側室だったかな」

「まぁ、側室ですか・・」


 お母様が少し大袈裟に言う。

 お母様とアリシア様のお母様とは学園時代に何かあったらしいが・・

 教えてはくれなかった。


 


 お父様に呼ばれ王宮へ行くと何故か執務室に第二王子殿下がいた。

 どう言うことかとお父様を見ると


「まぁ座りなさい」


とソファーへと促された。


「実は私がドラン侯爵にお願いしたんだ。君に、キャサリン嬢に聞きたい事があって・・」

「・・わたくしでお答え出来る事でしたら」


 殿下は少し考えたあと


「君は・・エマーソン・ドゥバイを知っているかい?」

「?エマーソン・ドゥバイ・・でございますか?」


 聞いたことのない名前だった。

 いや、ドゥバイと言えば隣国の侯爵家にあったような・・


「こちらでの名はエマ・キンドーラ。男爵令嬢だ」

「エマ!ええ、存じております。わたくしと同じ学園に通っておりましたわ。確かフランシス・ルージャ伯爵令嬢と仲が良かったですわ」


 あら?殿下のお顔が・・


「その、殿下がキンドーラ男爵令嬢とお会いしたいと申されてなぁ。キャサリン、繋げる事は出来るかい?」


 私は少し考えて


「連絡は取ってみます。ですが直接男爵へお話されては・・?」

「それも考えた。だか、隣国では侯爵家の令嬢でもこの国では男爵令嬢だ。良く言わない者も出て来るだろう」


 連絡がついたらお父様経由で殿下へお知らせする手筈となり、私は執務室を後にした。

 そのまま馬車乗り場へ行けば良かったのに、何故か私はその足で騎士たちの練習場へ向かってしまった。

 その日は王太子殿下付きの騎士たちの練習日で、もしかしたら噂のギルバート卿に会えるかも知れないと、そんな気持ちもあったのだと思う。


 キンキンッ!


 剣がぶつかり合う音が聞こえてくる。

 見ると令嬢たちが見学に来ているのか、色とりどりの日傘や帽子が見える。

 私もそちらへと足を向けた時、


「あら、ドラン侯爵令嬢ではありませんか?」


 私を呼び止める声が聞こえ振り返る。


「ごきげんよう、コンフォート公爵令嬢アリシア様」

「やはり気になるのかしら?お婿さん候補第一位のキャスター卿の事」

「父に呼ばれ、帰る際に寄っただけですわ」


 これ以上絡まれるのも面倒なので、引き返そうと思ったら急に腕を取られた。


「アリシア様、その手をお離しください」

「どのような御用で呼ばれたのかしら?」

「それは・・アリシア様には関係ないことですわ」

「そうね、でもわたくし見てしまったの。ドラン侯爵の執務室に第二王子殿下が入られるところを」

「!」


 私の腕を握る力が強まる。

 アリシア様は私がお父様の部屋から出た後、付けてきたのね。そして、どんな用事か聞き出そうと待っていた・・


「我が家の事です。アリシア様にお話できる事ではございません。お願いですから手をお離しください」


 アリシア様のイライラした顔が気になるし怖いが、殿下との約束を簡単に口にする訳にはいかない。

 

「お願いです、手をお離しください。人を呼びますよ!」


 アリシア様の手を振り解こうとした瞬間


「「あっ!!」」


 私は垣根の中へ倒れ込んでしまった。

 倒れ込んだ際、木の枝にドレスが引っ掛かり破れてしまった。

 

「アリシア様、申し訳ありませんが馬車にメイドがおりますので呼んで頂けませんか?」


 立ちあがろうと思ったが足首を捻ったみたいで立ち上がれなかった。見るとドレスも破れ、汚れも付いており一人でその場を離れる事が出来なかったのだ。


「アリシア様?」


 何度か声を掛けてみたが返事どころか気配も無くなっていた。


「逃げたわね・・まぁその内メイドが探しにくるでしょう」


 呑気に考えていた私は後悔することになった。

 メイドが探しに来るどころか、人も通らないのだ。

 気付けば空も暗くなっており一晩ここで過ごすのか?と不安になって来た。


「どうしましょう・・どなたかおりませんか?」


 勇気を出して声を上げるがそもそも人が通らない場所だ。

 だんだんと不安と恐怖が押し寄せて、とうとう涙が溢れてきてしまった。


(私はただ、騎士たちの練習を見に来ただけなのに・・)


 グスグスと泣いていると


「そこに誰かいるのですか?」


 男性の声が聞こえた。

 私は藁にも縋る思いで


「申し訳ありませんが、馬車乗り場へ。メイドと従者がおりますので呼んで来て頂けませんか?」


 泣きながら声を出した。

 寒いし足どころか身体中も痛い。

 幸いにも周りは暗くなっているから、万が一にも見られても隠せるのでは?と思った。

 すると男性は私の声を頼りに近くまで来てくれた。


「こんな所でどうされたのですか?」

「あっ、あの・・人とぶつかった瞬間転んでしまって・・」


 咄嗟に出た言葉はアリシア様を庇う言葉だった。


「立てますか?」


 私は頭を横に振ると、男性は着ていた上着を私に掛けると


「えっ?!きゃあ!!」


 いとも簡単に抱き上げ垣根を超えていた。

 私は初めて男性に抱きかかえられた恥ずかしさに、思わず首に手を回ししがみついた。

 男性は周りを気にしながらも馬車乗り場まで私を運ぶと、


「どちらの馬車ですか?」

「あっ、あの馬車です!メイドが手を振っています」


 男性は私を馬車に乗せると従者に説明するため馬車を降りた。

 私はお礼も言わずに名前も聞かなかった事を思い出し、馬車から顔を出したがすでに彼の姿はなかった。

 従者に聞こうとおもったが緊張が解けたのか?気付いた時は自室のベッドの上だった。


「お嬢様!お気付きになりましたか?」


 目を開けると専属侍女のリンが顔を覗かせていた。

 リンは泣き腫らした目で私に抱き付くと、両親を呼んで来ます!と走って部屋から出て行った。


 

 私が帰って来た時ドレスは破れ、身体中は傷だらけでしかも意識を失っていたので屋敷の全員が悪い方を考えていたらしい。

 私は捻挫や傷からの熱で三日間寝込んでいた。その間にコンフォート公爵夫妻とアリシア様が謝罪に来られたらしく、この件はこれで収まった。

 両親は納得していなかったが公爵夫妻が直々に頭を下げに来た以上、事を大きくする訳にはいかなかった。


 アリシア様は隣国へ嫁ぐ事が決まり、準備が整い次第出発する事になったと聞いた。

 最後はあまり良くない別れ方をしたが、決して嫌いなわけではないので隣国へ行っても幸せに暮らして欲しいと願った。




「ねぇリン。私を馬車に運んでくれた男性はどなたかわかったのかしら?」


 シーツを取り替えていたリンが振り返り


「従者の話では名前は教えてくれなかったそうですが、どうやらキャスター卿では無いか?って言ってましたよ?」

「キャスター卿が?」

「前に王太子殿下と一緒にいる所を見たから間違いないと・・ですが・・」

「?」

「旦那様がお礼に伺っても 身に覚えが無い。と言われたそうで・・」


 身に覚えが無い?

 誰しも自分の手柄を自慢したいのに、なぜ隠す必要が?もともとキャスター卿と会話をした事も無いし、それこそデビュタントの時にフランシス様の隣にいたのを見たくらいだ。


「また王宮へ行った際にでも直接お礼をしなくちゃね。」


 その日は意外にも早く訪れた。

 エマさんに出した手紙の返事が来たのだ。私宛と殿下宛の二通。手紙には


[お久しぶりでございます。お手紙嬉しかったです。

 殿下の気持ちはとても嬉しいのですが、母の国に婚約者がおりましてその方と一緒に商いをする事になっております。テスラ商会です。何かご入用の際は遠慮なく仰ってください。

        エマ・キンドーラ ]


 おそらく殿下宛の手紙にも似た内容が書かれているだろう。

 私は殿下付きの秘書に手紙を渡し、お父様の執務室へと向かった。

 すると向かいからギルバート・キャスター卿が歩いてくるではないですか!

 私は急いで身なりを整えると


「キャスター卿、少し宜しいでしょうか?」

 

 と、声をかけた。キャスター卿は


「どのようなご用件でしょうか?」

「先日のお礼を・・」

「その事ですが、ドラン侯爵様にも言われましたが・・お人違いかと思います」


 失礼します。そう言って去って行った。

 おかしい、確かにキャスター卿の声だった!

 あの時の声は間違いなく・・




「もしかしてお嬢様がお会いしたのはキャスター卿のお兄様ではないですか?ほら、双子の」

「そんなはずないわ!卿のお兄様は領地にいるはずだもの!その、婚約者のフランシス様と一緒に・・」

「そうですかぁ・・」


 侍女のリンも不思議がっていた。

 

(きっと何か訳があるのよ)



 数日後、第二殿下が気落ちしているから話を聞いてあげて欲しい。との連絡を受け、王宮へと足を運ぶ。

 何となく練習場を覗いてみれば見慣れない人たちが騎士達の練習に参加していた。


(あの人たちは誰だろう?)


 練習している騎士たちの中に見慣れた男性の姿があった。キャスター卿だ!

 思わずキャスター卿を目で追ってしまう。見学に来ていた令嬢たちの歓声のほとんどはキャスター卿に向けられたものだろう。

 それもそのはず、ただでさえ綺麗な顔立ちなのに剣さばきは力強く相手を次から次へと倒していく。

 私も他の令嬢たち同様に、彼から目が離せなくなっていた。そんな時フッと彼と目が合った!

 彼は私を見ると目を細め微笑んだように・・見えた。


(えっ?今のは?)


 思わず顔に熱が上がる。

 王宮の廊下で会った時とは別人のような笑顔に、私の心臓は早鐘を打ち続けた。ただ、キャスター卿の微笑みは私だけに向けられたものでは無かったようで、見学に来ていた令嬢の大歓声の中私はお父様の執務室へと向かった。



 その後も何度かキャスター卿と会ったが、王宮内での彼と練習場での彼との 目 の違いに違和感を感じ始めた。

 王宮内での彼の目はとても冷たく、誰も写したくない!と言っているような目をしているのに対し、練習場で見せる彼の目は何というか・・


「勘違いしてしまいそうな目で私を見てくるの」

「えっ?」


 変な声で返事をしたのはエマ・キンドーラ男爵令嬢だ。あの手紙のやり取りから今では時々会う仲になっていた。もちろんこの事は第二王子殿下には内緒だ。


「やだ!声に出てたかしら・・」


 慌てて口に手を当てるも時すでに遅し。エマはしっかり聞いていた。


「本当にギルバート卿だったんですか?」


 エマは目の前に置かれたお茶を一口飲むと、不思議そうに聞いてきた。それもそのはず、ギルバート卿の相手だったフランシス様はエマの親友の一人だ。

 そのフランシス様とギルバート卿は今でも密かに想いあっており、フランシス様は領地で待っているのだと聞いたばかりだった。


「エマさんの話だとギルバート卿が私に対してあんな熱のこもった目で見る訳ないわよね・・」


 顔の熱を誤魔化すため、運ばれて来たケーキを一口食べる。そのケーキの美味しさに思わず後ろのテーブルでエマさんの侍女と一緒にお茶をしていたリンを見れば、リンも私と同じだったようで親指を立てながら私を見てきた。


「エマさんはいつこの国を立たれるの?」


 結婚の日取りが決まりいよいよこの国を離れると手紙を貰った私は、最後に会いたいとこの席を設けてもらったのだ。

 エマさんはプリンパフェ、なるものを口に運ぶと


「明日の昼には・・。港近くで一泊して明後日の早朝船に乗り込みます」


 もうこうして一緒にお茶をする事も無くなるのかな・・そんな態度が出ていたのか


「また会えますよ?私の夫となる人は伯爵家の次男なんですけど、商会を立ち上げてるので仕事ついでにこちらにも帰って来るので。」


 両親はこちらの国にいるから里帰りする予定です!


 と笑顔で言われホッとした。

 数少ない友達を失くすのは悲しいから・・。


 明後日の見送りは出来ないため、次の日の昼前に最後の挨拶をするためキンドーラ邸に足を運んだ。

 エマさんは役立つ時があるかもと言って、フランシス様の連絡先を教えてくれた。




 「ドラン侯爵令嬢!」


 王宮の建物と練習場の間の道を歩いていると、数人の令嬢たちに声をかけられた。

 いつもギルバート卿に黄色い歓声をあげている令嬢たちだ。


「ごきげんよう、何か御用かしら?」

「あの・・令嬢も練習場を見に来ていますが止めた方がよろしかと思います」

「なぜ?」


 令嬢たちは顔を見合わせると意を決したように


「ドラン侯爵令嬢は第二王子殿下と結婚されるのでしょう?それなのにこちらへ来るのは・・」


 あれ?って顔で私を見ている。

 それもそうだ、私が一番驚いていたから。

 何?その話、私知らない・・


 令嬢達も驚いた顔をしながら 違うんですか? と聞いてきた。

 私は一旦その場を離れお父様の執務室へと向かう。

 呼吸を整えると扉をノックする。

 中から秘書が開けると確認され、中へ誘導される。

 

「お父様、わたくしと第二殿下との婚姻の話が出ていますの?」


 お父様がソファーへ腰掛けると同時に切り出した。お父様も少し困ったような顔をしながら、


「キンドーラ男爵令嬢の件で何度かこちらに来ていただろう?それがキャサリンとの仲を疑われてしまい・・王から聞かれたんだよ」

「それで・・?」


 お父様は私の顔をチラッと見ると


「王としては身を固めて欲しいと思っているが、臣籍降下して欲しい訳では無いようだ。第二王子のまま城に残って欲しいと・・」


 我が侯爵家には私しか子供はいない。その私が嫁げば親戚の中から養子を取りまた一から教育をしなければならない。


「君が殿下と一緒になりたいのであれば、私は断るつもりは無いのだけれど?」


 お父様は私の気持ちに気付いている。その上でこうして言ってくるのは


(そろそろその気持ちに決着をつけなさい)


 と言っているのだ。

 キャスター卿とは会話はしていない。

 でも・・練習場での彼からの視線は、間違いなく熱がこもっている・・

 正直どうしたら良いのか分からず、一人悶々としていたある日・・


「えっ?キャスター卿が領地で倒れた?」


 王宮から帰宅したお父様が話てくれたのは、キャスター卿が領地で雷に打たれて昏睡状態になっている!だった。


 私はエマさんから聞いたフランシス様に手紙を出した。キャスター卿の領地は馬車で二日掛かるが、早馬ならばその日には着く。

 フランシス様からの返事は二日後には届いた。


[ギルバート様、アルバート様共に未だ目を覚ましておりません]


 その時の私は何かに取り憑かれたかのように行動していた。と、後日リンが言っていた。

 頭で考えるより身体が動いていたのだ。


 その日の夜には両親へ


「キャスター卿の領地へお見舞いに行ってきます!」


 と伝え、明後日には出発した。本当なら次の日にでも出たかったけれど、リンに


「お嬢様は侯爵令嬢です!急に行かれてはルージャ様も困りますし、着の身着のままでは私も困ります!」


 急いで準備するから一日待ってください!

 

 そこまで言われてしまえば言い返す事も出来ず、フランシス様へ手紙を送る事にした。

 途中何度か休憩を挟み(私は休憩など要らなかったが)、出発してから二日後の昼過ぎにキャスター領へと着いた。


 フランシス様は毎日通っているらしく、応接室へと通された後執事長らしき方がメイドへ伝えフランシス様を呼びに行かせた。


 少しした後フランシス様が応接室へと来てくださった。見ると疲れが溜まっているように見えた。


「大丈夫ですか?フランシス様もお疲れの様ですが・・」


 と声を掛けると微笑んで


「今朝、目を覚ましたんです。ただまた眠ってしまって・・でも医者からはもう大丈夫と言われました」

「よかっ・・た。本当に・・良かったですわ・・」


 安堵からか目から涙がこぼれた。

 それを見たフランシス様は


「ドラン侯爵令嬢様・・本当にギルバート様を心配してここまで来てくださったんですね」


 その言葉に影を感じた私はフランシス様を見る。

 そうだ、フランシス様は王家の命令で兄であるアルバート様と婚約したけれど、正直いまでもギルバート様を慕っているんだった・・


 私は意を決して話た。

 おかしい!と、言われるかも知れない。それでも何故かフランシス様なら笑わずに聞いてくれる!そんな気がした。

 フランシス様は黙って私の違和感に耳を傾けてくれた。そしてフフッと微笑むと


「ドラン侯爵令嬢様には本当の事を伝えますね」

「?本当の事とは?それと、私の事はキャサリンと呼んでください」


 堅苦しい呼び方は嫌だった。

 それに本当の事とは・・?


「私とキャサリン様は同じです。だから今からの事は内緒にして欲しいのです」


 そう言いながら案内されたのは一つの寝室だった。

 ベッドが二つ置かれたその部屋には、二人の男性が横たわっていた。

 見ると同じ顔、同じ髪型、体型・・

 私はフランシス様を見ると、二つのベッドの間にフランシス様は立ち


「キャサリン様、どちらがギルバート様かおわかりになりますか?」

「えっ?」


 私は二人の顔を交互に見る。が、寝顔では見分けも付かない。

 頭を横に振る。


「キャサリン様なら見分けが付きますよ。先ほども言いましたが私とキャサリン様は同じなんです」






 「キャス、こんな所にいたのかい?」

 

 振り返ると熱のこもった目で見つめる夫の姿があった。


「ギル様ごめんなさい。探しましたか?」


 夫であるギルバート様とは今年の春に結婚式を挙げた。それから十ヶ月後の今、私は少し膨らんできたお腹を支えながら小さなベッドが置かれた部屋に一人来ていた。

 ギル様は後ろから私を抱きしめると


「今日届いたんだね。これは兄からのプレゼントかな?お礼をしないといけないね」


 と、耳元で囁いた。

 今年の冬、一足先に子供が産まれた義兄の子と同じ工房で作ったベビーベッド。

 義姉からも


「このベッドだと良く寝てくれるの」


 と手紙も付いていて今からとても楽しみだ。


「「あっ!動いた!!」」


 初めての胎動を二人で感じることが出来た幸せ。

 ギル様は私に軽く口付けをすると、サッと横抱きをし歩き始める。


「重く無いですか?その、二人分ですし・・」


 体重が増えた自覚はある。

 そんな私を見る夫の目は、王宮の練習場で見せたあの目と同じだ。


「あの時と変わらないよ。しいて言えば、責任の重さは増えたかな」


 優しい眼差しで微笑む彼は、私を見つめる時だけにしか見せない。



[キャサリン様なら見分けが付きますよ。先ほども言いましたが私とキャサリン様は同じなんです]


 今ならフランシス様の言葉の意味がわかる。


 私はそっと夫の顔に手を当てる。

 夫は私の方に顔を向ける。

 あの日から変わらない、熱のこもった目で・・


 今度は私から口付けをする。

 すると夫の目に写る自分の顔が見えた。


(私もギル様と同じ目で、ギル様を見ていたのね)


 





 あの日、目を覚ました貴方が私に向けた言葉


「キャサリン、会いたかった」


 貴方が誰でも構わない。

 私は私だけを見つめてくれる貴方を、手離すつもりは無いのだから。

 

 

 

 


 





次は題名にある 二人のバート目線で書きたいと思っています。

少し間があくと思いますが、頑張って書くのでお待ちください!

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