君が笑うまで
繰り返される人生を送るヴィオレッタ。何度生涯を終えても、気づくと両親が不慮の事故で亡くなる日に巻き戻っている。次女のエマが、慌ただしく部屋に入ってきて、ヴィオレッタの両親が乗っていた馬車が崖から転落した旨を告げるのもお約束だ。
ヴィオレッタは、決める。もう期待するのはやめよう、失って傷つくのはもううんざりだ。
一人残されたヴィオレッタは、学校に通うのをやめる。学校に通うくらいならば、両親と過ごした屋敷で女主人になるべく勉学と教養を身につけることとする。繰り返される人生でもいつもそうして乗り越えてきた。ひたすら努力して一生懸命のヴィオレッタ。
しかし、ある日無理がたたって倒れてしまう。悪夢にうなされ目を覚ますと、穏やかに微笑む同年代の少年の姿が。内心動揺するものの、表情を崩さずに話すヴィオレッタ。
少年・フレイは愛称であるヴィオレとヴィオレッタのことを呼んで事あるごとに会いに来るように。
一体、フレイは何者なんだろうか?暇人なのかな?と疑問に思いつつも、次第にフレイに対して心を開いていくヴィオレ。
実は、フレイはヴィオレの屋敷の使用人達が気を利かせて同年代に方を招待したからだった。
フレイは、この国の王子だった。
何事も卒なくこなせてしまうため、天才と謳われているフレイ。
しかし、ヴィオレのたゆまぬ努力と笑わない表情に憧れの念を抱いて、足繫く彼女の元へと通うようになる。
ある日、フレイは何気なく彼女に話しかける。
「君は、本当に笑わないんだね」
「笑う必要がないからよ」
「じゃぁーー僕が笑わせてみせるよ。君が笑うまでずっとそばにいるよ」
子供だましの口約束。
それからもヴィオレは、表情を変えずに淡々とフレイの相手をする。
その時は、突然やってきた。
「しばらくここに来られなくなった」
「……」
「僕はーーこの国の第三王子だったんだ。今まで隠していてごめんね」
「……そう」
「僕の生誕祭がもうすこしであってーー」
「ーーおめでとう」
「ヴィオレ?」
ヴィオレが浮かべた初めての柔らかい微笑みにフレイの目は釘付けになる。
「わたしが笑うまでの約束だっものね」
無意識に出た笑顔にヴィオレは苦笑する。
フレイの言葉通り、彼はしばらくヴィオレの元を訪れなくなる。
悲しそうなヴィオレを周囲はただ見守ることしかできない。
突然邸を訪れたフレイ。
彼は、出会った頃よりもずっと背も伸び、顔立ちも大人っぽくなっている。
「なぜきたの?」
思わぬ来客に、ヴィオレは彼に問いかけると、フレイは徐に口を開く。
「実は、どうしてもヴィオレの笑顔を忘れられなかったんだ。このままでは婚期を逃してしまうからと、早く相手を紹介してほしいと両親にも言われてねーー」
まさかの発言に顔を赤くして立ち尽くすヴィオレ。
「君が笑うまでなんてもう言わない。君の傍でずっと共に笑っていたいーーヴィオレ、好きだ。この気持ちに嘘偽りはない。だから、お願い。僕の手を取ってーー」
「……バカ。わたしもずっと忘れられなかったんだから」
泣きながら話すヴィオレに、優しく頭をなでるフレイ。
やがて二人に間には、最愛の娘もできる。
一人娘のアンは、お転婆だけどよく笑う子だ。
彼女の口癖は、わたしもパパみたいな人とけっこんするの!
その一言で、ヴィオレとフレイは笑顔になる。
「そうね、いつかフレイみたいなかっこいい人が現れるわよ」
「いや、まだアンには結婚は早い!」
ヴィオレとフレイは、これからもずっと一緒に過ごしていく。
幸せな光景にヴィオレは心の底から笑顔を浮かべるのでした。