【30秒で読める怪談】取り憑かれた公園
私は東京に住んでいるのですが、現在の住居はかなり適当に選びました。
物件を選び始めたのは、職場の移動が決まったタイミング。
次の職場への通勤時間が、片道2時間を超えそうだったのです。
さすがにそれは困るということで、新職場に近い物件を大急ぎで選んだ、という流れです。
私の希望する家賃と広さを満たしているマンションならば、なんでもよかったというのが正直なところでした。
しかし住んでみると、建物の外観はタイル張りだし、最上階の角部屋だし、隣の部屋は静かだし、というわけで大満足でした。
ただ、一つだけ気になることがありました。
仕事の都合上、深夜遅くに帰宅することが多かったのですが、帰る途中に公園があります。
小さな公園。
ベンチが2基に、鉄棒が2欄、それからすべり台が1基。
※あまり聞いたことのない数え方ですけれども、1基、2基、1欄、2欄と数えるそうです。
あと、日陰を作る木が何本か立っているだけ。
さみしささえ感じる公園なのですが、深夜に通るとき、なにか視線を感じるのです。
公園の片隅から、誰かがこちらをじっとにらんでいる気がするのです。
インスタのプロフィール欄 @sabatice を見ていただければおわかりのとおり、私は「怪談ライター」を名乗っております。
つまり、霊感があります。
その霊感にもとづくと、おそらくこの公園にはなんらかの怨念がとり憑いている。
ジャンルでいうと地縛霊に属する、かなり強力な霊魂が巣食っていると思われます。
場合によっては、すぐ除霊した方がいい。
とはいえ、私は一介の怪談ライターに過ぎません。
公園の所有者でもなければ、町内会の会長でもありません。
近所に住んでいるだけ。
そんな私が「この公園には霊がいる!」と騒ぎ立てたところで、迷惑になるに決まっています。
嫌がらせとさえ思われてしまうかもしれません。
ですから、私はいったん何もせず、公園の横を通るたびに、心の中で般若心経を唱えて、やりすごしていました。
何か恐ろしいことが起こらなければいいが、と思いつつ。
そんなある土曜日。
お昼頃にその公園の横を通ったら、なんと催し物が開かれているではありませんか。
どうやら近所にある保育園のバザーらしく、園児やその保護者、それからおそらく保育士さんたちがレジャーシートを広げ、その上に手製のアイテムを並べて売っていました。
屋台も開かれていて、焼きそばやらポップコーンやらが売られ、みんな楽しそうに食べているのです。
私は震えました。
あまりにも危険すぎる。
園児や保護者がポップコーンを食べているところへ思い切って飛び込み、大声で般若心経を唱えればなんとかなるかもしれない。
私がいつも持ち歩いている魔除け棒(先端に火を点けるやつです)をレジャーシートの上で振り回せば、除霊できるかもしれない。
そんな思いにかられました。
でも。
この公園にとり憑いている霊は、少なくとも昼間は安全なタイプの可能性があります。
これまでも昼にこの公園の横を通ったことはありますが、確かに危険な予感を覚えたことはありませんでした。
どこかから見られているような、襟足がぞくっとする感覚だけ。
今もきっと公園の片隅から、にぎやかな子供たちや保護者を見ているのかもしれません。
そう思うと、なんだかかわいそうになってきました。
私は黙ってその場を去りました。
今じゃない。
そう言い聞かせながら……