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追撃

「ひとまずは大丈夫だが、しっかり馴染むまでは力を入れたりするなよ?」

「はい」

個室のベッドに寝かされた1型は、ぼんやりとした表情で返事する。麻酔がまだ少し残っている様子だ。

「当分の間は入院する事になるだろうし、ワンマンで仕事出来るように内容の更新を伝えておくよ」

沢井は2型に言うと、疲れたから寝ると言って部屋を出た。

「しばらくは指すら動かせないらしい」

「そうか」

ベッドの両脇に取り付けられたスタンドに、1型の両腕のギプスは吊り下げられている。

「私が殺した用心棒も、恐らくクローンだったよ」

「なぜわかる?」

窓の外を見ながらポツンと呟く1型。彼女の推察力がずば抜けている事を知っている2型は、疑う事をしない。

「身体は成熟しているのに、表情だけが子供なんだ。恐らく私たちの顔を覚えさせて、見つけ次第殺すように躾けられてる」

外の電柱にとまったカラスを羨ましそうに見ながら淡々と話す。

「そうか…」

「攻撃に躊躇いが無かった。話しかける事も無くいきなり突進して来た。戦いの基礎も無い、本能だけの動きに近い」

「使い捨ての武器みたいな扱いだな」

自分たちが法律に守られている存在じゃない事はわかっているが、人形ではないのだ。

だからそんな扱いを受けている事実は、敵味方関係なく腹立たしい。

「私たちが言うのも変な話だけど、本当に使い捨てのようだった」

「遭遇したらすぐに始末する事にしよう」

「そうだね。私が居ない間に君が殺されちゃたまらないからね」

1型の中で、何か気持ちが切り替わったのだろう。眉間の皺が消え、柔らかい表情でイタズラに笑って言った。

「だったら早く回復してくれよな」

それに合わせて2型も笑って答えた。

「松田さんにごめんって伝えといてよ」

「ごめんで済むかな」

松田とは二人の管理者で、二人の衣食住の世話もしてくれている。

「暇な時は来るから、寂しくても泣くなよ」

「うん、じゃあね」

2型は手をヒラヒラと振って部屋を出た。

静かに病室の扉が閉まり、エレベーターに向かおうとする。そしてすぐに立ち止まった。

エレベーターから出てきた大男と目が合った。目が合うや否や、こちらに突進して来る。

たった今1型が言った言葉を思い出した。

「おいおい、院内はダメだろ」

ドタドタと荒々しい足音、低い姿勢、無邪気な笑顔。まずはタックルか。

右足を一歩引き身体を捻る。右拳に全力を込めて、迫り来る大きな男の前頭部に強烈な右フックを打ち込んだ。

ゴキッと鈍い音がして、大男は仰向けに倒れる。

倒れた大男は耳から血をドクドクと噴出し、血の気が一気に引いて行く。

「クソが…。俺も仕事出来なくなるじゃん」

粉砕骨折して手の甲からは骨が飛び出している。

再び病室に戻ると、驚いた顔の1型に右手を見せる。

「俺も仕事にならないかも」

苦笑いの2型、そうだなと言ってため息を漏らす1型。


暇つぶしに院内の防犯カメラを眺めていたユズは、その様子をたまたま目撃していた。

「なんだ今の体捌きは…力以外に何も持ち合わせて無いのか」

これだから最近の若いやつはとでも言わんばかりにため息を漏らす。

その直後、倒れている大男の手がピクッと動いた。

まだ動ける。

「全く、詰めが甘いなぁ」

スリッパは滑るから素足で駆け出す。部屋を出る時に沢井の机からハサミを拝借した。

入院患者の個室まで、最短のルートで向かう


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