シミ
白い天井は、雨漏りであちこちに茶色いシミが出来ている。
窓の上のシミが猫みたいで可愛らしい。
カーテンが揺れて外から涼しい風が入って来て、なんとなく今が春なんだろうと感じた。
「天国か?」
「いや、地上だ」
部屋の環境音に紛れていた男が、椅子ごとこちらを向いた。大きめの白衣の奥に、拳銃が収まっている。
「おはよう、死にたがり」
のそのそとベッドの隣に来ると、ベッドに腰掛けた。
「うん、おはよう。ここは沢井さんの病院?」
「そうだ。個室占領されて迷惑してんだ、早く回復してくれ。それより、視界の右下に数字が出たらすぐに撤収するように言ったよな?」
沢井はこの医院の院長だ。表沙汰に出来ない怪我を診てくれる。
「だけどスマホも撃たれてダメになったし仕方ないじゃん」
「おまえが間抜けだから撃たれたんだろ。そもそも拘束される時点で全員殺さないからこんなに時間食ったんだ」
「どのくらい時間たった?」
「生体バッテリーに充電出来るまでにひと月、満充電までに3ヶ月ちょっと、そして今目覚めるまで3週間程だ」
やはり季節は春で合ってるようだ。
「結構寝てたみたいだな。迷惑かけてごめん」
しっかり向き合って謝ろうと体を起こすが、上手く力が入らない。
「まだ無理するな。神経とかが上手く馴染むまではまともに動けないだろ」
確かに上手く体が動かない。夢の中のように、手足が重たい感覚。
「確かに酷く撃たれたもんな」
「全くだ。主要な部位だけ取り出すのも大変だったんたからな?」
「かなり体内に弾残ってた?」
「いや、そこまで確認してない」
いつもは散弾の一粒さえも残さないような人間が、今日はやけに大雑把だ。
「あんなボロボロになった体使えないから新しく入れ替えたよ。筋繊維も繋がらないし骨もあちこち粉砕してたからな」
まるで車の箱替えみたいな事を言われて、一瞬考える。
「入れ替えた?」
「そう、ちょうど良いのがあったんだよ」
「じゃあ俺の体は…?」
「ちゃんとした手続きを経て火葬したから安心してくれ」
意味がわからない。いや、意味はわかるが理解するのを体が拒んでいる。
「なんで…」
「なんで?お前が自身を大切にしなかった結果だろ」
サラッと言われて返す言葉が見つからない。
「だからって」
「勘違いするなよ?お前はお得意先の仕事道具なんだ」
言葉を遮られる。そして眉間に拳銃の銃口が押し付けられた。
「だから意思を持たせるのは嫌なんだ。すぐ自我を持つようになる」
躊躇わず引き金を引ける目をしている。なんとなくわかる。
「次非常電源使ったら殺す。いいな?」
頭は破壊されると終わりだ。それくらいはわかる。
「わ、わかった…」
「素直でよろしい。なるべく約束は守ってくれ」
そう言うと、沢井は部屋から出て行く。