酔っ払いの所業
もしかして万が一、このエッセイを読んで「そういうことだったのか!」と思う女性占い師さんがいらっしゃれば……。
もちろん愛する読者さまに、楽しんで頂ければ幸せです(^∇^)
以前、夜の彦根市で飲み会がありました。滋賀県彦根市は、ゆるキャラのひこにゃんがいる所です。今と同じくらい寒い時期でしたけれど、お酒をしこたま飲んであったまっていたので、私はご機嫌さんで歩いていました。
ここまで書いて、別の出来事を思い出しました。別件です。話がそれて、ごめんなさい。
同じく彦根市で飲んだ、別の夜がありました。その時わたしは彦根から引っ越していて、彦根でお友達と会うためホテルを取っていました。初夏で、とても気持ちのいい夜でした。寒くもなく暑くもなく、最高に気持ちのいい夜でした。楽しい夜で浴びるほどお酒を飲んでお友達と別れ、一人でホテルに向かって商店街を歩いていたのです。夜遅くでしたから、お店はどこも閉まっています。私はシラフでも杖をついてヨロヨロ歩いているのに、さらに泥酔して歩道で盛大にコケました。酔って頭はグラグラするし、杖はどこかへ飛んで行った。もう歩くのもメンドクサイ。
いいや。ここで寝よう。
あきらめが早いのは、私の美点の一つです♡ 私は歩道に突っ伏して、寝ることにしました。ひと寝入りして酔いがさめたら、歩いて帰ろう。そよそよと風が吹いて、すごく気持ちがいい。お外で寝るの、最高!
男性:大丈夫ですかっっっ!?
道で寝ている私を見つけた車が急停車して、男性が駆け寄ってきてくださいました。すみません。ご心配をかけてしまったのですね。わたしは大丈夫です。そしてご機嫌さんです♪
男性:どちらへ帰るのですかっっっ!? 送ります!
というワケでふっ飛んだ杖を回収し、ご好意に甘えて彼の車に乗せてもらって、ホテルへ帰りました。そして意識を失った。翌日わたしはホテルのベッドで、素っ裸で目がさめました! 一糸まとわぬハダカ! 朝のまぶしい光が、私の裸体を照らしている!!
ヤっちまった!
今までどんなに酔っぱらっても男性の誘いに乗ったことはないのですけれど、とうとうヤっちまった! 素性も知らない男性と、一夜を共にしてしまった! いくらホテルに送ってくださったとはいえ、お礼にカラダを差し出すことはないやろう!!
飛び起きる私。彼は!? 彼はどこにいるんだ!?
ベッドの上には、私ひとり。バスルームに人の気配はありません。どうやら部屋に私しかいないらしい。彼はすでに帰った後!? ちょっと待って! 今後のことを話し合わないと!
まだ酔っぱらったアタマで昨夜のことを思い出します。彼の車は、黒い車だった……。私は助手席に乗せてもらって、泊まっているホテルを彼に教えた……。記憶の中に、ホテルの入り口が見えます。そうだ。彼はわざわざ車をUターンして、ホテルの真正面に車をつけてくれたんだ。
不意に彼の手の感触を思い出した。あったかくて、大きな手。なんで今、思い出した?
そうだ! 彼に「ありがとうございます! 助かりました!」って言って、握手したんだ! そして「またどこかでお会いしましょう~! その時は、私がご馳走します~!」って言って、彼の車を見送ったんだった! 彼の黒い車がホテルから遠ざかってゆくのを、私はずっと見てた!
そして一人で部屋に戻って、シャワーを浴びてビショビショのままベッドに倒れ込んで寝た!!
ヤってない! わたし、彼とヤってない! ごめん、わたし! 自分の貞操観念を疑って、悪かった! わたし、意外とちゃんとしてた!!
もし「ボクがその時の男性です」という方がいらしたら、ぜひご一報ください。お礼に一杯、馳走させてください。今度は酔わずに、自力でホテルに帰れる程度のお酒にします。ホテルまで送ってもらわなくて大丈夫ですから、黒い車は置いていらしてください☆
なんのお話でしたっけ? そうだ。女性占い師さんの話でした。その占い師さんがいらした場所、夜の商店街の一角で、数年後に私が酔っぱらってコケるのです。そして男性に救助してもらう運命。
寒いさむい夜に、酔っぱらって良い気分で歩いていたのです。すでに閉まったシャッター通りに、ポツンとうら若い女性の占い師さんが座っていた。よく通る道ですけれど、占い師さんを見たのは初めて。お若い彼女は小さな机を前にして、メモに細かい字で一所懸命なにか書きつけている。小さな字がびっしり。わたしはフラフラ近寄って「占ってくださいますか?」とお願いした。
小さなイスに座るよう促されてイスを引いたら、手に何かくっついた。手にくっついた何かは、小さなシールでした。私は一読だけして深く考えず、それを指先で丸めてポケットに入れる。ゴミだから、後で捨てよう。そしてチョコンと座る。机には白い真新しい布がかかっています。
占い師さん:机の上に両手を出してくださいますか?
私:はい♪
占:手相が……完全に男性の手相ですね……。
私:よく言われます♪
占:お仕事で出世する手相……? 独立心が旺盛……?
私:よく言われます♪
占:ご家族の縁は……薄い……?
私:よく言われます♪
占:ご家族ができる可能性は低いかも……。
私:当たってます♪ 家族、いないです♪
たまに占ってもらうのですが、たいてい同じことを言われます。「男性の手相」「仕事で出世する」「家族の縁が薄い」。 あと「すごく前向き」って言われますけど、それ占いじゃないですから。私と2分話したら、異常にポジティヴって誰でもわかりますから♪ ってか「男性の手相」って、なんだ? そういえば臨床心理士の先生から「典型的な、男性の思考回路です」って言われたこともあるけど、男性の考え方って、なんだ? 身体は女だけど、中身は男ってことか??
酔っぱらって気まぐれで見てもらっただけで、さしたる悩みもありません。言われたことは以前に何度か言われたことばかりなので、新鮮味もない。勝手な言い分ですけど、ちょっと損した気分。
占:ありがとうございました。3千円になります。
私:ありがとうございました。
これで3千円か……。ちょっとモヤっとするなぁ……。
私:じゃあお礼に私が、占い師さんのことを占いましょう。
占:え……?
私:両手を見せてくださいますか?
占:え……じゃあ……。
私:とても真面目で、きちんとした方ですね。
占:そうらしいですね……。たまに言われます……。
占ってもらう前にチラリと見えたメモ帳は、細かい字がビッシリ並んでいた。そういう書き方は、真面目できちんとした方にしかできない。そもそもこんなうす暗い場所で何かを書こうとすること自体、きちんとした性格でないとやらないと思う。私だったら、やんない。
私:性格は、優しくておだやか……人と接するのが苦手だけど、人に興味がある。最近まで大きな悩みがあったけれど、ご自身なりに解決する方法を見つけられたのですね。良かったです。
占:………………どうして……どうしてわかるのですか!?
5分も話せば、占い師さんが優しくて穏やかなのはわかります。たとえ外れていても、当たり障りのない表現なので間違いは指摘しにくい。この場所で占い師さんを見たのは初めて。以前から占いをしているなら同じ場所でするだろうし、何より人と話し慣れてない自信のなさそうな物言いから初心者とわかる。それに机の布が新しいし。こんな寒い夜に人通りの少ない場所で占いをしているのは、お客をたくさん見てもうけたいからじゃない。たぶんまだ人と話すのが怖いから、あえて人通りの少ない場所を選んだはず。でも占いをするくらいだから、人に興味があるのは確実。
大きな悩みがあったというのは、ご自身に大きな悩みでもないと、わざわざ占いを学ぼうと思わないから。そして悩みをある程度占いで解決できたから、他人を占う余裕ができた。ゆえに、開業した。
当てずっぽうで言ったけど、ある程度の推理はしています。そしてどうやら大当たりらしい。
占:もしかして、占いの先生ですか?
私:いいえ。ぜんぜん! ど素人です! でもこれくらいなら、誰でも当てますよね。
占:……そうは、思わないですけど……。
私:もうちょっと精度を上げましょうね。魔法の呪文を唱えます。ニャムニャム…………。あなたのお名前を、当てましょうか。苗字の一番上は、なんだろう……? 「は」は付きますか?
占:……!! 付きます!
私:…………もしかして二文字目は、「し」?
占:……(驚いて、声が出ない)。
私:わかった! はしがけさんでしょう!? はしがけ えみ(仮名) さん!
あんなに人の目がキョロキョロ動くのを見たのは、後にも先にもありません。驚きのあまり、彼女の目がすごい速さで左右に揺れる! 思わぬ正解に、固まる占い師さん。でも目だけが、せわしなく動いている! キョロキョロキョロ!
占:……なぜ、わたしの本名を……??? お会いしたこと、ありませんよね……??
私:今日が初めましてでぇ~す! 知り合いとかじゃナイでぇ~す! 知り合いの、知り合いでもないでぇ~す!
占:……じゃあ、どうして……??
私:占ってみたから! それでは、ご機嫌よう~!
占:……あぁ、待ってください……!!
ずっと前のことですけれど「あの時の私のイタズラのせいで、占いを廃業してないかな? ワルイことしちゃったかな?」とたまに思い出しては「ちょっと、ヤりすぎちゃったかな?」と後悔しています。あと、反省しています。
タネ明かしです。この方がきちんとした方だという論拠は、メモだけじゃなかったんです。じつはイスに座るとき手にくっついたシールに「はしがけ えみ」って書いてあった! きちんとした方に見えたから、おそらくご自身の持ち物に名前シールを貼る習慣があるのかな?と推理した。そしたらやっぱり、ビンゴだったっていう。
タネを明かせばカンタンですけど、いきなり名前をフルネームで当てられたらコワイかもしれない。ごめん! はしがけ えみ(仮名)さん! 軽い気持ちでイタズラしたけど、今は反省しています!
もし「それ、私だわ!」という女性占い師さんがこのエッセイをお読みでしたら、ぜひご一報ください。お詫びに、一杯おごります☆