呼ばれてるかも……しんない(涙)。
サバイバルな中学生活を送った私は、平和な高校生活を希望しました。オッペケペーな両親に「もう勉強なんて、しなくていいのよ? 高校に行かないで就職したら?」と進学を阻まれましたが、断固として拒否! 私はお勉強して賢くなって、今の生活を脱出したいんだ!
おかげさまで高校は、とても平和な生活でした。そして大学進学は親の「女の子に学歴はいらん! 金は出さん!」というバカバカしい理由で断念しました。ほんと、バカバカしい(怒)。
高校を卒業して、小さな病院に医療事務で就職。病院ですから何事も正確な仕事を求められる。私はぜんぜん向いてない。その後も世間の目を気にする親の意向でお堅い仕事ばかりするのですが、ことごとく向いてなかった! 今思えば世間体なんて気にしないで、自分がやりたい仕事を選べば良かった!
そうこうしているうちに、一回目の結婚。一人目の元夫(私はバツ2)に連れられて、沖縄県へ旅行に行きました。
昔も今も、おうちが大好きな私は「そんなに行きたいなら、付き合いますよ」と軽い気持ちでついて行った。興味がないので、前知識はゼロ。夫の行きたいところへ行くだけの旅行。
夫は「大きな岩の間から海が見える、絶景スポットがあるらしいよ。見に行こう!」と誘ってくれました。時は8月。沖縄が本気を出す、本気で暑い時期です。二人で斎場御獄という場所へ、出かけて行きました。
連日照りつける太陽と降り注ぐ雨で、樹々が怖いくらいに生い茂っている。うっそうと茂った木立の中を歩いていると、私まで緑色に染まりそう。青々と茂る足元の草を踏みしめながら歩いていると、前に後ろに気配がします。前に誰かいる気配がするので立ち止まっても、誰もいない。後ろから誰かが来る気配がするので道を譲ろうと脇によけても、誰もいない。誰もいないのに、にぎやかな気配がする。
私:誰もいないのに、誰かいる気配がすごくするんですけど。
夫:そうかな? ボクはわからないけど。
見えない誰かがいるのだけれど、不思議と怖くない。ヘンだな~?と思いながら進んでゆくと、薄暗い広場に出ました。地元の方が手入れしているのでしょうか、地面に草一本生えていない。むき出しの広場に四角い岩があって、その岩の上に石でできた丸い壺が置いてある。その壺に水滴がポツン、ポツンと落ちて、壺の中は水で満たされています。何ていうことのない風景です。地味な素焼きの壺に、水が落ちてるだけ。
地味なのにそれだけなのに、その光景を見た瞬間、ドババババ!と涙が出てきた!
えっっっ!? わたし、泣いてる!? なんで泣いてるのっっっ!?
どこも痛くないのに、なんにも感動してないのに、涙が止まらない! いきなり号泣する私を見て、夫も驚いています!
夫:どうしたの!? どこか痛いの!?
私:わからないです。わからないけど、涙が止まらない……!
ひとしきり泣いてやっと落ち着きました。でも身体がワキワキする。地面の中に車くらいの大きな乾電池があって、その電池と私が通電してる感じ……。自分でも何言ってるかわかんないけど、見えない何かが身体中を駆け巡ってワキワキする……。
ワキワキしながら森を抜けて、絶景スポットに到着しました。大きな岩が岩壁に倒れ掛かって、二つの巨岩で三角形の空間を形作っています。その向こうには、沖縄の美しい青い海が広がっている。
夫:すごいね! キレイだね! 絶景だね!
私:…………そうですね。
世にも奇妙な眺めなのに、私はあまり響かない。それよりさっきの地味な広場が不思議。あの涙は、いったい何だったんだ??
その日は歩き疲れて眠りたいのに、ワキワキが収まらずまんじりともせず一夜を過ごしました。…………何にたとえたらあなたに伝わるだろう? 飲み慣れないハブ酒を飲んで、無駄にスタミナがついて鼻血が出そうな感じ?? 身体は疲れてるのに、興奮状態?? 経験したことのない感じでした。
家に帰って調べてみると、色々とわかりました。斎場御獄はもともと観光名所ではなく聖なる地だった。御獄はもともとご先祖様を祀る墓所で、気軽に遊びに行く場所じゃない。そして私が号泣した広場は、神聖な祈りを捧げる場所だったらしい。
知らなかったとは言え、軽い気持ちで行ってごめんなさい。私は反省しました。
数年後、相変わらず沖縄にドハマりしていた夫の誘いで、再び沖縄へ旅行に行きます。私は事前に「斎場御獄へ行きたい」と頼みました。今度は失礼のないように、ちゃんと感謝の祈りを捧げよう。そして何事もなく帰ってきて、あの号泣は偶然だったことを立証しよう。
神様も仏様も信じていますけれど、だからと言って理論的に説明できない不思議な体験を信じるほど無邪気じゃない。「パワースポットで、不思議な力を感じた!」とか言う人にはなりたくない。あの号泣は、ただの偶然。何かの間違い。次に行っても、何も起こらないはず。
二度目も、号泣でした……(涙)。自分で制御できない! 涙が止まらない!! でも痛いとか感動したとかじゃないんです! ただただ涙がドバドバ出てくる!!
二度目は冬だったので、季節的な原因は考えにくい。何が原因だったのか、いまだにナゾです。
この体験が、20年くらい前。大昔の話です。そうこうしているうちに私は離婚して、ど修羅場の危険をかいくぐって(またおいおい書きます)住所不定無職から起死回生の一発大逆転を華麗に決めて、社長夫人の座に座ります。わはははは!! 仕事をしながら念願の大学に入学。そして除籍。そのうち「なんか、ちがう」という馬鹿みたいな理由で離婚をして、無職の引きこもり中年独身女に成り下がります。そこでまたトチ狂って「そういえば、作家になりたかった」という小学生の頃の夢を思い出し、生まれて初めて小説を執筆。これが大賞を受賞して本を出してもらい、気づけば作家になっていました。
…………なんか知らんが、作家になってしまった。この幸運を、一人占めしてはいけない気がする……。一人占めしてたら、不幸になりそうな気がする……。
あまりの幸運に怯えた私は、自分の書いた本を「幸せのおすそ分け」として、あちこちに配り始めます。本が買いたくても買えない子に、私の楽しい本を読んでほしい。あちこちの図書館の中に、私のふるさと水巻町の図書館も入っていました。そうです。あの、デカイ美術書をあげようかと言ってくれた図書館です。
寄贈の手続きに対応してくださったのは、水巻町図書館のY館長様でした。Y館長様は私が卒業した中学校の先輩で、通学していた時期は重なっていないのですが大先輩になります。Y先輩の時代も中学校は荒れていたかと尋ねると「まぁ、それなりにな」という深遠なお答えが返ってきました。やはり、荒れていたらしい……。
何度かやり取りするうちに、デカイ美術本をくださろうとした司書さんを思い出した。聞けばY先輩は図書館の設計にも携わっていたそうで、ずっと図書館勤務らしい。もしかしたらY先輩が、あの時の親切な司書のおじさん? もしそうなら、40年の時を経ての再会。すごい偶然! 運命の再会!!
私はめっちゃ張り切って、Y先輩にお尋ねしました! ドラマみたいな再会だ! あの時のお礼も言わなきゃ! もらえなかったのは残念だけど、あげようかと言ってもらったのはすごく嬉しかったから!
Y先輩:ボクじゃないよ。その頃はまだ、本格的に図書館の仕事してなかったから。
40年超しの再会の夢は、たった1秒で終わりました。ガッカリ……(涙)。
このやり取りが、1年くらい前です。私はやり取りしたことさえ忘れていた。
そしたら先日、Y先輩から小包が届いた。包みを開けると、本が一冊。題名は「風が泣いたのを見ましたか」。著者は「古賀 博實」さん。なんだろう?
Y先輩からの手紙が同封されていました。その手紙にこの本を書いたのは、Y先輩が図書館に勤務するようになる前の前任者・古賀さんであること。古賀さんは作家になる夢が忘れられず、退職後に自費でこの本を書いたこと。作家であるあなた(ソウマチ)の感想を聞けたら古賀さんも喜ぶと思うので、一読して感想を送ってみてはどうか……という内容が書かれていました。
ふ~ん。Y先輩の先輩か。私よりずっと年上の方だ。同じ水巻町の方。私ごときの感想で良かったら、拝読して感想のお手紙を書こう。けどどうやら、戦争のお話らしい……。戦争のお話は読むと落ち込んで復活するのにすごく時間がかかって大変なので、読まないって決めてるんだよね……。気持ちが重たくなる。どうしたものかと思いながら手紙を読み進めると、ついでのような一文があった。
Y先輩:あなたに美術全集をあげようか?と言った男性職員は、おそらくこの古賀さんだと思われます。
えええええっっっ! この方が、あの親切なおじさん!? あの時わたしは小学生で、おじさんは司書さんで、この後おじさんは作家になる夢を叶えるために自費出版して、そして私は作家になってる!? どういうこと!?
なんか、すごい! 40年前に司書さんだったおじさんと私、どちらも作家になりたかったんだ! そしておじさんは自費出版で夢を実現して、私も作家になってる! 二人とも作家!! すごい!!
興奮しながら本をめくります。古賀さんて、どんな人だ!?
本の一番最後に著者プロフィールが書いてありました。そこには、たったの3行。
【著者プロフィール】
古賀 博實
1950年、福岡県生まれ。
沖縄県在住。
どうも沖縄が、私を呼んでいる気がする……。何か大きな歯車が、動き始めた気がする……。
いま、めっちゃ悩んでいます。沖縄に行って古賀さんが親切なおじさんか確かめたいし、斎場御獄のナゾだって解明したい。したいが、行くのが怖い……。だってこの間の旅行でさえ、トラブル続きだったから(涙)。
40年前のご縁とか20年前の不思議な体験とかで行ったら、どえらい事件が起こりそう(涙)。
ううう……(涙)。どなたか、私の背中を押してください……。ビビる私の背中を押してほしい……(涙)。