ドキドキ台湾☆ 7 クライマックス!
あっという間に時は過ぎ、帰国の日です。
滞在中に台湾マッサージが痛すぎて店員さんに殴りかかったり、薬局で買った湿布が臭すぎて宅配屋さんを廃業の危機に陥れたりした話は、またいつか。
私と姑は豪華なホテルのリビングルームで、コーヒーを飲んでいます。フツーの部屋を頼んだのに、なぜサービスでリビングルームのある部屋になったのかは、最後までナゾでした。
「お義母さんは、楽しかったですか?」
「とても楽しかったわ! また一緒に旅行へ行きましょうね!」
「ありがとうございます♪ いつかまた」
数年後に離婚してしまったので、この約束は守れませんでした。ごめんなさい。
ホテルが呼んでくれたハイヤーに乗り込みます。黒塗りの高級車の運転席で、初日に会った運転手さんがニコニコと笑っていました! 警察官とケンカして、パトカーを蹴飛ばしたあの運転手さんです!
「おお! その節は、お世話になりました!」
お礼を言いながらも、一抹の不安が頭をよぎります。またケンカとか、しないでくださいよ……。
運転手さんは日本語を話せませんが、ホテルの方が飛行機の乗り場と出発時間を通訳してくれたので、安心して乗り込みます。
数日の滞在で大好きになった台湾の街並みを眺めながら、空港へ向かいます。今となっては、阿鼻叫喚の交通渋滞さえ好ましい。でも車にハネられかけた時は、ぜんぜん笑えなかった!
高速道路に乗れば渋滞はなくなるかと思っていたのですけれど、甘かったです。街中よりは幾分マシですが、車が完全に停止することもある。高速道路の意味ナイじゃん。でも車窓から見えるのどかな緑の田園風景は、一見の価値ありです。めったに見られない風景だから、目に焼き付けておこう。
どこまでも広がる田園風景は、日本に似ているけど違う。ここにも人の暮らしがあるんだなぁ~。
姑が空港でもお買い物をしたいと言ったので、時間はたっぷりあります。ノロノロ運転でも、十分間に合う。時間は間に合うのだが、ちがう問題が発生しました。
「トイレに行きたい……」
出発前に、飲み慣れないコーヒーを飲んだのが原因です。自然が私を呼んでいる……。早いうちに対処しとこう。
「運転手さん、トイレがあったら寄ってください」
「〇□△! ※〇△□!!」
「トイレ! お手洗い!」
「〇□△! ※〇△□!!」
トイレ無いって、言ってる気がする……。身振り手振りで訊いてみると、高速道路にトイレはないらしい。ウソでしょ……?? 空港に着くまで、ガマンしないと。
親切でケンカっぱやい運転手さんは、私がトイレに行きたいと知って、俄然張り切りました! 彼の何かに、熱い火がついたらしい。ノロノロと進む車の列に割り込んで、強引に抜かす! やめて! フツーの安全運転でお願いします! 大きな黒塗りの高級車のせいか、他の車は文句も言わず道を譲ってくれます。 やめて! 危ないから! メイワクだから!! 私たちは善良な一市民だから!
「運転手さん、やめてぇ~!」
「ワハハ!! 〇□△◆※〇△□!!」
運転手さん、明らかにヘンなスイッチが入ってる! 大笑いしながら、強引に突っ込みます!
「やめなさいっっっ! ダメっっっ! 安全運転しなさいっっっ!!」
後ろの席から運転手さんの肩をつかんで揺さぶる! 断固としてダメです!!
やっと運転手さんは、安全運転をしてくれるようになりました。でも不満そうに、ブツブツ言っています。お前は、いたずらっ子の小学生かっ!?
平和を取り戻した車内ですが、私の個人的な危機は着々と近づいてきます。トイレに行きたい。自然の呼び声が、大きくなっている……。
車窓から見える風景は、相変わらずのどかな田園風景です。こうなってくると、のどかな風景にも腹が立つ……。イライラしながら自然の呼び声を無視していたのですが、どうにもこうにも我慢できなくなってきた。
「運転手さん。車をあそこへ止めてください」
非常用の駐車帯を指差す私。運転手さんはよしきたとばかりに、ありえない強引さで道路を横切ると、駐車帯に入ってくれました。車から降りる私を、他の車の人たちが驚いた顔で見ています。ここで用を足したら、全員に見られてしまう。それに加えて我が愛する運転手さんは、私がどうやって危機を回避するのか、ワクワクした顔で見つめています。たとえ車の陰に隠れたとしても、運転手さんに見られてしまう! この場所では、何もできない! どうする!?
フェンスの向こうには、のどかな田園風景が広がっています。トイレがありそうな家は、はるか彼方です。あそこに辿りつくまで間に合う自信はない。ってか、間に合わない自信しかない! でもあそこにしか、トイレはない。
私は自分の身長より高いフェンスに、足をかけました。そしてガシガシと登り始めた。渋滞で退屈している皆さんにしたら、いい見物です。「いったい何をするんだ!?」と、見つめられる視線が痛い……。
全員の注目を一身に集めながら、フェンスの向こうに降り立ちました。降りたはいいが、遮蔽物は何もありません。何もないけど、低木が一本だけあった!! 私は低木の陰にお尻を突っ込んで(!)、下半身を隠しました。これなら下半身は見えない! そして自然の呼び声に応えました! 良かった! 間に合った!! 下半身は見えないものの、何をしているかは一目瞭然ですが、これが私の精一杯です! カンベンしてください!!
満足してまたフェンスを登り、無事に車に辿りつきました。心配した運転手さんが、車の外で待っていてくれています。
「ありがとうございました! 間に合いました!」
運転手さんも喜んでいます。でもその笑顔、親切心だけじゃないですよね?
私はポケットから、日本製のライターとタバコを取り出しました。旅行中にチップとして配っていたモノの残りです。台湾で日本製のライターとタバコは大人気で、各所でとても喜ばれました。
「これあげるから会社に戻っても、『日本人が野ションした!』とか、言いふらすなよ?」
「わかってるよ! 言うわけないじゃん! オレたちだけの秘密だよ!」 ニヤニヤニヤww
わからないはずの台湾語が、この時だけはハッキリわかりました!
「言わんて言うてるけど、言うつもりやろう!?」
「言わんて! 言うわけないやん!」 ニヤニヤニヤww
「いいや! ぜったい言う! そのニヤニヤ顔が、何よりの証拠や!」
「言わんて! ワハハハハ!」 ニヤニヤニヤww
コイツ、絶対に言うつもりや……。そして私には、それを止める術がない……(涙)。
そこから空港へ到着するまでは、とても和やかな雰囲気でした。だって運転手さん、ずうっとニヤニヤしてましたから(涙)。まあ、いいや。これも一つの思い出として、大事にしておきますよ……。
「また台湾に来いよなぁ~!」
「また来るから、野ションのことは言うなよお!」
「わかってるって~! ブハハハハ!!」
最高のネタを仕入れた運転手さんは、最高の笑顔で見送ってくれました!
てっきりコレが、今回のクライマックスだと思っていました(涙)。ちがいました(涙)。本物のクライマックスは、この後でした(涙)。
無事に飛行機に乗り込んだ後に、雨が降り出しました。バケツをひっくり返したような、激しい雨です。遠くに真っ黒な雨雲が広がり、雷がピカピカ見えます。大丈夫かな?
飛行機が離陸すると、機長さんのアナウンスが始まりました。
「今日の天候は、激しい雷雨です。雷雲を迂回する方法もありますが時間の都合上、当機は積乱雲の中を通過します。飛行中に雷が見えると予想されますが、機体に落雷しても墜落することはありません! 安心して自然のショータイムをお楽しみください☆」
おい機長! 落雷って、何だよっ!? 雷なんて見たくねぇよ!! 機長を呼べ! 迂回しろ!!
私の願いも虚しく、飛行機は真っ黒な雲に突っ込んでゆきました。うわあ! 真っ暗! 怖い!
でもまだ本当の恐怖は、襲ってきてなかったのです!
真っ暗な雲の中で、雷のショーが始まりました!! 前も横も後ろも! 雲を切り裂く雷が!! すぐ近くで!! 太い! 雷が太い! そして耳を突んざく轟音が!! 死ぬ! こんなのに当たったら、死ぬ!!
修羅場の中でも、CAさんは笑顔です。地獄で見る天使のよう! 雷が鳴り響く中、笑顔で飲み物のサービスをしてくれます。怖いですけどCAさんが平気みたいだから、大丈夫かも……? 私、オレンジジュースが飲みたいです。怖くて口がカラカラなので、甘いオレンジジュースが飲みたい……。やっと順番が来ました。「オレンジジュー……」言いかけた途端、CAさんが「申し訳ございません。ドリンクのサービスは中止致します」と言って、カートを押していなくなりました。
あれ? いなくなっっちゃった……。
すぐにCAさんは戻ってきました。けれどもカートは押していません。手ぶらです。私のジュースは?? 見ていると、すぐ近くの席に座りました。他のCAさんも、隣に座ります。そして安全ベルトを締めると一瞬だけ、難しい顔をしてお互いに顔を見合わせました。どう考えても、非常事態……。CAさんがサービスを止めて、席に座っている……。
雷のスペクタクルショーは、続きます。すぐ近くで雷が!! 機体に当たらないのが不思議なくらい! 死にますか!? 私たち、死ぬんですか!?
ビカビカ光る雷の合間は、真っ暗闇です。本当は室内灯がついているのですけれど、雷の光がすごすぎて、闇のように見える(涙)。その暗い瞬間に、CAさんが小さく十字を切ったのを見てしまった! CAさんが、あきらめてる! やっぱりダメなんだ! 死ぬんだ!!
死ぬ恐怖と、雷の恐怖は、日本に到着する直前まで続きました。よほど広範囲な雨だったのでしょう(涙)。怖すぎて緊張しすぎて首がむち打ちになるくらい、ひどい経験でした(涙)。
旅は終わりました。私はたくさんの思い出を作って、普段の生活に戻っていきました。そして今日まで、生きてきました。軽い気持ちで書き始めた台湾旅行のお話は、意外と長くなってしまいました。それも今日で、終わります。旅行のお話は終わりますけれど、私の人生の旅はまだまだ続きます。このエッセイで私の人生の旅にお付き合いいただければ、望外の喜びです♪
あなたの人生の旅に、イイコトありますように☆