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ドキドキ台湾☆ 6 お宝と、???

 台湾の銀行で両替をしたら、故宮博物館を目指します! 今回の目的地! 親子三代で彫った象牙の珠が見たい!! それから有名な、翡翠でできた白菜も!


 技術が流出するのを防ぐために、作品が完成したら職人を殺していた(!)中国の皇帝。その皇帝に殺されないために、老衰で死ぬまで象牙の珠を彫り続けた祖父と父親! 息子の代になってやっと皇帝の支配が終わり、無事に天寿をまっとうした孫! 三人が掘り続けた象牙の珠が見たい! ついでに、翡翠の白菜。


 バスでたどり着く自信はないので、おとなしくタクシーに乗り込みます。到着したのは緑に囲まれた、さらに工事用の足場で覆われた故宮博物館でした! なんてこったい! 改装中です! 何年も夢見てやっとたどり着いたのに、改装中!! ここまで来たのに、入れない!?


 あまりのショックで立ちすくんでいると、目の前を続々と観光客が歩いてゆく。あら? もしかしたら、開いてる? こういう時はガイド付きの一団に、くっついてゆくのが吉です。事情に詳しいガイドさんが、ちゃんと案内してくれる。しばらく歩くと、入口に到着しました! やった! 開いてた! 入り口でジロジロ観察していると、入場チケットは2種類あるらしい。改装中ですべてを見ることはできないが……1・主要な作品だけ見られる、2・主要作品+期間限定の企画展。

ポスターを見ると主要作品の中に、象牙の珠と翡翠の白菜がある! 1番のチケットをください!


 後で知ったのですが、台湾の故宮博物館はものすごく広くて、お目当ての作品にたどり着けないことがあるらしいです。見る物が多すぎて、時間が足りないらしい。けれども改装中で作品をコンパクトにまとめていたので、すぐ見つけることができた。今思えば、改装中でラッキーでした♪


 ずうっと見たかった作品を、やっと見ることができる……。ここまで長かった……。海外旅行なんて不可能だった十代の頃の私が「いつか見たい!」と切望し、お金持ちの夫と結婚してやっとたどり着いた。すべては夫のおかげなのですが、私だって頑張った! 感無量です!


 博物館の一番の目玉は、翡翠の白菜です。世界中から集まった観光客が、白菜に殺到している。幾重にも重なった人たちの隙間を縫って、ジリジリと白菜に近づきます。やっと最前列に到着して、白菜と向き合うことができました。


「うん。白菜だね♪」


薄い感想で、申し訳ありません。何度も写真で見ていたので、感動が薄かった。白菜に精緻なバッタが彫られているのも「うん。バッタだね♪」で終わった。すごいとは思うけど、貴重なのでしょうけど、それより私は、象牙の珠が見たい!!


 象牙の珠は白菜よりも有名じゃないようで、すぐに近づくことができました。私にとっては、こっちが本番! やっと会えた! 会いたかった!

 想像していたよりも、ずっと小さな珠でした。念願の珠に近づき、じっくりと見つめます。その間、約30秒。感無量の私の感想は…………





















「もういい」







自分でも驚いたのですが、1分も見られなかった! 凄すぎて、直視できない! 超絶技巧で彫られた珠は情報量が多すぎて、脳が受け入れを拒否した! 針の先で彫った目に見えない細工が怖すぎる! 殺されたくない一心で彫った珠かと想像すると、その執念が怖すぎる! 死にたくないと思う人間は、こんなに恐ろしい物を創り出すのかっっっ!? 怖い!!

あまりの怖さに、後の展示物はほとんど記憶に残っていません。せっかく来たのに、逃げだすように博物館を後にしました。


「なんだか色々あったわね~!」


私の想いを知らない姑は、のほほんと感想を述べます。


「私の見たい場所は(色々な意味で)終わりました。お義母さんは、どこへ行きたいですか?」

「お買い物に行きたいわ! 免税店に行きたい!」


 姑はずっと働きづめで、旅行やお買い物を楽しむ時間がなかったそうです。退職してからも仕事をしているので、今も時間がない。先に退職した友人たちが旅行に行ったとお土産をくださるが、姑は旅行へ行く時間も、お買い物をする時間もなかった。もらってばかりのお土産が溜まる一方で、姑は大きなフラストレーションを感じていたらしい。そして今回、満を持して旅行に来た! しかも海外! しかも嫁と二人で! 嫁と姑は仲が悪いのがフツーなのに、二人だけで海外旅行! 自慢したい! 今までもらうばっかりだったお土産も、差し上げる側になりたい!!


 姑には姑の、熱い想いがあるらしい。それならと免税店へ行きました。大きな建物の中に、たくさんのお店がひしめき合っています。ジャパンマネーが飛び交うせいか、どの店員さんも日本語で対応してくださいます。姑は水を得た魚のように嬉々として、あれこれ買い込みます。目についたものを、片っ端から買う! 私は生まれて初めて「金に物を言わす」という状態を、の当たりにしました。姑は値札も見ずに「これを10個、それを20個、こっちは30個!」ガンガン買います! 怖い! 怖いです!

でも今まで一所懸命に働いてきたのだし、支払いは姑が自分でするし、どん引きしながら見守るしかない。荷物はお持ちしますので、好きなだけ買ってください……。


「まあ! なんてこと! 忘れていたわ!」


急に姑が叫びました。どうされましたっ!?


「台湾といえば、スワトウのハンケチよ! スワトウのハンケチを買わなければ!」


 汕頭スワトウというのは、中国の地名です。中国と台湾は違う国なので、姑の言っていることはおかしい。でも姑が欲しいのなら、止める必要はありません。それに台湾でも、スワトウのハンカチ売ってるし。


 姑はズカズカと、スワトウのコーナーへ近寄ります。他のお土産に比べて段違いに高価なので、客の姿はありません。私と姑の中間くらいの年代とおぼしき美しい店員さんが、ニコニコと迎えてくれました。姑に代わって、私が尋ねます。


「恐れ入ります。日本語で、お願いできますか?」


女性の店員さんは、申し訳なさそうな顔で首を横に振ります。そうか。日本語はダメか。でも値札はちゃんと貼ってあるし、免税店なのでボッたくられることもナイだろうから、大丈夫でしょう。

姑はすでに臨戦態勢です。


「以前にね、お友達からすごく素敵なスワトウのハンケチを頂いたの! もらったままだから、ずっと気になってたの! お返しせねば!」


スワトウのハンカチをもらったのに、スワトウのハンカチをお返しするのは、私は失礼だと思いますよ…………そう思いますが、もちろん黙っています。武闘派の姑が臨戦態勢になったら、無敵です。ヘンに意見を述べたら攻撃される。後で冷静になったら、ご自身で気づくでしょう。

私もスワトウのハンカチ欲しいけど、さすがに買えません。買えないことはないけれど、ハンカチ1枚に1万円も払いたくない。たとえ買ったとしても、1万円札で手を拭くようなマネはできない。ってかスワトウのハンカチって細かな刺繍が素敵なのですけれど、その刺繍がゴワゴワして手が拭きにくくないですか? 見るにはイイけど、見るしかないハンカチって、どうよ?? 


 現金主義の姑が、普段は使わないクレジットカードを取り出します。もちろんゴールドカード。そのカードで、お高いハンカチを何枚も買う。この旅行の支払いが終わったら、たぶんブラックカードに格上げされるでしょう。カード会社、ウハウハですよ……。


 美しい店員さんは、もの凄い金額を顔色一つ変えず慣れた手つきで決済します。買い物が終わったかと思うと「やっぱりコレもいただくわ!」という優柔不断な姑に、ニコニコと接してくださる。お手数をおかけして、すみません。長年溜まっていた買い物欲が刺激されてちょっと血迷っているので、許してください。


 怒涛の買い物の間に、店員さんが台湾語で話しかけてきました。


「ママ? 〇△□※…………??」


どうやら私と姑が、母娘かと訊いているらしい。


「ちがいます。『ポーポー』です。姑です」


 旅行前に勉強した、数少ない単語で答える。店員さんは驚いたようで、「ママ? ……〇△□……ポーポー??」と何度も尋ねる。とても仲が良く見えるので、実の母娘ではないのか?と訊いているらしい。


「ポーポーです。ママじゃないです」


私が答える横で、姑は自慢げな顔です。息子しかいない姑にとって、娘と間違われたのが嬉しかったらしい。嬉しくてお買い物から気がそれたら、急に尿意に気づいた。


「わたし、お手洗いに行ってくるわ!」


姑は、そそくさとトイレへ行きました。

私はすることもないので、ショーケースの中のハンカチを眺めます。確かにとても美しい刺繍ですが、やはり値段が折り合わない……。かがんで見ていると、急に頭上で日本語が聞こえました。


「お姑さんを変えることはできないから、自分が変わるしかないのよ」


顔を上げると、美しい店員さんが私を見ていました。


「え?」


日本語が話せないはずの店員さんが、流暢な日本語を話している? しかも深遠な話題??


「お姑さんは年上だから、今さら変わろうとしても変わることはできないの。だから若いあなたのほうが、変わったほうがいい。自分を変えることはできても、相手を変えることはできないわ」


ちょ、待ってください! 何の話ですか!? 日本語話せないって、言ってたじゃないですか!?


「私もね、相手を変えようとしたの。でも何も変えられなかった。だから自分が変わることにしたの。自分のことなら、変えられるから」


 独り言のように話す美しい店員さんの目に、涙が浮かびます。丁寧にお化粧された目じりをよく見ると、うっすらとシワがある。私が思っているよりも、ずっと年上かも……。それも気になりますが、いきなり何の話題ですか? 姑と私は、上手くいっています。それに日本語バリバリですやん……???


「いつでも自分を変えるのが大事よ。相手は変えられない。それを忘れないで!」


あまりにも意外なことが起こって立ち尽くしていると、姑が戻ってきました。


「忘れてたわ! 〇〇さんにもハンケチを差し上げなきゃ! それに△△さんにも! このハンケチ、見せてくださる!?」


姑は張り切って、ショーケースに張り付きます。さっきの涙がウソのように、にこやかな店員さんが優雅な手つきでハンカチを取り出します。そして彼女は二度と、日本語を話しませんでした。


 この旅行から数年後、私は夫と離婚します。姑との縁も切れました。でもこの旅行の頃は、夫ともうまくいっていましたし、姑との関係も良好でした。何も不満なんて無かった。それなのに「相手を変えることはできない。自分が変わるしかない」と、見知らぬ店員さんから言われました。そして自分を変えるために、離婚に踏み切りました。


 うまく言えないのですけれど、ほんの一瞬、奇跡のタイミングであの女性に会えたのは、私にとって幸運だったと思うのです。そしてすごく大事な何かを、教えてもらったと思うのです。それが何だったのか、いまだによくわからないのですけれど…………。その答えがわかるのは私が一所懸命に人生をまっとうして、最後の最後の瞬間かなぁ?と思います。だからこれから先も、アタフタしながら一所懸命に生きてゆこうと思います♪ 


あなたにも、奇跡が起きますように☆

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