通じる外国語!
私は、外国語はムリです。日本語も、ヘタです。
以前、一所懸命に英語を勉強していた時期がありました。
大好きな人が語学留学でアメリカに行ったので、追いかけたかった……。
彼はお坊ちゃまなので親の金で留学しましたが、私は庶民の子。自力で何とかするしかない。
安い英語教室を見つけて、自分のお給料で勉強に行く。今思えば、健気で涙が出ます。
その頃の私の実力は、中学生レベルでした。高校は実業高校だったので、英語の授業はほとんど無かったのです。そのまま就職しちゃったので、英語を学ぶ機会がなかった。英語教室の先生に「お願い! カンタンな英語で話してください!」と泣きつく日々でした。
そんな時に「英語を話せるなら、通訳してくれない?」と、知り合いから頼まれました。
私は後先考えずに「やります! やらせてください!」と、名乗りを上げた。
そして「外務省(!!)主催の食事会」に、通訳として出席しました!! なんでやねん!!
これには歴史的な背景があります。第二次世界大戦で日本は、外国と戦いました。
この時に捕虜として、大勢の外国人を日本に連行しました。私のふるさとである水巻町にも、捕虜の方たちが連行された。そして水巻町で、亡くなった方たちがいた。捕虜の仲間と有志の日本人が、亡くなった方たちの墓標を建てた。戦後に墓を参る人は途絶え、墓は荒れるがままになっていました。
気の毒に思った水巻町の有志が集まって、ボランティアで墓地の草刈りをしていた。
私は詳しい事情も知らず「草刈りくらいなら、お手伝いできる♪」と、たまに参加していました。
その頃、オランダで「遠い日本で戦死した、父親の墓に参りたい」という戦争遺児の方たちが、父親の葬られた地を探す行動を起こしました。オランダの外務省から日本の外務省を通じて、墓が水巻町にあると判明。「ぜひ墓参りに行きたい!」と、オランダからのお客様が訪日したのです。
この頃に墓を整備していたのは、水巻町のボランティアの一団。その後に外務省や文科省が引き継ぐことになりますが、まだ引き継ぎが完了してなかった。ゆえに公費で通訳を雇うことは、できません。
「通訳、どうする?」となった時に「いつもヘラヘラして草刈りに参加してるヤツ(ソウマチ)が、英語を習っているらしい」ということから、私に白羽の矢が刺さった……いや、立ったのでした。
軽い気持ちでお受けしたのに、詳しく聞いたらシャレにならん内容でした。何より私は加害者(日本)側で、お話するのは被害者の遺族です。もし言葉が通じたとしても、心の溝は埋まらない……。
「何でこんな大それたことを、お受けしたんだああああ!!!!」と後悔しても、後の祭り。
すぐ当日になりました。
会場は、水巻町の文化センター。お料理は、町の仕出し屋さんのお料理。この仕出し屋さんがお墓をきれいにしていたボランティアの代表で、お料理代も自腹です。
10卓ほどあるテーブルに、それぞれ通訳が付きます。他のテーブルは、学校の英語の先生とか、お仕事で英語を話す人とか、ちゃんと英語が話せる人ばかり! 私だけが!! ど素人!!
キンチョーでガチガチになって、担当のテーブルに付きます。
オランダからいらした8名のお客様は、全員が金髪碧眼。美しい青い目で、私を見ている。
「ソウマチです。通訳です。よろしくです」
ヘタな英語で挨拶をしていると、ご婦人の胸元に目が吸い寄せられました。
ワタシ: すごくキレイなネックレス!
ご婦人: ダイヤモンドよ!
ワタシ: とても大きい! キレイ!
ご婦人: 私の夫は外科医なの! 同じ医者でも、外科医はもうかるのよ! ガハハ!!
ご婦人は、身振りで札束をヒラヒラさせます。あら? めっちゃフレンドリー??
後で知ったのですが、オランダってオランダ語が公用語なのですね! つまり英語は、主流じゃない。だから私のヨゴヨゴした英語のほうが、やさしくてわかりやすいらしい。英語の先生たちが話す流暢な英語は、オランダの方には難しいらしい。なんてラッキー!
俄然ノリノリになって、会話が弾みます!
別の男性が、話しかけてきました。
男性 : キミの瞳は、美しいね。
ワタシ: そうでしょうか? 日本人はみんな同じ色だから、美しいと言われたのは初めてです。
男性 : キミの瞳の色は「アーモンド・アイ」と言って、オランダでは貴重な色なんだ。とても強くて、印象的な色だ。素晴らしい!
ワタシ: ありがとうございます♪
うわぁ! めっちゃ通じてる! 彼が何を言っているのかも、ちゃんと理解できる!
私、英語でお話してる!!
男性 : キミの瞳は、本当に美しい。だから今度、二人で会いましょう。
ワタシ: は?
男性 : 今度、仕事でまた日本に来るんだ。その時に、キミと二人で会いたい。
ワタシ: ………。スミマセン。ワタシ、エイゴ、デキナイ。ワカラナイ。
何やらヘンな方向に話が進んでいます………。 どうなる!? 私!?
(つづく)