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想い出のボロアパート 2

 見た目ヤ〇ザみたいなおいちゃんばっかだけど、話してみたらとことん優しい……。

おいちゃんたちに、何か恩返しができないかしら?

私はその機会を、ずっと探していました。


 ある日、一台しかないコインランドリーの前で、おいちゃんたちと立ち話をしていました。

話題はいつでも「壊れたコインランドリーは、いつ修理してもらえるのか?」問題です。

かれこれ半年くらい、二台目のマシンは壊れたままです。20軒で一台は、時間がかかって大変!


「オレな、前に不動産屋に電話したんや! 洗濯機を直せ言うたった!」

「おお! すばらしい!」 私はパチパチと拍手をします。

「すぐに直す言うてたのに、もう何カ月もたっとる!」

「たしかに」

「だからこないだ、また電話したんや! それなのに、ぜんぜん直らへん!」

「そうですね。 困っちゃいますよね!」

話を聞いていた別のおいちゃんが、口をはさみました。

「俺な、こないだ不動産屋に行ってきてん」

「え!? お店まで遠いのに!」

「俺も何回も電話したんや。でも口ばっかで何もせえへん。店まで遠いから、店に押し掛けるワケにもいかんやろ?」

「そうですね。 みんな貧乏ですから、誰も車持ってナイですものね」

「だから俺、タクシーで店に行ってん」

「おお! 素晴らしい行動力!!」

「そんで店で、怒鳴りまくってきた!」

「えええええっっっ!?」


それって、違法行為じゃあ………???


「でも直らへん! こんなボロアパートに金かけてもしょうがないから、金のかかることはせんのや!」

「たしかに……。安い家賃から修理代を捻出するのが、バカらしいのでしょうね」

「貧乏人は、損ばっかりや!」

「そうですね。悪循環ですよね……。」


わたしは、おそるおそる言ってみました。


「わたし、修理してもらえるようお願いしてみます」

「ねえちゃんが言っても、ムリやって!」

「俺らが何回も言ったんや! お前が言っても、どうもならん!」

「でも……」


話していると、夫婦とおぼしき50代くらいのお二人が、階段をのぼってきました。そして、私の隣の部屋に入っていきました。


「あれ? このアパートって、ご夫婦はいないですよね?」

「見たことない二人やったぞ! ねえちゃん、お前の部屋の隣やな!?」

「そうです」

「男のほうは、住人か?」

「わからないです。何度かご挨拶に伺ったのですが、会えなくて」

「誰やろう? 新しいヤツらか?」

「わからないです」


見知らぬ二人で話が逸れてしまいましたが、コインランドリーを修理すれば、おいちゃんたちが喜んでくれる! でも相手は、なかなか手ごわいようです。 どうしたものか?

とりあえず、ダメ元で不動産屋さんに電話をしてみました。まずは敵を知ることから!


「ハイ! 〇〇不動産 ウソ山(仮名)です!」

やたらと勢いのいい男性の声です。

「お世話になっております。〇〇アパートのソウマチと申します」

「ハイ! お世話になります!」

「あのぅ~。お願いがありまして、コインランドリーが……」

「ハイハイハイ! 承知しています! 数日中に、修理に行く予定です!」

「あ、そうですか! 助かります! よろしくお願いします」

「ハイハイ! 失礼します!」


なんだ! もう修理に来てくださるんだ! 良かった! これでおいちゃんたちも、ほっとするでしょう!!

………数日って、いったい何日くらいですか??? ぜんぜん来ないんですけど?

一週間たっても、マシンは壊れたままです。これ、ウソ山さんに騙された感じですか??


ふたたび電話をします。 ウソ山さんじゃない方が、電話に出ました。

「すみません。ウソ山さんをお願いします」

「少々お待ちください……。(ゴニョゴニョ)……ウソ山は、外に出ています」

居留守ですね? イイお返事だけして、適当にごまかして、私があきらめるのを待っている感じですね? 今まで全員、それで撃退してきたのですよね?

「お留守ですか。それではウソ山さんに、コインランドリーの修理の件でまたお電話すると、お伝えくださいますか?」

「承知しました!」 相手は、ほっとした声を出します。だよね。ウソ山さん、すぐそこにいるよね?


「またお電話する」と言ったので、約束は守ります。 朝、昼、夜と時間を変えて、ウソ山さんを呼び出します。居留守を使っていても、構いません。丁寧に「またウソ山さんに、コインランドリーの件でお電話します」と言って、またかけ直すだけです。

たまにウソ山さんが電話に出たら、しめたものです。


「修理の件、どうなりました?」

「ハイハイハイ! すみません! 今、手配しています!」

「いつになります?」

「来週中には! ハイ!」


言ってるウソ山さんも、聞いてる私も、ウソだとわかっています。それでも、かまわぬ。

「そうですか。どうぞよろしくお願いいたします。直らなかったら、またお電話します」

「ハイハイハイ!」

次の週になると、また電話をします。もちろんウソ山さんを指名して。

そして丁寧に進捗状況を聞きます。最後は「またお電話します」で締めくくります。けして声は荒げません。文句を言うこともありません。丁寧に淡々と、「またお電話します」を続けます。


だんだんと包囲網が狭まってきました。お店の方は私だとわかると「ウソ山ですね!」と、すぐ繋いでくれるようになりました。そりゃ、そうだ。他の方にとっては、ウソ山さんに振ればイイだけの話だし、留守だと何度でもかけてくるから、ウソ山さんに出てもらったほうがイイ。

別にウソ山さんが担当ではないのかもしれんが、私が勝手に担当者に任命したから、あきらめろ。


ウソ臭くて軽い調子だったウソ山さんの声のトーンが、だんだんと低くなっていきました。勢いがなくなって、調子の良いことも言わなくなった。ここまで、1か月くらい。


ある日、ウソ山さんが言いました。当初とは比べ物にならない、愛想も素っ気もない言い方です。

「あさって、修理業者を行かせます。その時に修理できなくても、必ず修理させます」

「ありがとうございます。 よろしくお願いいたします。直らない場合は、またお電話します」

私はいつもと同じ調子です。 ウソ山さんが何度もウソをついておいちゃんたちをあきらめさせたように、私もウソ山さんがあきらめるまで、何度でも電話しますから。


意外なことに(?)、修理屋さんは来てくれました。そしてあっという間に、修理してくれました!

やった! 直った!

おいちゃんたちは、大喜びです!!


「おまえ、すごいな!」

「今までオレたちが怒鳴ってもアカンかったのに、どうやったんや!?」

「えへへ♪ あきらめんかったとですよ!」

ほんとに、そう。ただ、あきらめなかっただけ。おいちゃんたちのために、あきらめんかったとですよ! 自分のことなら、あきらめてた。


「今日は、お祝いや!」

「おいちゃんたちが、ご馳走したる!」


安い定食屋さんで、一番安い焼酎をおごってもらいます。値段は安いかもしれませんが、私にとっては最高に価値のある一杯です! おいちゃんたちに、褒められた!!

不動産屋さんは治安が悪いアパートとか言ってたけど、おいちゃんたちは全然悪くない!

それより不動産屋さんのほうが、ずっとズルかった! でも私、勝った!!


そしてこの話、最終章に続きます…………。 (明日こそは、終わらせます!)

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