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百合とTSと悪役令嬢  作者: 宇奈木 ユラ
第四章 本当のヒロイン
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92 喪失と覚醒(Ⅰ)

 天気予報では梅雨明けが発表されたというのに、きょの空は分厚い雲が重くのし掛かる曇天。

 重苦しい空気で制服まで重く感じる。

 病院の廊下、その窓から差し込む鈍い光にため息が漏れる。


「折角の朗報の日なのに、天気は空気読みませんのね」


「そればっかりは仕方ないよ、私たち神様じゃないんだし」


 困ったような顔で隣を歩く月乃さん。

 あの日──月乃さんの誕生日から三日後の今日。

 意識を失っていた遠野花鈴が目を覚ました。

 あの日、エスカレーターから転落して頭を強く打った彼女は急いで救急搬送された。

 しかし、打ちどころが悪かったらしく昏睡状態が続いていたのだ。

 昨晩、ようやく彼女が目を覚ましたというのを遠野花鈴のご家族から連絡を受けて、(わたくし)と月乃さんは今日の放課後にお見舞いに行くことにしたのだ。


 遠野花鈴が居る病室へ向かう道中、私たちはやっと安堵できたことでだいぶ打ち解けて話が出来ていた。

 これを怪我の功名というのは不謹慎でしかないけど。

 取り敢えず、遠野花鈴が退院したら一緒に月乃さんにプレゼントをちゃんと渡して、そして退院祝いもしよう。

 いっそ私の屋敷に呼んでもいいかもしれない。

 そんなことを思いながら部屋番号を確認しながら歩く。


「えーと。あ、ここだ!」


 指差ししながら確認していた月乃さんがそう言って、部屋の前で立ち止まる。

 そしてすっと、扉に手をかけて中に入る。

 病室は個室で、ベットから半身を起こして文庫本を読んでいる遠野花鈴の姿があった。


「リンちゃん?」


 月乃さんが控えめに声をかけると、彼女は顔をあげて微笑んだ。


「キノ、よく来たね」


 月乃さんはその様子にほっと息を吐いた。

 ──しかし、ほっとしたのは月乃さんだけだ。

 彼女の後ろに私の姿を見た遠野花鈴の目が、スッと冷めたように細まったのを、私は見逃さなかった。

 その視線に、得体の知れない嫌な予感が背筋を走る。

 今までの遠野花鈴には一度も感じなかったタイプの感情。

 ──いやに冷たい感じがする。


「よかった! 元気そうだね」


「うん、まぁそうなんだけど──」


 遠野花鈴は笑顔だ。

 笑顔ではあるんだけど、多分()()()()()

 そんな歪な表情で、彼女はこう続けた。


「──そこにいる子は、誰かな?」






 ▽▲▽



 結論から言おう。

 遠野花鈴は、過去一年分の記憶を失っていた。

 ()()()()()()()()()()記憶を。

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