84 相談(Ⅱ)
「あー、キノ?」
「うん」
「別に、その。自分に正直に動いていいと思うよ。勝手にタブーだと思い込まないで、さ」
大丈夫、キノは主人公なのだから彼女がやろうと思えばなんだってきっと出来る。
乙女ゲー主人公なのだから、特に恋愛面であるなら尚の事。
そう考えると、今までキノの周りで恋愛系イベントが頻出していなかったように思うが、もしかしてその理由は彼女が望んでいなかったからなのかもしれない。
ここは乙女ゲーの世界でキノは主人公なのだから、その可能性はある。
だから、案外ここで彼女の気の持ち方──意識の方が変われば、世界自体が変わるかもしれない。
まぁ、そもそもな話。
宮古くんがボクじゃなくてキノの方に行ってくれた方が気が楽になる。
いや、宮古くんが嫌とかではないけどね?
──ね?
「その人が誰かはあえて聞かないでおくけど、キノ自身が自信を持って気持ちを伝えに行けば全然なんとかなるよ。多分キノが思ってるような最悪な事態にはならないさ」
「そ、そうかな」
「そうだよ」
自信なさげな彼女の言葉を強めに否定する。
「キノなら、大体の奴は攻略できるさ」
「いやそんな、ゲームみたいな」
そんなまさかだよ、ゲーム世界だよ。
──という言葉が喉元からで掛かるが何とか飲み込む。
「だから、キノはキノなりに頑張れ。いざとなれば、ボクも全力でバックアップするから」
そりゃもう、全力よ。
犯罪スレスレ低空曲芸飛行かましたるわ。
記憶取り戻してから今までの間に、それくらいの覚悟はしている。
そこまで話すと、彼女は少し俯いて黙り込む。
一瞬、キノの望む答えを言えてなかったかなって不安になる。
しかし、再び顔を上げたキノは実に晴れやかな表情をしていた。
「そうだね、うん。私、頑張っちゃうよ!」
そう言って、ガッツポーズをしてみせた。
迷いや不安は取り敢えず吹っ切れたように見える。
つまり、これから彼女は意中の人に猛アタックを仕掛けていくのだろう。
非常に楽しみだ。
結果的に早期に結ばれれば、ボクの負担がごっそり減るし。
何より将来のバッドエンド回避確定だ。
この展開は予想外ではあるが、最&高な展開だ。
今日はもうこの結果が出ただけでヨシとしてもいい気さえする。
そして、そこまで考えた時。
「──うん?」
割と近くで、嫌な感じの喧騒が聞こえた気がした。