79 ゲーセンにて(Ⅱ)
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「教えてあげましょう、真の陰キャが使う気配遮断ゲーセン遊び術を!!」
まず大前提の話ではあるが。
私こと、悪役令嬢紫波雪風はゲームセンターに来たことがない。
まぁ当たり前と言っては当たり前の話なんだけども。
一応、大企業の創業者一族にあたる私が勝手に外出することなんて高校進学まで許されなかったし、万が一外出する場合も誰か大人と一緒で尚且つ品位ある振る舞いを強制させられていた。
だからこそ、紫波雪風はゲームセンターで遊んだことがない。
──あくまで、今の私は。
残念ながら、前世では別だ。
一時期不登校児だった私は、たびたび家を抜け出しゲーセンに入り浸っていた。
ここで大事なのは、トラブルを起こさないことだった。
平日の昼間からひとりでゲーセンにいる14歳女子が見つかってはならない人というのは、結構いっぱいいる。
こちらを訝しむ店舗スタッフ、サボりの不良、補導される可能性のある見回り教師に警察官、可能性は低いがクラスメイト。
彼らとのエンカウントを躱しながらのスニーキングミッション。
それには、だいぶ自信があった。
「まずはプリクラコーナー! 男子は立ち入り禁止な上中に入れば姿をある程度隠すことができますわ。基本はここを拠点にヒット&アウェイを繰り返しますわ」
「うん? 待ってなんの話?」
「プライス系で遊びつつ、ガラスの鏡面反射を利用して周囲にそれとなく注意を払いつつ、こちらを見つめる人影を見たら即時撤退! 店内を十分に回ってある程度撒いたらプリクラコーナーに隠れてやり過ごす。これを繰り返せばいけま──あ痛っ!」
熱量を込めて力説していると、急におでこに痛みが。
その犯人は──なんと遠野花鈴だった。
「今日は休みに友達と遊びに来てるんだろうが。なら変にコソコソせずに堂々と遊べ!」
そう言う彼女の姿が、何故かお兄ちゃんと重なる。
昔も、お兄ちゃんに同じようにお説教された気がする。
懐かしいその圧を受けて私は──。
「う、は、はい」
──悪役令嬢らしからず、素直に頷いてしまった。
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──思わず、紫波雪風にデコピンかましてしまった。
自分でも何故そんなことをしてしまったかわからない。
普段のボクなら絶対にしない行動だ。
じゃあ何故やってしまったのか。
──決まってる。
「今日は休みに友達と遊びに来てるんだろうが。なら変にコソコソせずに堂々と遊べ!」
紫波雪風の姿が、不意にダブって見えたからだ。
「う、は、はい」
まったく。
何故紫波雪風が前世の妹と同じような話をし始めるのか。
ボクが知らないだけで、あのやり方流行っているのだろうか。