67 次の作戦へ
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映画の上映が終了し、劇場ないがゆっくりと明るくなる。
私は開けていく視界をぽけっと見つめながら作品の余韻に浸っていた。
──めっちゃ面白かった。
探偵役の少女と助手役の冴えない中年男性というバディの活躍。
ミステリーでありながら、時にコミカルでクスリと笑えるシチュエーション。
散りばめられた謎や伏線が一気に繋がるクライマックス。
因果応報で犯人はきちんと捕まり、少女も中年も大事なくそれぞれの日常へ戻る大団円。
ボケっと余韻を噛み締めてると、左肩を叩かれる。
振り向くと遠野花鈴が視線で入口を示す。
そっか、早く出て行かないと邪魔だ。
「行きましょうか、滝沢さん」
「う、うん」
月乃さんに一声かけて私たちは立ち上がり、入り口に向かう。
私としては、一刻も早く今回の映画の話をふたりとしたくて仕方なかった。
しかし劇場内で騒ぐのはNG。
ちょっと我慢しなくては。
劇場の入り口を出ると、スタッフが飲み残し食べ残しの回収を行なっていた。
「すいません、お願いします」
私は飲み切ったドリンクの容器を女性スタッフに手渡す。
そして目の前の遠野花鈴は、スタッフに手渡す前に飲み残し回収容器の前に立ちドリンクの蓋を開け、大量に飲み残しを捨てていた。
「え、飲まなかったんですの!?」
「あー、うん。喉渇かなかったみたい」
あははは、と笑う遠野花鈴。
何故だかその瞳は、1ミリも笑ってない気がした。
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「え、飲まなかったんですの!?」
「あー、うん。喉渇かなかったみたい」
──じゃねぇんだよな!!
むしろ今喉カラッカラなんだけどな!!
結局、上映中一度もドリンクすり替える機会はなかった。
その結果、変な緊張感で喉が渇くのにボクは一滴もドリンクを飲めずに終わった。
紫波雪風は夢中になって映画見ていたみたいなので、この後もキノと会話弾んでしまうだろう。
迂闊にもナイスアシストになってしまった。
これではまずい。
「映画面白かったわね。ちょっと何処かでお茶しない?」
キノがそんな事を言う。
確かに映画面白かっただろう。
感想会とかしたいのだろう。
そこでボクは左腕を出して腕時計で時間を確認する。
時刻は13時ちょっと前くらい。
この時間ならピークは過ぎてるし、逆にちょうどいいだろう。
「もう時間も時間だし、お茶じゃなくてお昼にしよう」
ボクはそう発案する。
──そう、この昼食も予定の一つ。
紫波雪風を嵌める罠は何重にも張り巡らせている。
たかが第一罠が不発だったからなんだ。
次で巻き返しすればいいだけさ。
そう言う訳では、第二の作戦、開始である。