54 愛の告白はこうするんだ!(Ⅴ)
「僕の隣にずっといてください、花鈴!!」
偶発的に現れた杖助くんの普段とは違う強引な一面。
それを物陰から見た我々女性陣は。
「「「(キャーーーー!!)」」」
密かに、声にならない黄色い歓声を上げていた。
「よくない!? なかなか良くないですか滝沢さん!」
「うん! 全然ありだと思う! 萌え専門家の紫波先生の意見は!?」
月乃さんとアヤメちゃんが手と手を取ってぴょんぴょん跳ねながら興奮を露わにしている。
普段萌え的文化に疎い彼女らから見ても、この杖助くんの新ムーブは中々ポイント高く映ったらしい。
しかし、疎いからこそ自分の感覚に若干自信がないのか月乃さんはその是非を私に聞いて来た。
ソレに対する、私の意見はこうだ。
「ーーBrilliant.」
こんなの見せられたら、もう瞳を閉じて噛み締めながら拍手を送るしかないじゃない。
もう一介のオタクとしては、このシーンを生で見れただけで満足。
この世界に生まれた意味を今知ったと言っても過言ではない。
ーーこれは、イケるのでは?
遠野花鈴、流石に堕ちたのでは?
杖助くんはパッと見のビジュアルこそ陰キャオタクではあるが、素材の方は全然アイドル級なのだ。
ちゃんと見れば、かなりイケメンなのだ。
そんな隠れイケメンに迫られて、しかも彼の優しい性格もキチンと知った上で告白されたのだ。
私だったら陥落する自信がある。
「イケるぞ、これはーー!」
月乃さんとアヤメちゃんも同じ思いを抱いたらしい。
見つめ合うふたりの姿を、これでもかと凝視する。
その視線の先で、遠野花鈴が口を開く。
「ごめん、離して」
ーーそれは、ちょっと意外なほど冷めた声だった。
その声を聞いて、杖助くんはパッと肩から手を離す。
「その、ボクは君をそういう風に見た事ないんだ。 だから、ごめんね」
遠野花鈴は俯きながら、そう言った。
固まる杖助くん、凍る私たち。
舞い降りる沈黙、吹き荒ぶ風。
そのまま彼女は一瞥もくれずに、杖助くんの横を通り過ぎて、屋上を後にした。
「ーーどうしよう。私たち、宮古くんとリンちゃんを只々傷付けちゃっただけなのかな」
月乃さんが泣きそうな声でそう呟く。
自分たちは、身近な恋愛話に好奇心で首を突っ込んでダメにしてしまっただけじゃないのかと。
自分たちは、最悪なことをしでかしたんじゃないかと。
彼女の問いに、アヤメちゃんも俯いたまま何も言わない。
それは暗に、肯定と捉える事ができた。
重苦しい沈黙と罪悪感が場を支配する。
そんな中で、多分私だけが違うベクトルの感想を抱いていた。
「いや、多分アレは脈アリだよ」