21 馬鹿と主人公補正は使い用(Ⅳ)
ーーあれ?
階段前の扉、閉めたっけ?
「なんか、事件性がある悲鳴聞こえた気がするんだけど???」
ーーやばい!?
いや待て、それっぽい悲鳴は聞こえたけど私たち別にまずいことしてないし!
ただ親切心で鍛えて上げてるだけだし!
ーーいや駄目だ、普通に犯罪だ。
やってること、ほぼ拉致監禁に暴行だ。
全然犯罪行為だった。
バレるとまずいやつだー!!
どうしよう、どうすればいい?
誤魔化すか?
いや、どう誤魔化す?
例えば「あれは悲鳴じゃなくて、自家発電機の駆動音なんだよね!」と言うとか?
いや、どんな駆動音だよ!
毎日毎日地下からぎゃあぎゃあ音するとか嫌すぎる。
軽くホラーじゃん。
もういっそ、開き直って月乃さんをどうにかするか?
ーーそれこそ最悪の手段だ。
この世界の中心で要石である主人公をどうこうした場合、何が起こるかわからない!
下手したらバットエンドのフラグが立ってしまうかも?
ーーって、黙ったままなのも非常にまずい!
誤解が加速してしまう!
「あの、紫波さん?」
どうする、どうすればいい!?
あぁ、もうーー!
「ーーしゅ」
「しゅ?」
「趣味のモノですので、お気になさらず」
ーーーーうん。
「地下で、当家のメイドが趣味で男性の方々とそういう遊びに興じておりまして。どちらとも合意の上でのことなので、できればご内密にしていただけると幸いですわ」
俯きながら、早口で私はまくし立てた。
ーー沈黙がやばい。
ちらりと、月乃さんの顔を覗き見る。
黙ったままの彼女の顔は、だんだんと紅潮していっていた。
まるでリトマス試験紙のようだと、場違いな感想を抱いた。
「あ、えと。わ、わわ私こそごめんなさい、野暮なこと聞いちゃって! そ、そそそそれに今もう遅い時間だもんね! そ、そういうことしてても、しししsーー仕方ないかもネ!!」
はたから見ても、可哀そうなくらい動揺していた。
月乃さん、めっちゃ純粋な娘だった。
かわいい。
そんな中、いつの間にか悲鳴やらなにやらの音が聞こえなくなっていた。
たぶん、アヤメちゃんが閉めてくれたのだろう。
できれば、もっと早くやってほしかったが今回は私のミスなので責められまい。
気まずい沈黙が流れる中、応接室の扉がノックされる。
「失礼します」
そう言って静々と入ってきたのは、メイドのミオ。
彼女は上に紅茶と簡単なお茶請けの載ったトレーを手にやってきた。
ーーそんな彼女をみた瞬間、限界まで赤いと思っていた月乃さんの顔がさらに紅潮し、なんか蒸気すらでそうな感じに。
「あ、あも、あのしつれ、失礼しましたもう帰りますぅぅうううう!!」
そう叫びながらバックを抱きかかえて、半泣きで彼女は走って応接室を飛び出した。
突然のことで、あと私は直前までの動揺を抜け出せきれてなかったのもあって、彼女を呼び止められなかった。
ドタバタドンガラがっしゃーん、みたいな愉快な音が段々遠ざかり、月乃さんが屋敷を出たのが何となくわかった時点で、ミオちゃんが先に口を開いた。
「なんか、エネルギッシュな子ですね」
「オブラートに包んだ評価ありがとう」
まぁ、そこもまたかわいいポイントではあるけど。
でも、それにしてもなんでミオちゃんを見てあんなにーー。
「あ!」
そこまで考えて、ちょっとひらめくモノがあった。
私はうちのメイドがあんな遊びをしてると、月乃さんに言った。
そして、いつの間にか聞こえなくなった悲鳴。
その後に現れたメイドのミオちゃん。
ちらっと、ミオちゃんの姿を見てみる。
優しげで美人で母性的なミオちゃん。
月乃さんは、こんなミオちゃんがあんな遊びをしている張本人と誤解したのでは?
ーーーーうん。
ミオちゃんの次のボーナス、増額してもらえる様にお父様に掛け合っておこう。