20 馬鹿と主人公補正は使い用(Ⅲ)
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「さーてと」
キノが校門を出たことを後ろから確認して、ボクは踵をかえす。
彼女という刺客を紫波雪風の屋敷に送り込むことは成功。
これで彼女が誘拐の証拠かなんかを拾ってきてくれれば上々。
そうじゃなくとも、向こう側がバレるのを警戒して何か変なアクションを見せてくれれば、その尻尾をつかんで引っこ抜けるからまぁ良し。
悪くても、証拠が出ないように何か裏工作してふたりを開放って流れになるだろう。
ーーなる、よね?
まぁ、現時点での最善手は打ったし、ボクはボクで自分の計画を進めなければ。
そう思い、暮れる夕日を背にして制服の胸ポケットから手帳を取り出す。
「やっぱ、試合で失った自信は試合で取り返さないと」
そう思いながら、使えるコネクションがないかメモに目を走らせた。
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月乃さんの襲来をアヤメちゃんから知らされた私は、彼女と共に急いで地下ホールから走って月乃さんを待たせてあるという応接室に向かった。
「ご、ごきげんようこんばんわですわ、滝沢月乃さん!」
ばたんと扉を開けて開口一番に、こう、先制攻撃するつもりで声をかける。
「あ、こんばんわだね紫波さん」
部屋の中で彼女は、所在なさげに椅子に座ることもなく立ったまま待っていた。
その姿を見て、隣に控えていたアヤメちゃんにこそっと話しかける。
「ーーお茶もまだ出してなかったの?」
「あ、ごめんなさい!」
「ミオちゃん呼んでお出しして」
「かしこまりました!」
慌ててアヤメちゃんはミオちゃんを呼びに行った。
その後ろ姿を見ながら、彼女は他ふたりよりもやっぱりメイドとしての完成度がちょっと低いなって思った。
「さ、さぁ月乃さん此方にお掛けなさってください」
「ありがと」
私が着席を促すと月乃さんはストンと応接用の椅子に座ってくれた。
ソレを見て、私も反対側へ座る。
そして早速、本題を切り出してみよう。
「月乃さんはどういったご用件で?」
「あ、これを渡しに来たの」
そう言って彼女が一枚のクリアファイルをテーブルに置く。
私の方が正位置になるように置いてくれたそれを貰い、中身を見てみる。
中身はなんてことないプリントだった。
強いて言うなら、明日提出のモノではあるけど。
ーーコレ、私もう提出済みだったような?
「なんか忘れ物だから届けて欲しいって、紫波さんのクラスメイトの人が言ってたみたい」
「え! そうなんですの!?」
それは助かったわ。
提出したと思ってたのは勘違いだったみたい。
あとで、その方にはお礼をしないと!
私、クラスでは浮いていてあまり良く思われてないというか、避けられているような気がしてたのだけど、案外気のせいなのかしら?
ーーいや、そもそもその人が届ければ済む話を月乃さん仲介させる時点で避けられてるのか。
そう思って、結構がっくりとした。
「大丈夫?」
急に落ち込んだ私を月乃さんが心配して声をかけてくれた。
やっぱり月乃さんは優しい。
優しいし可愛いし、天使と言っても過言じゃない気がする。
そんな彼女をちゃんと守る為に、私も頑張らないと!
遠野花鈴がまた何か邪魔してくるかもしれないし!
「そう言えばなんだけど」
「何かしら?」
「うーん、向こうから何か騒がしい声?音?がする気がするんだけど、もしかして何かやってたの?」
向こう、と言われて彼女が言った方向を見る。
その方向の先には、地下へ向かう階段が。
ーーあれ?
階段前の扉、閉めたっけ?
「なんか、事件性がある悲鳴聞こえた気がするんだけど???」
ーーやばい!?