17 悪役令嬢的なやり方(Ⅲ)
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そして、私たちWモブを攫ってだいたい五時間ほどが経過した。
「ーーう、うぅん? はっ!?」
長らく気絶していたモブ彦がーーモブ彦だよね?
こっちモブ雄だったっけ?
まぁ、いいや。
兎に角、モブ彦 (仮)が目を覚ます。
「こ、ここは?ーーって元雄!」
そういってモブ彦ーーで正解だったよかった。
モブ彦が隣で寝ているモブ雄を揺すって起こす。
「信彦? ここは?」
「わからない」
ふたりはそう言って周囲を見渡す。
そこはコンクリートの床であること以外、薄暗くて周囲の状況がわからない場所であった。
状況が呑み込めず、警戒心を高めるふたり。
そこで、ぱっと彼らの目の前に明るいライトが点灯し、その光の下にひとりの少女が現れる。
「ようやく目覚めたわね!」
ーーそう、紫波雪風です。
腕組みをして仁王立ちになって表れた私の姿に、ふたりは一瞬あっけにとられたように茫然とした表情をさらす。
「お、お前はあのイカレ女!!」
コイツら、ここでボコボコにしてやろうかしら?
一瞬そんな思いが頭を過った。
しかし、私は冷静に彼らに状況を説明する。
「アナタ方をここ、≪紫波家地下闘技場≫にご招待いたしました」
そう言ってパチンと指を鳴らすを、遠くでそれを見ていたアヤメちゃんが照明のスイッチを入れ、この部屋全体が明るく照らされる。
ここは、私が暮らす屋敷の地下にある多目的ホール。
床を含め全面コンクリート、広さはだいたいサッカーコートほど。
ちなみに地下闘技場っていうのは、今なんとなく言っただけで元々そんな用途の空間ではない。
「アナタ方には、ここで特訓してもらいます。さぁ、足元の竹刀を手に取りなさい」
ここでふたりは、自分たちが縄で拘束されていないことと足元にある竹刀を発見する。
するとふたりは顔を見合わせて頷きあうと、竹刀をもって構えを取った。
ーー私に対して。
「悪いな後輩、こんな犯罪まがいの状況じゃ手段選んでられねぇんだわ」
「流石にふたりがかりで女の子ひとりを武器ありでボコるのは気が引けるから、痛い目見る前にここから出しな」
どうやらふたりはここでの特訓とは、自分たち同士を戦わせる系だと思っているらしい。
そして、それを拒否して私を倒して脱出しようとしていると。
「勘違いなさいませんように。アナタ方のお相手は、彼女よ」
そう言って私は視線で彼らの後ろを指し示す。
釣られて後ろを振り向いたふたりが見たのはーー。
「ーーおふたり共、走馬灯を見る準備はしてきましたか?」
瞬間、少年漫画のようにモブ雄が吹き飛んだ。
三メートルほど飛んだ彼を目を丸くしてモブ彦が見つめる。
そして、油を差し忘れた絡繰りのようなぎこちない動きで、友人をぶっ飛ばした化け物の方を再び振り向く。
そこにいるのは、血糊のついたホッケーマスクを被り、竹刀を手にしたメイド服の女という日常生活ではまず目撃しないであろう恰好の人物。
正体は、私の自慢のメイドの一角であるフブキである。
「フブキ、遠慮なくやっちゃいな!」
「かしこまりました、お嬢様」
そう言ってフブキが竹刀を再度構えてモブ彦に迫る。
「先輩たちが彼女に一発でも当てたら出してあげますから、頑張ってくださいね」
ちなみにフブキは、以前は中東諸国を渡り歩いていた凄腕の傭兵だったらしい。
私は、彼女より強い人間を知らない。
そんな彼女相手に、ちぎっては投げ、ちぎっては投げされてジャグリングの如く宙を舞い続けるWモブ。
「ふざけーーぎゃー!!」
「お、ちょっと待て!せめて防具!防具をつけさーーがはっ!!」
「フブキ曰く、痛みがないと成長速度が落ちるらしいので却下でーす」
何故こうなったかというと今回私は、このふたりに少年漫画的な修行パートを強制的にさせることにしました。
「やっぱり元が弱いから、このようなことになったんだと思うんですよ。 だから、フブキに死ぬ一歩手前まで痛めつけーーごほん、訓練してもらって強くなっていただこうと」
物陰からアヤメちゃんが、「本当にこれ、大丈夫なのか」とドン引きした様子でフブキ無双を眺めている。
まぁ、大丈夫でしょ。
少年漫画だと定番だし。
ーー私的には、意外と名案だと思うんだけどそうじゃないかしら?