118 ゴテゴテの後手(Ⅲ)
「し、しししし紫波さん、ちょっっっといいかな!?」
「は、はひぃ」
必死すぎる形相で自宅凸を敢行してきた月乃さんに若干ドン引く私。
本来ならきちんと車内に迎えて話し合いたいのだけれど、今の彼女を招き入れるのがちょっと怖いと感じるレベルで必死。
私、めちゃくちゃにされてしまいそう。
「いやでも、月乃さんにされるなら有りっちゃ有りか」
「何を馬鹿な事を」
だって顔が良いし、可愛いし。
いやまぁでもこのままだと埒があかないし、さっさと彼女を招き入れましょう。
「月乃さん、取りあえず車内へ」
フブキが運転席で操作して後部座席のドアを開ける。
月乃さんはフブキに一礼して素直に入って来てくれた。
「ひとまずこのまま学校へ向かいますわ、よろしくて?」
こくりと頷く月乃さんを見て、フブキはゆっくりと運転を再会した。
そして、ここからが私の戦場。
「さて、月乃さんが来たのは遠野花鈴が誘拐された云々という話ですか?」
「そう、そうなの。昨日の夜にリンちゃんのお母さんからリンちゃんが帰ってこなくてって連絡もらって私心当たりなくてGPSも反応なくて、そしたら深夜に脅迫状が届いたみたいで」
今、さらっとGPSの話出たけどまじであの後付けたんだってちょっと引きますわ。
「じゃあ犯人を刺激しないように、ひとまずいつも通りの生活を送るべきでは?」
「で、でもリンちゃんが怖い思いをしているかもしれない時なのに普通でいられなくて! だから、紫波さんなら何か力になってくれそうかなって!」
まず初めに私を頼ってくれたの!?
ありがとう月乃さん、しゅき!
などと嬉しさのあまり口走りそうになったけど必死で堪える。
「私を頼りにしてくれたのは嬉しいですが」
「──ですが?」
「い、いやあの、つ、月乃さん?」
か、顔が近い。
あと心無しかお目々のハイライト消えてませんかっ!?
すっごい嫌な予感がして、私は急いで話を逸らす。
「と、兎にも角にも一度学校へ! ソレからでも遅くない筈ですわ!?」
そう言って一度強引に話を断ち切る。
しかしそのあと、月乃さんは非常に気になる一言を呟いたのだ。
「──やっぱり、あの噂は本当だったのかな?」